第16話 欲求不満な義妹


 ざわつく校門。


 その中心にいるのは俺と――そして、つい最近俺の義妹になった雪音だった。

 雪音が照れくさそうにそっぽを向いて頬を掻く。


「お、おい雪音。どうしたんだよ」


「……兄さんのこと待ってた」


「待ってたって、今までそんなことしてなかっただろ? それに外に出てるし……」


 雪音は休日に俺が外に出るときも、ついては来なかった。

 家の中ではあれだけべったりだったのに、だ。


 直接聞いてはいないが、俺の中では雪音は外に出るのが怖いのだと思っていた。

 だが、そんな雪音が今、雪のように白い肌を太陽の下にさらして俺の前に立っている。


「私、妹として兄さんをお迎えしてたの。……ダメだった?」


「いやいや、そんなことはない! というか逆に、雪音が大丈夫なのか、とか考えて……」


「私は大丈夫だよ? だって兄さんと一秒でも長く一緒にいられるんだもん。えへへ、頑張って外に出た甲斐があったな」


「っ!!!」


「「「おぉぉぉ…………!!!」」」


 雪音の暴力的な笑みに、歓声が沸く。

 

「ゆ、雪音。とりあえず家帰るか」


「うん、兄さんっ」


 好奇の視線から逃げるように、雪音と並んで帰路についた。

 

「それにしても、よく外に出てきたな」


「うん、久しぶりだったから結構緊張した。……でも、兄さんに会いたかったから」


 頬を赤く染めて俯く雪音。


「雪音……」


「えへへ、兄さんは頑張った妹を褒めてくれないの?」


 雪音が上目遣いで訊ねる。


「褒めるに決まってる! 偉いぞ雪音! よくやった! すごい進歩だ!」


「その流れで頭とか撫でてくれないの?」


「撫でる撫でる! すごいぞ雪音!」


「うへへ、兄しゃあん♡」


 わしゃわしゃ撫でると、雪音が嬉しそうに頬を緩ます。

 俺は雪音を褒めているうちに、以前のことを思い出して嬉しくなっていた。


 雪音と暮らし始めた時は部屋からも出てきてくれなくて、話すこともできなかった。

 それが今では、まぁ当初思い描いていたゴール地点を大幅に過ぎてはいるが、仲良くこうして話をしながら外を歩いている。


「(これだよこれ……! これが仲睦まじい兄弟だよな!)」


 だらしない笑みを浮かべていると、雪音が俺の腕にしがみついてくる。


「兄さんっ♡ 大好きだよ?」


「嬉しいんだけど、ここは外だからな?」


「外だからって関係ないよ! 私の愛は内でも外でも変わらないもん!」


 ギューッと胸を俺の腕に押し付けてくる。

 発育のいい妹だから、不可抗力的に意識してしまう。


「い、いやあのな? ここは外だから、そういうことをすると他の人に見られるわけで……」


「……ってことはつまり、兄さんはちょっとえっちな妹を独占したいと?」


「ものすごい解釈してるな⁉」


「ふふっ、今誰もいないし、もっとしてもいいよね?」


 雪音が頬をすりすりしながら言う。


「そういう問題じゃなくてだな!」


 反発すると、雪音が痛いくらいに強く腕にしがみついてきた。


「じゃあ何? 兄さんはこんな妹の愛を、邪魔だって言うの?」


「え、いや、その……」


「兄さん……?」


 邪魔だと言えばただじゃおかない、と言わんばかりの表情で俺を睨む雪音。

 こうなれば立場の弱い俺には、当然言える言葉は一つしかないわけで。


「邪魔じゃないです……」


「えへへ、だよね、兄さんっ♡」


「は、はい……」


 すっかりと義妹の尻に敷かれてしまったことを自覚した。

 ますますイケない方へと進んでいるような気がする。


 少し歩いて公園の前を通りかかると、雪音がグイっと俺の腕を引っ張った。


「兄さん兄さん、ちょっと来て?」


「ん? なんだよ急に」


「いいからいいからっ」


 雪音に連れていかれるがままに進んでいき、公園の中で人気のない茂みにやってきた。

 そこで止まり、くるりと体を俺の方に向けてくる。


「兄さん、んっ」


 雪音が顔を少し上げて、目を閉じる。


「え、ん?」


「んっ!」


「ん、ん?」


「も、もうっ! 兄さんの意気地なし!」


 不満げに頬を膨らまし、非難するように俺を見る。


「今から私の言う通りにして!」


「え、なんで?」


「兄さんなら頑張って外に出た妹にわがままの一つくらい聞く! はい、まず私の肩に手置いて!」


 困惑しながらも、言われるがまま両手を雪音の肩に置く。


「こうか?」


「そしたら私が目を閉じるから、兄さんは私にキスする!」


「分かった、こうして……って、はぁ⁉ き、キス⁉」


「キスして!」


「できるか!!!」


 なんてことを言い出すんだこの妹は。

 危うく雪音に言われるがままするところだった。


 雪音から少し距離を取ると、フグのように頬を膨らませる雪音。


「いいじゃん! 人気のない昼間の公園の茂みで私とキス! 兄さん的に興奮するでしょ⁉」


「いやするけども! するけども相手が妹なのは倫理に反してるだろ!」


「義妹だからいいの! 義妹だから舌も入れて濃厚ディープキスしていいの!」


「何言ってんだ⁉ ゆ、雪音は欲求不満なのか⁉」


「そうだよ! 全然兄さんが私とえっちなことしてくれないから!」


「いやこれからもしないからな⁉」


「ひどい!! して!」


「しない!」


「して!」


「しない!!!」


 互いに引くことのない押し問答が続く。

 しびれを切らした雪音が、無理やり背伸びをして唇を突き出してきた。


「ん~~~~~~~~っ!!!!!!!」


「雪音落ち着け!!!! 今は外だぞ! 久しぶりに出た外だぞ!!!!」


「この記念すべき日に兄さんと一つになるの~~~っ!!!!」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 

 欲求不満な妹を持つと大変な兄だった。




――――あとがき――――


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


インドネシアから帰国した私ですが、非常にありたがいことに毎話たくさんの感想をいただいていまして。

それが嬉しかったので、あとがきで一筆したためているわけです。


みんなありがとうぅぅぅッ!!!

WEB小説というのはつくづく、作者と読者の間で続いていくものだなと思います。感謝!!以上!!

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