プロトコル・サンタクローシズ

第1話

 マフィアまがいの巨大企業に、裏から支配される事でお馴染なじみのネオイーストシティにすら訪れる聖夜。


「はい! というわけで良い子のナビちゃんはプレゼントが欲しいのです!」


 その一角にある安飲み屋街・酩酊通りドランクストリートのアイーダ探偵事務所にて、訳あって超高性能人工知能搭載介護アンドロイド・ナビは、ミニサンタの格好をして主人にたかっていた。


「無えぞ」

「そーですよね! ナビちゃんはいつだってアイーダさ――って何でですかーッ!」

「何でもクソもねえよ。3日前のアレで税金分まるっとマイナス吐いてんだぞ。そんな余裕は無え」


 胸を張って腕を組み、うんうん、とフワフワと高い声でしゃべって頷いていたナビは、ざっくりと発言を切り捨てられて前のめりにずっこける動きをした。


「押しかけ同居人のジャンボタヌキさんに払わせればいいのでは?」

「なんだその水田の厄介者みてえなのは。ただでさえアイツにここ買わしてんのに、んなみっともない事出来るかっての」

「いつもの行方不明芸はどうしたんですかーッ!」

「ちょうどベガスへ旅行中でな」


 ブースカ文句垂れるナビへ、ソファーに寝っ転がって拠点防衛クリスマス映画を暇そうに見ているアイーダは、とことんにべもなくそう言った。


「つかお前、AIなんだからよい子もなんもねえだろ」

「ナビちゃん1・00のロールアウトは7年前なのでセーフですよ! ナビちゃんは可愛い盛りなのです」

「精神的にガキじゃねえから対象外だ」

「そんなことないもん! なびちゃんはそだちざかり!」

「じゃあ飯代に消えたから無しだ」

「……けちー」


 無駄に甲高い声で、両手のドーナツへ交互にかぶりつく動きをしてアピールするが、アイーダに鼻で笑われて相手にされなかった。


「仮にやるとして何が欲しいんだよ」

「そーですねぇ――」

「フルアーマーは無しな」

「……」


 わざとらしく首を傾げて考えているナビは、アイーダから先にその答えを言ってしまわれ、口を尖らせて黙った。


「なんでまだそんなこだわるんだよ。カガミがいりゃヒグマまでは撃退できんだろ」

「ヒグマはともかく、例えば今、狼藉ろうぜき者が突入してきた場合、私は盾にしかなりませんからね?」

「安心しろ。そんなクサレ脳みそのバカ野郎はな、ここに来るまでにカラスのエサになってっから。で、どうせ公安の連中がその辺にいるだろうし、ますますいらねえの」

「あー、確かにいますね……」

「だろ」


 周辺の通信をスキャンして他の課の捜査官を発見し、眉間にシワを寄せるナビは、諦めろ、とアイーダから言われちょっとねた。


「――しっかし、何が悲しくてイブに三十路みそじのババアを警護せにゃならんのだ」

「――せっかくなら若い芸能人のネーチャンとかのが良いよな。ロボの方はガキだし」


 その状態で、うっかり通信を傍受したままにしていたナビは、捜査官の愚痴を耳にして、


「アイーダさん、こんな事言われてますが」

「よし、3回回ってワンと言わせとけ」

「はいよろこんでー」


 それを瞬時に録音していたナビは、アイーダに指示を仰いで、無礼者に突飛な行動をさせた。


「まあでもアレだな。その強カッコイイのを諦めないのは確かに童心に帰れてるし、サンタに認定して貰えるといいな」

「そんな気が8割ぐらいですけど、褒められてるということにしますね!」

「おうそうだ。褒めてるぞー」

「わーい……?」


 笑ってはいるが、若干納得がいかない様子でクルクル回って、私は褒められているのです、とナビは自分に言い聞かせる。


「いつまで回ってんだ」

「可愛くもないし面白くもないのでもうやめまーす」


 数十秒後にナビが回転に飽きて止まり、アイーダの足元に腰掛けたところで、


「ああ、良かった。いた」


 カガミが発泡スチロール箱を小脇に抱えて事務所のドアから帰ってきて、2人が揃っている事に安心して安堵あんどの息を吐く。


「何の心配事があるってんだよ」

「ああいや、その、アイーダさん程にもなれば、呼ばれたり……、その……」

「しけ込む訳ねえだろ。貧乏暇無しだからな。働かねえと」

「まあ、お仕事も来なくて絶賛暇なんですけども」

「……パーティーに誘ってくれる相手がいねえとか、そういうのじゃねえからな! 断じて!」

「相手なら私がいますからね」

「私も、だ」

「お前ら身内みたいなもんじゃねえか……」


 強がってはいるが思いきり下がり眉であったため、ナビとカガミはうんうんと頷いて、起き上がったアイーダの左右にそれぞれ座る。


「もう仕事良いのか? なんか時間かかりそうみたいな話だったろ」

「事後処理を急いで終わらせてきたんだ」

「別に仕事詰めでも良かったんですけどね」

「そういうこと言わねえの」


 一応、大元はめでたいとされる日なんだからよ、と言って毒舌を飛ばすナビをいさめてから、


「ところでなんだこの箱?」


 カガミがローテーブルに置いた、白いビニール袋に入ったスチロール箱を指さして言う。


「ああ、職場で貰ったローストチキンだ。バイオどりではないそうだ」

「本当ですかー? ここでナビちゃんの127の秘密機能の1つ! トレーサビリティチェーック!」

「なんか数増えてねえか?」

「それは秘密なのか……? 民間のサイバー端末経由でも見られるが……」

「カガミさん。私がそんなしょうもない事やるとでも?」

「まあ、そうか」

「同じ物なんですよねこれが」


 ドヤ顔でアイーダを挟んでナビからの視線を浴びるカガミだが、結局、秘密でも何でも無かったのでアイーダと一緒に前へずっこけた。

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