第14話 妹の愛を舐めるなよ?


「はぁ、はぁ……」


 足を引きずり、さながら銃弾飛び交う戦場を抜けてきたかのような姿で家に帰ってきた。

 あれからロリ魂に火がついてしまった夏目に迫られ、躱すのに一苦労だったのだ。

 

「(バイト行きづらいな……)」


 避難する意味も込めてバイトをし始めたというのに、避難先でも大変な思いをしないといけないなんてまさに本末転倒。

 しかし、採用されてしまった手前、バイトを飛ぶのも気が引ける。


 八方ふさがりな状況にため息をつきながら階段を上り、自分の部屋に入った。


「ふぅー……疲れたなぁ」


 電気をつけず、制服のままベッドに飛び込む。

 まだ夕飯までは時間があるし、少し寝てしまおうかと思っていると不意に声が聞こえた。


「…………兄さん」


「どうわっ⁉」


 急に電気が付き、驚いて飛び起きると雪音が立っていた。


「な、なんだ雪音か」


「おかえり、兄さん」


「お、おう」


 いつもなら飛んで抱き着いてくるのだが、今日はやけにしおらしい。


「今日は兄さん、どこに行ってたの?」


「いや、まぁ、その……色々な?」


「色々って何? もしかして……でーと?」


「いやいや、違う違う! 普通にただ……」


 本当のことを言うか一瞬迷うが、いずれはバレる事なので言ってしまうことにする。


「バイトの面接だよ。バイトしようと思っててさ」


「ふぅん、バイト……そっか。ならよかった」


「お、おう」


 ほんのり頬を赤く染め、嬉しそうにはにかむ雪音。

 思っていた反応と違い、少し驚く。


 大人しい雪音の様子を見て、すっかり警戒心の解けた俺はベッドの淵に座り足を伸ばした。


「どこでバイトするの?」


「本屋だよ、駅前の」


「へぇ、兄さんが本屋でバイト」


「なんだ? もしかして意外か?」


「ううん、兄さん漫画好きだし、全然意外じゃない。……でも、いつも電子で買ってる」


「おいそれはエロ漫画だけな⁉ って、なんで知ってるんだよ⁉」


「……妹に知らないことはないんだよ?」


「あってくれ!!!」


 ふふっ、と小さく笑みをこぼし、雪音が俺の隣に腰を掛ける。


「でも、兄さんがバイトかぁ……一緒にいられる時間が短くなって、さみ――」


 雪音が急に固まる。


「お、おい、雪音? どうした?」


「…………」


 無言で雪音が俺の服をクンクンと嗅ぎ始める。


「な、なんだよ雪音。くすぐったいだろ?」


「…………兄さん」


「な、なんだ?」


「……女と会ったね」


「……ピクッ」


 背筋の凍りそうな冷たい雪音の視線から目をそらす。

 目を合わせてはいけない。本能が危険を知らせていた。


「兄さん、でーとじゃないって言ってたよね?」


「いや、その……だな、デートではないんだ」


「バイトの面接って言ってたよね?」


「そ、それは間違いないぞ? 確かにバイトの面接だった。でも面接官が女の子でな、だから――」


「女の子?」


「いや、その……はい」


 雪音がはぁとため息をつく。


「兄さん、私言ったよね? 私以外の女の子と関わっちゃダメって」


「そ、それは生きる上で難しいんじゃなかろうか?」


「頑張って?」


「上目づかいで言われてもそれは無理だ!!!」


「……わかった。関わってもいい。でも、なんで服に匂いが付くくらい密着してるの? おかしいよね? ただのバイトの面接なのに」


「ぎくり」


 ここに来て、夏目に迫られたことがより悪手になっている。

 口が裂けても子作りを懇願されたなんて言えない。


「たまたまだよ、たまたま! たぶん密室だったから、それでついちゃったのかなぁ」


「よくないよね? それ、よくないよね?」


「は、はい?」


「私という妹がいながら、それはよくないよね? 浮気だよね? 不倫だよね⁉」


「全部違うんですけど⁉」


 雪音が衝動に駆られるように、一気に迫ってくる。


「兄さんひどいよ! 私のことめちゃくちゃにしておいて、他の女の子と密着するなんて! こ、この……や、ヤ〇チン!!」


「妹に一番言われたくない言葉なんだが⁉ というか、そんな言葉、雪音みたいな可愛い女の子が使っていい言葉じゃない!」


「か、可愛い⁉ ……えへぇ、兄さん、兄さぁん……はっ! 兄さんの浮気者!」


「情緒どうなってんだ⁉」


「も、もうっ!」


 雪音が俺のことをベッドに押し倒し、上に跨ってくる。


「ゆ、雪音⁉」


「兄さんのバカ! バカバカバカ! 妹バカ!」


「最後のは雪音にとっていいことなのでは⁉」


「うるさい! もう兄さんのこと許してあげないんだから!」


「うえぇ⁉」


 雪音が俺にぴとりと抱き着いてくる。


「ん~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


「うはっ!!」


 匂いを擦り付けるように頬を俺の顔にぐりぐりと押し付け、腕を俺の背中に回してきた。

 体全体が密着し、雪音の柔らかい体の感触といい匂いに包まれていく。


「ゆ、雪音! それ以上は兄じゃなくなる!!!」


 マズイ、非常にマズイ!

 何とは言わないが、非常にマズイ!


「やめないの! 兄さんと一体化するんだもん!!!」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 体が熱を帯びていく。

 頭の中で沸き起こる葛藤。

 

 兄さんでいたい自分と、性欲モンスターである思春期男子の対決。



『ダメだ康太! お前は兄さんだろう? ここで柔らかそうな胸に手を伸ばしてしまえば、お前は死んでしまうんだぞ!』


『何言ってんだ! 雪音は康太を愛していて、康太は雪音を愛している! 相思相愛だ! ならば体を剣に委ねろ!』


『そんなことしてはいけない! 俺たちはまだ家族になりたてなんだ! これからってときに、不貞行為があったら……』


『雪音と添い遂げればいい! だって兄弟でも、義理なんだから! いけ! 揉め! 抱きしめろぉぉぉぉッ!!!』


『ダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


『いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!』



 …………。


 …………。


 ……パタリ。


「も、もうだめだぁ……」


「兄さん~~~~~っ♡」


 力を抜いた俺は、意識が朦朧としたまま雪音にひたすらすりすりされたのだった。




〈こばなし〉


 

 三十分後、ベッドで疲れ果てた康太。


「(……ゆ、雪音の匂いしかしない)」


 無事マーキングされた康太だった。



――――あとがき――――


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

本作に関係ないのですが、新作を投稿したので宣伝させてくださいな!


タイトルは「幼馴染を寝取られ全校生徒から嫌われた俺、なぜかド変態な美少女転校生に身も心も捧げたいと隷属を志願されている」です!


この作品も同様に個性的な濃いキャラばかり登場するので、ぜひご覧ください~

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