第7話
ややあって。
「な……、なんだこれは!? どうして受け付けないんだ」
39階の電算室にいるカネイズミの本体は、焦りの表情を浮かべながら、会社システムへ侵入した〝機械仕掛けの悪魔〟の強制停止コードを入力していた。
だが、権限がカネイズミにはすでにないため、ズラリとログに並ぶ拒絶の文字列をさらに増やしているだけだった。
「ほれ、やっぱりアタシ達の乱入は筋書きに無かったみてえだぞ」
「残念ながら、アイーダさんに権限を移しましたよ。どうやって? 私はアルティメットなのでそのくらいは出来ちゃうんですよ! わー、優秀ですねー私。でもこんな高性能なのはあなたの功績じゃないんですよー。あ、黙っているっていうことは賛同ですね」
「いや、アイツ今なんも言えねえだろ」
ナビに電脳へ侵入されていたカネイズミは、閉鎖モードで身動きを封じられ、目の前に突然2人と1体が現われた様に錯覚した。
「こんなアホ面
「ああ。面目ない」
殺意と共に銃口を向けていたカガミだったが、あんぐりと口を開け鼻水を垂らしている中年を見て、殺すことすらバカらしくなり銃を下げた。
「カネイズミ・ナリヤ。お前を殺人等、多数の容疑で逮捕する」
ため息の後にナビが脅して出させた礼状を読み上げ、カガミは腰の後ろにマウントされた電脳ロック装置を装着した。
「良かったのか? 殺さなくて。わざわざ射殺可の令状出させたのに」
「ああ。どうせ極刑になるだろうし血税の無駄だ。それに、これをさらし者にする方がよりスッキリする」
「へっ、ちげえねえや」
なんの達成感もなさげにさらりと言い、こめかみの辺りに触れ部隊長への連絡を始めるカガミへ、アイーダは肩をすくめてニヒルに笑った。
「こちらヤ――」
「おいカガミィッ! 無事かッ!?」
上司に
「……いきなりどうした」
「……例えるなら、耳元で拡声器を使われた感じ」
「なるほど……」
急にコミカルな挙動をしたカガミを見下ろす、目を丸くしているアイーダへ、カガミは起き上がりながら顔をしかめてそう説明した。
「昔から慌てると音声絞ってくれないから電脳に悪いんだ……」
「上司ってあんたの後見人だっけか」
「ああ」
下がり眉のカガミは、通信の音声出力を絞ってから再度上司にかける。
「いきなり切るなよッ!」
「だってうるさいから……」
出力は適度になったものの、過剰に入力されているせいで音割れしている上司の声に、カガミは迷惑そうに眉間にシワを寄せてそう返す。
「……上司としての立場からは、よくやった、と言っておく。それはそれとして単独先行の件はこってり絞るが」
「はい……」
「で、親代わりとしてのそれは、そんな大それた事を考えていたなら、私にちゃんと相談しろ。そして保険も無しに危険な事をするんじゃない。この跳ねっ返り娘め」
「うん……」
それを聞いたカガミの、機能の3割も使えていなかった鉄仮面の様な硬い表情が、溶ける様に緩んでほころび、洗浄機能を代用する事で流せる涙を初めて流した。
横目でそんなカガミを見ていたアイーダが、笑み交じりに1つ息を吐いた様子に、うっとりとナビは見とれていた。
「じゃあ、部外者はとっとと引き揚げるとするか。ここにいちゃ何かと面倒だ」
「そうですねー。でも、お家無くなっちゃいましたけど、どうします?」
「あー……、そうだった……」
頭の後ろで指を組んで、電算室から退出しようとしたアイーダだったが、ナビから辛い現実を突きつけられて膝から崩れ落ちた。
「その日暮らしは慣れたもんだけどよ、まさかホームレスになるとはな……」
「安心して下さい! 例えガード下だろうとナビちゃんはいつでも一緒ですよ!」
「お前で雨風が凌げれば良かったのにな」
「ぬぬ。実体があればなんとか……」
「いや、どんなサイズになるつもりなんだお前は」
「そりゃあもう、搭乗型スーパーナビちゃんぐらいの勢いですよ」
「何兆かかるんだか」
「冗談はさておいて、ナビちゃんのスーパーパゥワでお宿ぐらいは用意出来ますが」
「丁重にお断りだ。伝家の宝刀はなかなか抜かねえから価値があんだろうが」
「アイーダさんならそうおっしゃると思いましたよ。で、どうされます?」
「どーすっかなあ……」
バターン、と大の字になって天を仰いでいるアイーダの様子を、肩にカネイズミを担いでいるカガミが何か言いたそうに見ていた。
「アイーダさん、そこの人があなたにご用事みたいです」
「ああん? どうしたよ」
「一応、事件の被害者ではあるから、当面の住居は当局が提供する制度があるんだが……」
「お、そうか。そりゃ助かった」
「だが、それ用の住居に空きがないんだ」
「ダメじゃねーか!」
「本当、肝心なときに使えませんねお上は」
「申し訳ない……。私の自宅でもよければ一応提供でき――」
「してくれ! 頼む! この通り!」
「わーッ! アイーダさん、あなたプライド無いんですかーッ!」
「今は行方不明だからな!」
政府の代わりにナビの皮肉へ頭を下げたカガミが、せめてものお
「――わかった」
「あー! 何笑ってるんですかーッ!」
「あ、いや、済まない。あなた達はどんな時でも変わらないから安心したんだ」
うがー、とナビに指をさされて指摘されたカガミは、馬鹿にした訳では無いんだ、と空いている手をバタバタさせて弁解した。
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