第25話 男の子をからかうな!
あっという間に放課後の時間になり。
「じゃあいこっか」
「おう」
約束通り伊万里と勉強をしに、図書室に向かう。
勉強するだけなら別に教室でもよかったのだが……。
「いやぁでも、まさか教室が使えないとはね」
「だな。たまに吹部が使ってるのは知ってたけど、見事に今日とはな」
というわけで、勉強できる図書室になった。
ガヤガヤと騒がしい廊下を、伊万里と並んで歩く。
「あ、そういえばごめん。ちょっとメールしていいか?」
「うん、いいよ」
すぐにポケットからスマホを取り出し、今日は勉強して帰るという旨のメールを送る。
相手はもちろん、うちの義妹である雪音だ。
「いやさ、伊万里も知ってると思うけど雪音俺のこと迎えに来るじゃん? だから連絡しとかないと、雪音がずっと待ってる羽目になるからさ」
「あぁーそうだね。いっつも三好くんが嬉しそうにニヤニヤしてるやつだ」
「え、俺ニヤニヤしてる⁉」
「してるよいつも。奈良橋くんなんかには『妹が校門で俺のこと待ってるんだよね!』って得意げに言ってるし」
「ま、マジか……完全に無自覚だった」
「やっぱり三好くんはシスコンだなぁ」
からかうようにクスクス笑う伊万里。
そうか、雪音の俺に対する距離感がバグってるから完全に忘れてたけど、俺って結構シスコンなんだった。
「だってしょうがないだろ? あんだけ可愛い妹が健気に俺のこと待っててくれたら誰だって嬉しいって」
「ふーん? じゃあ、よく私に妹ちゃんの距離感がおかしいって相談してくるけど、あれって惚気とかだったのかな?」
「あれはガチの相談です」
「へぇ? ま、どっちでも別にいいけどね」
「い、伊万里さん意地悪だなぁ……」
最近伊万里はどんどん俺をからかっているというか、意地悪なことをしてくる気がする。
やっぱりあれかな。胸見すぎたかな。
「もし私が意地悪なら、それは三好くんのせいだよ?」
伊万里が小さく微笑んで言う。
「え? どういうことだ?」
俺が聞き返すと、伊万里はくるりと回ってスカートをひらひらとたなびかせ、口に手を当てて言った。
「ふふっ、秘密っ」
少しドキリとしたことはここだけの話にしておこう。
図書室に到着した俺たちは、ドアのところにかかっていた看板を見て肩を落としていた。
「閉館、か」
「いつも空いてるのに、今日は珍しくだね」
「そうだな」
もしかしたらどこかでアナウンスされていたかもしれないが、俺が覚えているわけもなく。
伊万里も知らなかったという事は、何か急用があったのかもしれない。
「どうしよっか」
「そうだな……空き教室、は特にないし、自習室も二人で勉強するって感じじゃないもんな」
意外に勉強できる場所が少ないことに気が付く。
落ち着いて勉強できる場所か……。
ファミレスとかでもいいか、いやでもうるさくて集中が……なんて考えていると、伊万里が控えめに提案してきた。
「じゃあ、私の家で勉強する?」
「……え、え⁉ 伊万里の家⁉」
思わずオーバーなリアクションをしてしまう。
「うん。こうなったら仕方がないし、ほら私の家学校から近いでしょ? だからちょうどいいかなって」
「そ、それはそうだけど……」
急に伊万里の部屋を意識してしまってたどたどしくなる。
「(伊万里の部屋って、伊万里が寝て起きたり、着替えたりするところだよな⁉ そんな聖域に、俺が足を踏み入れていいものか……ってか、女子の部屋とかロクに入ったことないし……)」
あわあわと考え込んでいると、伊万里がじろりと目を細める。
「今、えっちなこと考えてるでしょ?」
「いやいや、考えてないから!」
「ほんとに? 私たち勉強するだけだよ? それ、分かってる?」
「分かってますとも分かってますとも! そもそも期末テストヤバいし、そんなことする余裕はないですから!」
「……そんなことする?」
伊万里が怪しんだ様子で聞き返す。
「うわぁぁなんでもありません! 教官ッ!!」
「……ま、三好くんだから信じてあげよう。で、私の部屋でもいいよね?」
「じゃあ、お願いします!」
「うん、了解しました」
穏やかな笑みを浮かべて伊万里が答える。
場所が決まったことと、疑いの目から解放されたことにほっとしつつ、歩き始める伊万里について行く。
「あ、そういえば――」
「今日うち、誰もいないから」
「…………へ?」
伊万里は何でもないように言う。
するとしてやったりと言った顔で俺のことを見る。
「あ、やっぱりえっちなこと考えてた」
「ち、違います違います! というか、今のは伊万里が悪いだろ!」
「ふふっ、三好くんが面白くてついね」
「男の子をからかうのはやめていただきたい! 全男子を代表して、本気の時だけ言うようにお願いします!」
「あははっ!」
弾けるように笑う伊万里を横目に、俺は顔の熱を冷ますように手でパタパタ仰ぐ。
こうして、伊万里の部屋で勉強会をすることになった。
◇ ◇ ◇
ピコン、とスマホが鳴る。
ちょうど家から出ようとしていた私は、靴を履くのを一度止めてスマホを見た。
「あ、兄さんからだ!」
ワクワクしながらメールを見ると、今日帰りが遅くなるという内容だった。
私は少し考え、ぽつりと呟く。
「……怪しい」
兄さんは最近、女の人の影を感じることが多々ある。
もしかしたらこれが……と思うと、急に焦りがこみ上げてきた。
「これは動く必要がありそうだ……」
私は私と兄さんの未来を守るために、行動に出ることにした。
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