第11話 太陽が悪いもんね!
――チュンチュン。
小鳥鳴き声がかすかに聞こえる。
どっぷりと沈んでいた意識が徐々に浮き上がり、新品の日差しを浴びてゆっくりと目を開けた。
「ん、ん……もう朝か」
目覚ましが鳴っていないという事は、早く起きてしまったらしい。
だが、目覚ましが鳴るまでは寝ても遅刻はしないので、二度寝をしようと寝返りを打つ。
ちょうど手を伸ばした先に何かがあったので、抱き枕だと思い抱き寄せた。
「(柔らかいな……それにいい匂いもする。俺、抱きしめたらこんなにも幸せな気分になれる抱き枕とか持ってたっけ)」
意識は朦朧としていて、目も開けたくないのでそのままぴったりと抱きしめておく。
「ん、んぅ……兄しゃあん。そこはダメだようぅ」
「んー……気持ちいいなぁむにゃむにゃ」
「兄さんのえっちぃ……」
「…………」
「…………」
…………。
…………。
「(………あれ? 俺抱き枕なんか持ってたっけ?)」
瞬きをゆっくり、三回。
抱きしめているものを見て、また三回。
「どうぅわぁぁッ!!!!! ゆ、雪音⁉ なんでここにいるんだよ⁉」
すぐさま雪音から距離を取る。
「ん、んむぅ……あれ? 兄さんだぁ……おはよう」
「おはようじゃないわ! なんで雪音が俺のベッドにいるんだ⁉」
「今私のこと抱きしめてなかった?」
「それは後でいいから今は俺の質問最優先!」
「兄さんはせっかちだなぁ」
雪音が頭を掻きながら体を起こした。
「なんでって、私が兄さんのベッドにもぐりこんだだけだよ?」
「それが『だけ』なわけあるか!!」
「えぇーいいでしょ? せっかくのダブルベッドなんだし」
「大きいからいいとかじゃなくて、俺たちは兄弟! それも年頃の!」
「……じゃあ、兄さんは私と一緒に寝たくないの?」
雪音が目をうるうるとさせて言う。
その手に出られては、俺も反論しづらい。
「そういうわけじゃないけど……俺に何も言わずに潜り込むのはダメだ」
「えぇー」
「えぇーじゃない!」
「……分かったよ。これからはあらかじめ言うね♪」
「そういう問題じゃなくてだな……」
顔をしかめていると、雪音が腕をいっぱいに広げ俺の背中に抱き着いてきた。
「お説教はやめて、私とイチャイチャしようよ兄さん~!」
「ちょ、お、おい! 朝からやめろ!」
「やめろって言いながら、力づくで振りほどかない兄さんは優しいなぁ。好きだなぁ」
「っ! こ、こいつめ……」
雪音は俺が兄であることを上手いこと利用しているみたいだ。
非常にタチが悪い。
「ふふふ、兄さん大好きだよっ♡」
「く、くぅ……」
苦悶の声を上げながらも、可愛い妹に愛されていることに若干喜んでしまっている朝の俺だった。
昼休み。
今日は珍しく中庭で伊万里と昼ご飯を食べていた。
丁度二人座れるベンチに腰を掛け、夏の近づいた太陽光を浴びる。
「……あのさ、妹離れするためにはどうしたらいいと思う?」
「あれ、シスコンやめるの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……どっちかっつったら、兄離れ? みたいな?」
「うーん、なるほどね」
俺の数少ない言葉でちゃんと理解した様子の伊万里。
「そんなに妹さん、ガツガツ来てるんだ」
「ま、まぁな」
伊万里はあの場にいたわけだし、俺と雪音の状況を唯一すべて理解できる人物だ。
そのため雪音に関する話を伊万里の前だと相談したくなってしまい、俺はさらに続けた。
「実は今日、朝起きたら同じベッドの中にいてさ」
すると伊万里が箸をぽろっと落とした。
「う、嘘……三好くんが童貞じゃない……?」
「あんま女の子が童貞とか言うな! あと、シてないからな別に」
「そ、そっか。それはよかった」
「まぁな」
あの鬼気迫る雪音を見ていたら、ヤったかもと思うのも無理はない。
「でもさ、雪音は俺の弱点完全に見抜いてて……というか、男の弱点ではあるんだけど、結構性的なアプローチしてくるんだよな……」
「ダメだよ? それに揺らいじゃ。分かってる?」
「わ、分かってるよ! 俺は雪音の兄貴でいたいし」
「そうだよね。三好くんってそういう人だもんね。うん、安心するよ」
「それはどうも」
伊万里がそう言うなら大丈夫と思えてくる。
「でも、もし三好くんがどうしても理性がもたないってなったら、その時は私に言って?」
「え、え? なんでだよ」
伊万里は、冗談なんて微塵も感じさせず、真っすぐに言った。
「その時は、私が三好くんの相手になってあげるから」
「……え、えぇ⁉ 何言ってるんですか伊万里さん⁉」
「だ、だって! じゃないと三好くんがお兄ちゃんじゃなくなるんでしょ? だったら、私が鎮めてあげるしか……」
「お、おい伊万里! 暴走してんぞ!」
「そ、そうかも! わ、私何言ってるんだろうね! あはは……」
パタパタと手を顔に仰ぎながらも、顔を真っ赤にする伊万里。
俺もまた同様に額に汗をかきながら、空を見上げた。
「あ、暑いな今日」
「そ、そうだね! 夏だもんねそろそろ」
「そ、そうだな……」
「「…………」」
顔の熱さを太陽のせいにする、青春な俺たちだった。
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