第20話 雪音は遂に本気を出す
夕飯を食べ、風呂から上がり。
「ふぅ、いい湯だった」
思わず声が漏れる。
浴室を出た時の解放感は、何にも代えがたい。
一日溜まった汚れを洗い落とせた爽快感もそうだし、お風呂に入ることはなかなかに面倒なのでその義務から解放された感じもたまらない。
だが、先ほどから俺は少し違和感を感じていた。
「(なんか体が熱いんだよな。頭がボーっとするし)」
症状的には風邪なんだが、そういう気もしない。体調は万全だし。
こんな体験は初めてなので、心当たりが全くなかった。
「ま、気にしなくていいか」
この時はまだ体に現れていた変化も微々たるもので、髪を乾かしている頃にはすっかり忘れていたのだった。
珍しく宿題を終わらせてベッドに倒れ込む。
時刻はまだ十時。寝るにはまだ少し早い時間だ。
「兄さん兄さんっ」
先にベッドでゴロゴロしていた雪音が俺の顔を覗き込む。
「なんだよ」
「兄さん、えっちしよ!」
「デフォでそれヤバいからな⁉」
可愛い妹がこのような下の言葉を言うのに耳が慣れてしまっているのが残念だ。
雪音が不満げに頬を膨らませる。
「えぇー今日もダメ? 兄さんぅ」
「今日もこれからもダメだっての!」
寝返りを打って、雪音に背を向ける。
すると雪音が俺の背中に抱き着いてきた。
「じゃあ兄さん、我慢比べしよっか」
「……兄を舐めるなよ?」
「ふふっ、どうかなぁ?」
雪音がぴとりと俺の背中に体を密着させる。
俺の背中に押しつぶされて形の変わる雪音の胸。
心臓が異常なほどにバクバクと鳴っている。
「も、もう雪音の密着には慣れたし? いくら俺が童貞だって、毎日毎日くっつかれたらドキドキもしないし?」
「え、そぉお? 兄さんの心臓、ドクドクいってるけどぉ?」
雪音が細い指をそろりと俺の胸に添わせる。
「べ、別にぃ? ってか、妹で発情するような兄貴じゃないからな俺は!」
「へぇ? じゃあ、これはどう?」
雪音が細く質感のいい足を絡ませてくる。
「っ!!!」
「(い、妹の足エロすぎるっ……!!!)」
「兄さぁん? 我慢しなくてもいいんだよ?」
雪音は攻撃の手を緩めず、俺の耳元で吐息交じりに囁いてくる。
「我慢なんかしてないし? ほんと、全然?」
「でも、兄さんの体どんどん熱くなってるよ? 息とか荒いし……興奮してるんじゃないの?」
「いやいや、してないから! してないから!」
「あ、そう? でも、私は興奮してきちゃったな……えへへ♡」
雪音が話すごとに、息が耳にかかって背筋がゾクッとする。
なんだか変な感じだ。雪音に言われた通り、確かに体が熱い。
風呂から上がった時みたいに頭もボーっとしていて、思考が鈍くなっていた。
雪音が両手を俺の胸に回し、細い指を動かしていく。
「いいんだよ? 我慢しなくて。兄さんは男の子だもん、私に誘惑されてしちゃっても、しょうがないんだよ?」
「お、俺は男の子の前に雪音の兄貴だ。兄貴は妹とえっちなことなんか……」
「しちゃダメなんて誰が決めたの? 私たち、義理の兄弟だよ? 法律では結婚してもいいんだから、えっちなことしたっていいんだよ?」
「し、しない! それは俺の兄貴としてのポリシーに、反して……くっ」
「ポリシーとかいいからいいから。今夜だけは、ハメ外しちゃおうよぉ兄しゃあん……」
「は、ハメは、外さないんだ……だって俺は……」
言葉が途切れ途切れになる。
変な感じだ。意識が自分から離れていくような、自分なのに制御できなくなっていくような。
雪音が熱っぽい息を漏らして、唇を俺の耳に最大限に近づける。
「ねぇ、兄さん」
小さく笑みをこぼして、そして言った。
「ふふっ、愛してるよ?」
「ッ!!!!!」
俺は反射的に飛び起き、雪音から距離を取った。
自分でも分からない。ただ、ずっと兄貴として気を張っていた部分が本能的に反応したみたいだ。
額に汗をにじませ、息を切らす。
「だ、ダメだ雪音。俺は兄貴だ! 一線は超えちゃいけない」
「……ぶぅ、兄さんの意気地なし」
雪音が拗ねるように言う。
「意気地なしでもヘタレでもなんとでも言え。俺は俺のポリシーを守るだけだ」
俺が言うと、雪音がベッドから起き上がる。
「ふんっ、もう兄さんなんかいいもん!」
俺に文句を言いながら、雪音が部屋を出て行く。
パタンとドアが閉まると、俺は気が抜けて、安心したようにベッドに倒れ込んだ。
「(今のは完全に危なかった……危うく雪音を押し倒しかねなかった……)」
本能が過去一、貞操の危機だったと告げている。
まさか雪音にあそこまで興奮してしまうなんて……。
「……ふぅ、一発やらねば」
対策を講じることにことにした俺だった。
夜中一時。
やけに目が冴えていて、俺は眠れずにいた。
おそらく原因としては、さっきの雪音の危なすぎる誘惑だろう。
「(どうしたんだ俺。一発抜いたのに全然収まらない。変だ)」
俺はそこまで性欲が強い方じゃない。正常な男子高校生だ。
なのにまだ頭は悶々としていて、下半身が疼く。
「俺は兄貴だ俺は兄貴だ俺は兄貴だ俺は兄貴だ……」
絶対に間違いを犯さないようにぶつぶつと唱える。
すると突然、俺の部屋のドアがゆっくりと開いた。
「っ!!! だ、誰だ⁉」
飛び起きると、開いたドアの隙間からひっそりと雪音が顔を出す。
「なんだ、ゆき――」
雪音の姿を見て、俺は言葉を失った。
下ろされた艶やかな銀色の髪に、ちらりと露出した紫色のネグリジェ。
薄い素材だからか白い肌が所々見えていて、月明かりを反射して妖艶な雰囲気を醸し出していた。
雪音のぷるんとした唇が震える。
「…………兄さん」
上気した頬に、揺れる宝石のような瞳。
――雪音はやはり、誰よりも美しい。
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