第19話 義妹とクッキング!


 俺の部屋で雪音とダラダラした後、時計の針が七時を回ったのを見て夕飯を作ろうとキッチンに向かった。

 普段は冬子さんが夕飯を作ってくれるのだが、いないときは俺が作ることが多い。


 元々父さんと二人暮らしで、夕飯は俺の担当だったのでこれくらい朝飯前だ。


「さてと、適当にラーメンでも作るかなっと……って、雪音さん?」


 フリフリの付いた花柄のエプロンを身に纏った雪音が、俺の隣に立つ。


「私も手伝う。ラーメンだったら簡単に作れるし」


「そっか。じゃあ雪音は麺をゆでてくれ。俺はトッピングを充実させとく」


「分かった!」


 せこせこと動く雪音を横目に、俺も作業を進める。

 数分経ったところで、雪音が「あ」と声を漏らした。


「そういえばごめん、兄さん」


「なんで雪音が謝るんだよ」


「だ、だって……私、エプロンなのに裸じゃないから」


「裸エプロンが当たり前の文化圏じゃないぞ⁉ いや、そんな文化圏ないけど!」


「でも、兄さん裸エプロン好きでしょ? 今から脱ぐでも許してくれる?」


「いいからいいから! ってか、裸エプロンとか危ないからダメだ!」


「そ、そうだよね……兄さんの理性が危ないもんね」


「確かにそれもそうだけど、俺が今言ってたのは別の意味な⁉」


 雪音自身でも裸エプロンが凶器であることを自覚していたのか。

 でも、自覚している方が怖い。雪音ならその凶器を使いこなしかねない。


「エプロンは衣服の上から着用でお願いします」


「……兄さんは着衣派」


 ボソッと雪音が呟く。


「そういう意味じゃない! エプロンは正しい着方で! 以上!」


 強引に話を切り上げ、淡々と食材を切る。

 このまま雪音に乗せられてはキリがない。


 隣で沸騰した鍋に麺を入れていく雪音。


「兄さん、このままスープも作った方がいい?」


「あぁ。でもそれは麺が湯上がってからでいいよ。どんぶりに入れるときに、そのお湯使うから」


「このお湯を……分かった!」


 ふつふつ、とお湯が沸騰する音が響く。

 さらに数分後。ようやく麺が茹で上がり、俺が切ったトッピングを盛り付けて三好家特製ラーメンが完成した。


「よし、これを食卓に持って行って……って、雪音?」


「ひゃいっ⁉」


 どんぶりをじーっと見つめていた雪音に声をかけると、驚いてあたふたし始める。


「な、何兄さん⁉」


「いや、なんか雪音がボーっとしてたから」


「そ、そんなことないよ⁉ うん、全然⁉」


「……なんか俺に隠してる?」


「ギクッ」


 今ギクッ、って言ったよな?

 俺が問い詰めるように視線を向けると、雪音の目が泳ぎ始める。


「そ、それより兄さん! 兄さんの分のどんぶりは私が運んであげるよ!」


「お、おう。ありがとう」


 逃げるようにパーッとテーブルにつく雪音。

 怪しみながらも、俺は雪音の分のどんぶりを雪音の前に置いた。


「じゃあ兄さん、いただきまーす!」


「いただきます」


 早食いのスタートダッシュ並みにラーメンに食いつき、「ん~!」と雪音が頬を緩ます。


「おいしいよ兄さん!」


「それはよかった。味はどんなもんかなっと……ん、おい――ん?」


「ぴくっ」


 口に入れてすぐはちゃんとラーメンの味だった。

 でも後から鼻に抜けていく、明らかにラーメンじゃないこの風味。

 

「なんだこれ。……もしかして雪音、なんか入れたか?」


 俺が聞くと、雪音がわなわなと右手を横に振る。


「い、いや入れてないよ! で、でもあれかな? 強いて言うなら愛情かな? 兄さんへの私の想い、すっごく入れたし!」


「…………」


 もう一度一口食べて、不思議な風味を確かめる。


「うーん……そう言われれば、そうなのか?」


 隠し味は愛情です、みたいなのよく言うし。

 それに雪音の俺に対する愛情は重いし歪んでるし、ほんとに愛情に味があるならこんな味がしそうな気が……。


「そうだよそうだよ! ほら、作り手によって味は変わるでしょ? それそれ! 私の兄さんに対する愛情に違いない!」


「……まぁ、そういうことでいいか」


 別に食べられない味ではないので、気にしないことにする。


「ふぅ、よかったぁ」


 隣でほっと胸を撫でおろす雪音。


「何がよかったんだ?」


「い、いや! 私の愛情が兄さんの体内に入っていってよかったなって!」


「うわそう言われるとすごく食べたくなくなるんだけど⁉」


 愛情が体内にって、気持ち悪いな。


「えぇどうして? 可愛い妹の愛情を摂取できて兄さんも嬉しいでしょ?」


「嬉しいわけあるか! あれだからな! バレンタインのチョコに体液入れる奴と同じ思考だからな!」


「あ、体液を入れる手があったか! 入れればよかったね、兄さん!」


「そんな手あるかぁッ!! 入れてたら吐き出してるわ!」


「……今からでも入れようか?」


「今俺が断ったの聞いてなかったのかな⁉」


「兄さんのことだから、照れ隠しかと思って……ね?」


「照れゼロのガチ真顔拒絶ですが⁉」


「照れ隠し上手だね、兄さん!」


「照れ隠ししてるのが軸になってるのがキツすぎる!」


 重いツッコみの超絶コンボに息を切らす俺に対し、ニコニコと笑みを浮かべる雪音。


「なんだったら、今チューする? それもディープなやつ! というかしたい!」


「しません!!!」


「するの!」


「だから俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 

 これから雪音が料理を作るときは、体液を入れてないか確認しようと思った俺だった。

 

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