第4話 シスコン疑惑が浮上
「うお、やるな雪音」
「に、兄さんも」
テレビ画面に向き合って、コントローラーを必死に操作する。
人一人分の距離を空けて隣には雪音が座っており、俺と同様に熱中しながら画面に注視していた。
現在は夜の十一時。
夜ご飯を食べて何となく雪音の部屋のドアをノックし、部屋の中に入れてもらって今に至る。
「(もうすっかり、部屋に入れてくれることは当たり前になったなぁ)」
「隙アリっ」
「ぬおっ⁉ い、いつの間に!」
俺が雪音の進歩に感動している間に、俺のキャラクターが場外へと落とされていた。
ゼロ機になった俺はこれにて敗北。
少し嬉しそうにしている雪音を横目に、グーっと伸びをした。
「やっぱり強いなぁ、雪音は」
「そ、そんなことない。今のは兄さんが気を抜いてたからだよ」
「それは……まぁ、そうなんだけどさ。でも、雪音はゲームが上手い」
「だ、だからそんなことないってば……」
照れくさそうに頬を赤く染め、口を尖らせる雪音。
初めのころに比べれば、随分とリラックスして俺と接してくれている。
そのことに再び満足していると、雪音が机にコントローラーを置いた。
「兄さん、私……そろそろお風呂に入る」
「お、そうか」
思えば時間も時間だ。
明日も学校はあるわけだし、家から出ないとはいえ、雪音も通信制の高校に通っているので夜更かししすぎてはいけない。
「なぁ雪音」
「な、なに」
「…………一緒に入るか?」
「っ⁉ な、な、何言って……!」
顔を真っ赤にして、両手で顔を隠しながら動揺する雪音。
なんだその反応。めちゃくちゃ可愛いな。
いたずら心が刺激されて、俺はにんまりとからかいの笑みを浮かべる。
「兄弟なんだし、別に一緒の風呂に入るってのもいいんじゃないか?」
「そ、それは……」
「親睦を深めるっていう意味も込めて、背中を流し合うのも悪くないな」
「…………」
おっとからかいすぎて雪音が黙ってしまった。
俺も調子に乗りすぎてしまったなと思い、ネタバラシをすることにする。
「冗談だよ冗談。さすがにこの年にもなって妹と一緒に風呂に入ったら、マズいもんな」
「…………そ、そうだよ」
「ごめんごめん」
「…………兄さんなんか知らないっ」
ぷいっとそっぽを向いて拗ねる雪音。
それすらも可愛いと思ってしまう俺は、いわゆるシスコンという奴なのだろうか。
まだ雪音が妹になって、二ヶ月くらいしか経っていないのに。
「も、もう……」
……いや、やっぱり可愛いな。宇宙で一番。
うん、俺の妹、宇宙で一番可愛い。
◇ ◇ ◇
「――ってなことがあって、俺って病気なのかな」
「不治の病だね。現代の医療技術だと治すのは不可能だよ」
「マジかー」
力なく机にうな垂れる俺に、呆れたように嘆息するいかにも真面目そうな女の子。
「ほんと、三好くんは妹さんが大好きなんだね」
小さく微笑みながらそう言うのは、俺のクラスメイトである
艶やかな黒髪ロングが特徴的で、可愛いか美人かでいえば圧倒的に美人に傾く容姿をしており、そして何より――胸が大きい。
同級生において伊万里に匹敵する人物はおらず、おっぱいに限っては校内一位、いや、地区一位のすばらしさを誇る。
ちなみに、この場合何を持って素晴らしいのかと言えば、大きさはもちろんのこと、形やハリ、制服越しからの存在感の強さなどが要素としてあげられる。
胸の話は番外編で語るとして……伊万里は常にテストでは学年一位であり、おまけに人当たりもよく、人望も厚いためこのクラスでは委員長を務めている。
俺とは高一から三年連続同じクラスで、かなり付き合いも長い。
言ってしまえば、一番俺が信頼を置いている友人だ。
「そりゃ好きだよ。今までずっと兄弟が欲しかった俺の、急に出来た年の近い、それも可愛い妹なんだからさ」
「可愛い、ねぇ。そんなに可愛いんだ」
「そりゃもう可愛いよ。今までに見たことのないくらいの可愛さだね。正直、世界は楽勝に手玉に取れると思う」
「三好くんの妹さんは世界征服者か何かなの?」
「それは雪音のさじ加減だろうな」
「それはすごい妹さんだ」
ふふっ、と笑みをこぼす伊万里。
「でも、本気で好きになっちゃダメだよ? いくら可愛いとはいえ、妹さんなんだから」
「そりゃ当然だよ。俺は雪音の家族になりたいのであって、彼氏になりたいわけじゃないからな」
「じゃあ聞くけど、妹さんに彼氏ができたらどうする?」
「ひとまずは〇すだろ?」
「ひとまずなんだそれ……」
「その後に、もう一度〇す」
「愛憎ってここまでくるものなんだ……」
雪音に彼氏ができるなんて想像したくない。
まだお兄ちゃん歴二ヶ月の俺だが、雪音に対するお兄ちゃん精神はそこまで来ている。
……なるほど、俺はどうやらシスコンみたいだな。まぁいいか、罪ではないし。
「ま、三好くんが犯罪を起こさなければ私はそれでいいよ。さすがに友人が犯罪者なのは目覚めも悪いしね」
「そこは安心してくれ。伊万里も知っての通り、俺は結構常識キャラだからさ」
「自分で言う人はあまりいないと思うけど……ま、それは三年間一緒に過ごしてきた私がよく知ってるよ」
「さすがは俺の伊万里さんだな」
「三好くんのものになった覚えはないけどね」
軽口を叩いていると、チャイムが鳴り響き、担任教師が教室に入ってくる。
「じゃ、いつか三好くんの愛しの妹さんに会わせてね」
伊万里が立ち上がり、そう言い残して自分の席に帰っていった。
バレないように、胸を張って歩く伊万里をちらりと横目で見る。
「(……うん、やっぱりすごい胸だな。宇宙一かもしれない)」
俺の視線に気づいて伊万里が顔をしかめたことは、言うまでもない。
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