第13話 薄い本の話?


 その後、早速夏目に仕事を教えてもらうことになった。


「そう、この機械を使って本を梱包するのだ」


「なるほど」


「ちょっとやってみてくれ」


「分かった」


 教えられたとおりに材料を入れ、機械を動かす。

 無事包装された本が完成し、夏目が腕を組んで頷いた。


「康太は覚えるのが早いな! これは期待の新人だ」


「あはは、そんな持ちあげないでくれよ」


 まだ会って一時間ほどだが、夏目とも打ち解けてきた。

 バイト先で大事なのは人間関係だと聞いていたが、この感じなら問題ないだろう。


「よし、じゃあ次は在庫管理だ。ちょっとついてきてくれ」


「おう!」


 鼻歌混じりに先導する夏目の後を追う。


「(それにしても、夏目はすごいな。美人なのにそれを鼻にかけてる感じもないし、優しいし頼りがいもあるし。そんな夏目とこれから二人とか、なんかヤバいな……)」


 思春期の男の子として、俺は不可抗力的に夏目に好意を抱きつつあった。

 ――そんなとき。


「ん?」


 夏目のポケットからするりと落ちたスマートフォン。

 何気なしに拾い上げると、たまたまロック画面が見えてしまった。


「(ッ!!! こ、これは……)」


 固まる俺に気付き、振り返る夏目。


「どうした? って、それ私のスマホじゃないか」


「……これは、本当に夏目のスマホなのか?」


「あぁ、そうだが?」


「…………」


 俯く俺に、夏目が首を傾げる。

 数秒考え、遂に腹を決めた俺は夏目にスマホを突き出した。


「……じゃあ、このロック画面の背景に映る『雫ちゃん』を知ってるんだな?」


「ッ!!!! ど、どうしてそれを……はっ! もしや康太、お前も……」


「あぁ、そうだ。俺も――幼女だらけのエロ漫画、『ロリロリホイップ』の愛読者だ!」


「――ッ!!!!!」


 正直、俺はこの事実を共有するか迷った。

 何故なら、夏目は俺にとって理想のカッコいい女の子だったから。


 しかし、この事実を俺の中だけに留めておくことはできなかった。

 留めておくには――重荷過ぎる。


 夏目がごくりと唾を飲みこむ。


「……そうか。ここまでバレてしまっては仕方がない。康太には言おう」


「……おう」



「天草夏目、私は――ロリコンだ!!!!」



 脳天を貫かれる。


「(ど、どうしてだ。どうして……俺の周りの美少女は、どうしようもなく変な奴が多いんだッ!!!!)」


 ロリコンのカッコイイ美少女など聞いたことがない!

 動揺する俺に、夏目は続ける。


「私は今まで、空虚な日々を送っていた。何をしても心が動かない。そんな中で私は――そう、ロリコン文化に出会い、初めて心を揺さぶられたのだ」


「ロリコン文化⁉」


「そうだ。小さき幼女を愛で、母性本能をくすぐらせる。人間皆が持つ本能が肥大化したのが私だ」


「何言ってんだ⁉」


 想像以上に夏目が俺の想定を超えている。

 夏目は自分の世界にどんどんのめり込んでいく。


「私はな、はっきり言って幼女を見ると興奮するんだ。さらにぶっちゃけると、私は男女の交わりより――ロリ単体の方がヌける」


「そこまでぶっちゃけて欲しくはなかったな!」


「実のところ、最近は授乳がしたくてな、何とか搾ってみるんだがどうにも難しくて……」


 しっかりと重みのありそうな胸を夏目が手で押し上げてみせる。


「ほんと真剣に何を言ってるんだこの人は……」


「あ、ちなみに私の守備範囲はゼロ歳から小学生だ。康太は?」


「自己紹介みたいなノリで守備範囲言わないでくれないか⁉」


 あと、ゼロ歳とかは幼女じゃなくてもはや乳児だろうに。だから乳女か。……何言ってんだ俺。


「ロリコン同士がエンカウントしたとき、まずは守備範囲を言い合うものじゃないのか?」


「そんな場面に遭遇したことはない!」


「そうなのか。実は私も初めてのことだからな……不慣れですまない」


「謝るな謝るな!」


 はぁはぁと息を切らす。

 カッコイイ系の美人でロリコンな夏目は、会話するにおいてカロリーが高すぎる。


 だが、どうやら夏目は重大な勘違いをしているようなのでそれだけは正さないといけない。


「夏目、一つ言わなきゃいけないんだが……」


「なんだ?」


「その、だな。実は俺は――ロリコンじゃないんだ」


「な、なにッ⁉ な、なんだと⁉ いやだって康太は、ロリロリホイップを知って……」


 目を見開く夏目に俺は続ける。


「知ってはいるし、漫画も読んでるんだけど、俺的にはそ、その……味変というか、そういう感覚で読んでいてだな……」


 美人な子にエロ漫画の食し方を話しているという現状を客観的に見るとどうしようもなく恥ずかしいのだが、何とか弁明する。


「幼女が、味変……」


「そこだけを切り取るのはやめろ! とにかく、俺はロリじゃない!」


「……そうか。そうなのか」


 夏目が俯く。

 しかし、すぐに顔を上げると、爽やかな笑みを浮かべた。


「でも大丈夫だ。私はどんなロリも受け入れる。康太のようなちょいロリでも、私の方がだいぶロリだとマウントを取るようなことは絶対にしない!」


「何が大丈夫なんだ⁉」


「安心してくれて大丈夫だ! 私と一緒に、これから幼女のすばらしさを体感していこう! あっ、そうだ! 何だったら、一緒に子作りでもして、幼女作っちゃうか!」


「あぁこいつもうダメだ!!!」


「いや、むしろそれがいいな! そうすれば、私のおっぱいから母乳も出る! 一石二鳥だな!」


 暴走し始める夏目。

 後ずさりする俺に、夏目が迫ってくる。


「善は急げだ! 康太、私と交わるぞ!」


「勘弁してくれ!!!」


「あはは! 怖がらなくていい! ただ気持ちよくなるだけだからな!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 


 ――バイト初日。


 人間関係に、問題発生。

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