第8話
この小競り合いは、〝コウテイ会〟に対して行われた襲撃からの流れと同じ様にして発生し、別のガオワン・マフィア同士との銃撃戦に発展していた。
ただし、襲撃犯が爆発した際に複数人の死者が出た事もあり、停戦交渉中も構成員同士がにらみ合っていて手が出ていないだけ、という状況になっていた。
「あ、今回も居ますね。軍の方」
「どこだ?」
「カガミさんから見て8時の方角の、ちょっと離れた所に緑のビルあるじゃないですか」
「ああ」
「その右隣のビルの間へ、似たような動きの人が入っていったのが映ってました。よく見たらアクションカメラ持ってますねこの方」
「そうか」
「ちなみにですが、監視カメラはクラッキングされていて、映像が差し替わっていましたね」
「なに? つまり組織的な行動だという事か……」
「そうなります。いよいよきな臭くなってきましたね」
「ひとまずその人物を取り押さえねば――」
「カガミ、流石に愛する人のために職務放棄はダメじゃない?」
監視を投げ出して、その曰く付き軍人の確保へ向かおうとカガミが
「主任……ッ しかし……」
「責めてるんじゃなくて、するなら代わりを見付けなさいって事よ。で、助手ちゃん。件の人物はどこに居るの?」
「はいはい、今座標と画像送りました」
「どうも」
ごもっともなのは分かっているので、焦った様子で踏み出そうとはするが動きだけのカガミへ、私に任せなさい、と言ったツルギは、ナビから聞いた座標へとビルを飛び移って向かった。
約3分後。
「はい。確保したわよ」
戻ってきたツルギの肩には、頭部がサイボーグ化された男がぐったりとした様子で担がれていた。
「手を煩わせてすまない……」
「別に仕事の一環よ。まったく、課長も公私混同のチキンレースなんてよくやるわね」
「えっ」
パチパチと瞬きするカガミへ、自分が休日返上で彼女のバックアップ要員を指示されている、とツルギは呆れた様子で説明し、小さく笑いつつかぶりを振る。
「すまない。父が迷惑かける……」
「1番胃が痛いのは課長だからいいのよ。さてと、本部に連れて行っていろいろ尋問しなくちゃね」
それじゃあね、と小さく手を振ったツルギは、4つほど後ろにあるビルを飛び移ってて、公安の覆面車両を停めている通りへと飛び降りた。
「アイーダさんのためになるので良いんですが、ぶっちゃけ子離れ出来てませんよね」
「否定はしない……」
額を抑えているカガミが背中を丸くしている間に処理が終わって、罵倒の応報がありつつも双方が引き揚げていった。
「そろそろ戻ろう。君の本体がいるから危険は無いとは思うが……」
それを見届けて課長に報告したカガミは、今度こそ武器を戻しに支部へと移動しつつ、落ち着かない様子で事務所のある方を見やる。
「まあ、あなたの同僚の方も近くの建物にいますし」
「? 主任は……」
「じゃなくて若い男の人ですね」
「若い男というと――クサナギ、今アイーダ探偵事務所の近くにいるのか?」
「いますよー。分かってるなら早く帰ってきてもらって良いですかね。主任に押しつけられただけで、自分も案件抱えてるんですよね」
近くに同僚、と聞いて首を傾げたカガミは、若い男、と追加で聞いて同僚のクサナギ・タケルに電脳通信をかけると、彼のため息が交じったぼやきが返ってきた。
*
「大将閣下、
捜査情報と存在しないことになっている軍人から、司法取引で得た情報から首謀者を特定した課長は、ツルギとギボシを携えて陸軍大将の執務室に乗り込んだ。
「はて、何のことかね?」
大将は席に着いたまま机の上に肘を置いて指を組み、穏やかに微笑みを
「見え透いた嘘はいけませんな閣下。我々の
腹黒いキツネを思わせる風格の大将へ、課長は演技がかった声色でそう言いつつ、ゆっくりとかぶりを振る。
「シチシ」
「ええ」
鋭い目つきになった課長の呼びかけに答えたツルギは、ホログラム画面を表示して、合成チェッカーで無使用と表示された音声を流す。
それには、陸軍の予算を得るための実績作りをするため、警察から護送中に拉致した死刑囚を使って、作戦成功して帰ってくれば無罪放免と唆し、裏社会での騒乱を起こすための火種として使用する事を決定する会議が記録されていた。
データの出所はこの会議に参加していた、海軍の人間からの提供だったが、課長はその事には一切触れなかった。
「この様なものは、いくらでも捏造できるのではないか? 例えば、全身義肢ならば容易に可能なはずだろう?」
「これは証拠の1つでしかない。実際に我々は
後ろにいる2人を挑発するように、表情は変えずに底意地が悪い粘り気のある声を出す大将の言葉を無視し、襲撃の実行犯になる予定だった、死刑囚の聴取の様子を流した。
捕らえた非正規軍人からの情報提供で、襲撃地点に先回りして確保したその死刑囚は、非正規軍人の話した内容と遜色ないそれを話す。
ちなみに、司法取引により死刑囚は死刑から終身刑に減刑されていた。
「――社会のクズを潰すことが悪か?」
「なに?」
「社会のクズを潰すことの何が悪だというのだ。いくらでも湧くクズを根ごと潰すことは正義に他ならない。公安も民衆も死ねば死ぬほど都合が良いはずだろう?」
本当に何を責められているのか分かっていない様子で、大将は眉を上げて大真面目にそう言い放った。
課長はそのあまりにも歪んだ認識に絶句し、続きは本部で訊くとしよう、と呻くように言った後、
「これは私個人としての言葉だが――貴様はッ! 人命をただの数字だとでも思っているのかッ!」
手錠をかけられ、ツルギとギボシに両脇を抱えられた大将へ、その背を向けている課長は、ワナワナと震えながらその筋骨隆々の肩を怒らせて叫び、机を両掌でぶっ叩いた。
「……貴様をその1つにしてやりたいところだが、それを決めるのは法の仕事だ」
振り返った課長が、虎の様に
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