第17話 よくない噂です
翌日。
学校に登校すると、すれ違う多くの生徒からチラ見された。
それだけでなく、廊下を通ればみんなが俺を見てはコソコソと噂話をしていて非常に居心地が悪い。
やっとの思いで教室に到着すると、奈良橋がすぐに駆け寄ってきた。
「おいおい三好! どういうことだよこれは!」
「どういうことって、なんだよ……え」
奈良橋が見せてきたスマホの画面。
そこには校門で俺と雪音が話している写真が表示されていた。
「知らなかったぞ! お前こんなに可愛い彼女いたのか!」
「いや、そのだな……」
「しかもこの子に兄さんって言わせてるらしいじゃねぇか! やっぱりこいつ、とんでもない性癖をもってやがった!」
「おいおいおいおい!! マジでその感じでいくと俺がド変態みたいじゃないか!」
「だからド変態なんだろ!」
「違うわ!!」
奈良橋がこう言ってるという事は、俺に可愛い彼女がいて、しかも『兄さん』と呼ばせているっていう噂が出回ってるってことか。
「(……最悪だ。後者が特にヤバすぎる)」
そりゃ俺のことを見て奇異の視線を向けるわけだ。
奈良橋はもはや怒ったように俺の胸倉をつかむ。
「ふざけんな! 一緒に青春という名のマラソンを走ろうって言ったのに、お前だけ先にゴールすんじゃねぇこらぁぁぁッ!!!!」
「ゴールしてないから! マジで誤解だから!」
奈良橋の腕を振りほどく。
「これ、俺の妹! だから彼女じゃないし、兄さんって呼ばせてもない!」
「い、妹……?」
奈良橋が固まり、はっと何かを思いついたように我に返る。
「お前、ガチでそういうプレイを……」
「してないしてない! ほんとに俺の妹!」
「嘘つけ! お前は一人っ子のはずだろ!」
「最近親が再婚したんだよ! それで妹ができた! これガチ!」
「嘘つけ! なんだお前、ラブコメの主人公か!!」
「現実に起こりうることなんだよ!!」
取っ組み合いになり、奈良橋とわちゃわちゃと揉めていると、
「ちょっと二人とも。そこまでだよ」
伊万里が俺たちの間に入り、制してくれる。
「伊万里……」
「奈良橋くん、三好くんの言ってることは本当だよ。この子は雪音ちゃんで、三好の妹さん。義理のね」
「ま、マジか……」
俺たちに注目していたクラスメイト達が、奈良橋同様に「マジか……」と声を漏らす。
俺が言うのと伊万里が言うのとじゃ、信頼度が全然違うな。
助太刀に入ってくれた伊万里に尊敬と感謝の眼差しを向けていると、伊万里がこほんと咳ばらいをする。
「まぁ、三好くんにそういう趣味があるのかはわからないけどね。妹さん大好きだし」
「ちょぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」
ニコッと小悪魔的な笑みを浮かべる伊万里。
最近の伊万里は、どうにも少し性格が悪い。
その後、なんとか噂は収束し、俺がシスコンだという噂が新たに流れたのだった。
放課後。
今日はシフトが入っているので、バイト先である本屋に向かう。
夏目はすでに店長と入れ替わりで出勤していて、閑散とした店内で在庫整理を二人して行っていた。
「そういえば康太。噂で聞いたんだがな」
「あ、あぁ」
「(嫌な予感が……)」
「康太の高校にいる『三好』という奴が、どうやらとんでもない美少女と付き合っているらしくて、しかも『兄さん』と呼ばせて欲求を満たしているらしいんだ」
「噂出回りすぎだろ!」
確かに俺がその噂を聞く側だった場合、他に聞かない話なので広めたくなるし噂が出回るのもわかる。
だが、まさか隣の高校にまで広がってるとは思っていなかった。
「お、知ってるんだな! ちなみに、その『三好』というド変態の下の名前は『康太』というらしい」
「分かってて言ってるだろそれ!」
「やっぱり、康太のことだったのか……なるほどな」
「一体何がなるほどなんだ……」
「いや、いかにも康太らしいと思ったのだ」
「いかにもじゃないわ!!!」
夏目にとって、俺はそこまで性癖の歪んだ変態という認識なのだろうか。
だとしたら今すぐに訂正したい次第である。
「あのな、その噂でたらめなんだよ。彼女はいなくて、あれは妹。最近できた義理の妹なんだ」
俺が言うと、夏目が驚いたように目を見開く。
「なんと! そうだったのか! いやぁ、そうか。それはそれでびっくりだな」
目をキラキラと輝かせる夏目。
「羨ましいな! ロリ……と言うのは難しい女の子ではあったが、あんなに可愛い妹さんがいるのは非常に羨ましい! 毎日眼福だな!」
「確かにそうだな。それは否定しない」
「あ! なるほど、だから康太は私が言い寄っても揺らがなかったのだな!」
「それは違いますが⁉」
「違うのか⁉ ならどうして私と可愛い幼女を作ることに協力してくれなかったんだ⁉」
「倫理的にアウトだからだよ!」
「倫理……よく分からないな」
「義務教育し直してこい!」
やはり夏目は頭のねじが何本か抜けている。
俺の今までの経験から言うに、もしかしたら美少女というのは、どこか頭のねじが抜けているのかもしれない。
もしくは、俺の周りがそうなだけか。
はぁとため息をつくと、夏目が今日も爽やかな笑みを浮かべる。
「まぁ、気が向いたら私に言ってくれ!」
「一生向きません!」
今日も夏目は平常運転で、変人っぷりを遺憾なく発揮していたのだった。
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