第10話 妹の宣戦布告
――さて、ようやく物語はプロローグを終え、始まっていくわけだが。
「兄さん兄さん! ね、えっちしよう?」
……さすがに予想外すぎるだろ、これ。
俺のベッドで露出の多い格好をした雪音が寝転がって俺を誘惑してくる。
雪音というのは別に俺の彼女でも、気になってる子でも同級生でもなく――俺の妹である。義理ではあるが。
「しないよ雪音」
「なんで? 別に減るものじゃないよ?」
「減るどころか無くなるわいろんなことが!」
「えぇー。むしろ増えると思うんだけどなー」
口を尖らせて不満げに言う雪音。
そんな雪音に出会った頃の大人しかった面影はなく、あの日を境に別人になったかのように変わってしまった。
いや、元々こんな感じだったのかもしれない。
「……兄さん、最近全然私に近寄ってくれない」
しょんぼりする雪音。
「そ、それは……近寄ったら雪音、抱き着いてきたり、なんなら舐めようとしてくるじゃん」
「ダメ?」
「ダメだろ!」
首を傾げて、上目遣いで聞いてくるもんだから、可愛くて思わず許してしまいそうになるが絆されてはいけない。
兄としての威厳と理性は絶対死守だ。
「兄さん、最近私に冷たいよ」
「わ、悪い。そんなつもりはないんだ」
「私、寂しいよ。だって私には兄さんしかいないんだから……」
「雪音……」
俯く雪音に、俺は心を痛めた。
妹にこんな顔をさせたくて兄貴をやってるんじゃない。
考えを変えた俺は、致し方なく雪音の隣に腰掛けた。
「ごめんな? これからはできるだけ、雪音が冷たいって思わないようにするから」
「……兄さん」
雪音が後ろから俺のことをねっとりと抱きしめる。
雪音の豊満な胸が俺の背中で押しつぶされ、理性が吹き飛びそうになる。
だけど、妹ならこれくらいのスキンシップ、なんとも思わないのが普通なはずだ。
自分にそう言い聞かせて、俺は慣れることにした。
雪音は寂しがり屋だしな。
「やっぱり兄さんは兄さんだね。ふふっ、大好き」
「お、おう。まぁな」
「……ねぇ兄さん、興奮してる?」
「してねぇわ! 兄を誘惑するのはやめろ!!」
「なんで? いいでしょ私たち、こんなに愛し合ってるんだから」
「お互いの愛の種類が違うんですが⁉」
「ち、違わないもん!」
雪音が強く俺のことを抱きしめる。
「じゃあ聞くけど、兄さんは私に彼氏ができたらどう思うの⁉」
「その彼氏はもちろん〇すだろ!」
「好きじゃん! 私のこと好きじゃん!」
「その後にもう一度〇す!」
「一度じゃ満足してないじゃん! それくらい私を独占したいってことじゃん!」
「当たり前だろ! 雪音は俺だけのものだ!」
「じゃあ、私とえっちして!」
「断る!」
「なんで⁉」
わけがわからないと言った表情で俺に訴えかけてくる雪音。
俺は淡々と答える。
「雪音が好きだし、可愛いと思うけど、やっぱりそれは妹としてだ。独り占めしたいとも思うし、彼氏ができて欲しくないとも思うけど、俺は兄貴だ。妹が幸せになれるんなら、実を言えば妹の選択を尊重する。それが兄貴で、それが俺だ」
「に、兄さん……」
「ま、選択を尊重すると言っても、絶対に雪音とはえっちしないぞ? だって俺たちは兄弟で、家族だからな」
諭すように言うと、雪音が不満げな顔で返す。
「……でも、義理でしょ? 付き合ってもいいし、結婚してもいいはずだよ? 血は繋がってないんだし」
「それは……まぁ、そうなんだけど」
「……ってことは要するに、私の想いの障害になってるのは、兄さんの気持ちだけなんだね」
「否定はしないけど……」
「じゃあ、私が兄さんをメロメロにすればいいんだよね?」
「っ……!」
ここで俺が何を言ったところで、雪音の勢いは止まらないと思った。
雪音が赤ら顔で微笑む。
「兄さん、覚悟しておいてね? 私はどんな手を使っても、兄さんを夢中にさせてみせるから」
「…………」
「でも安心して私を好きになっていいよ? だって私、兄さんのためだけに生きるもん。兄さんのためなら、身も心もすべて捧げるから」
やはり雪音が俺に抱いている愛の重さと深さは狂気的だ。
雪音は細く長い、白い指を俺の胸にそっと添わせる。
口を俺の耳に近づけ、吐息交じりに言った。
「私、兄さんのためだけに生きる女の子になるよ?」
思わず雪音から距離を取り、ベッドの端に逃げる。
「こ、これ以上は勘弁してくれ! 俺はな、雪音の兄貴でありたいんだ!」
「じゃあ、私の兄さんでいながら、私のお婿さんになればいいんじゃない?」
「その二つは両立できないポジションなんだ!」
「できるよ。だって兄さんの好きなえっちな漫画に、そういう設定があったもん」
「おい待て? なんで俺の秘蔵コレクションがバレている?」
「ふふっ、兄さんのことで私が知らないことはないんだよ?」
「ヤバい! この妹ヤバすぎる!」
「ヤバいよ? だって私、こんなに兄さんのこと愛してるんだから」
雪音が四つん這いで俺に迫る。
壁際に追い込まれ、逃げることができなくなった俺は、妖艶な笑みを浮かべる雪音を見上げる事しかできなかった。
「兄さん、愛してるよ?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
――ここに、兄を惚れさせようとする妹と、妹の兄貴でありたい兄との一世一代の勝負が幕を開けたのであった。
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