最終話 幸せになっていく


 客が一人もいない、閑散とした店内でいつも通り書架整理を行う。

 隣で黙々と在庫を確認していたのは、みなさんご存じロリ大魔人、夏目先生である。


「へぇ、康太は義妹と付き合ったのか」


「ま、まぁな」


 付き合った、という言葉に未だ慣れていなくて無性に恥ずかしい。

 正直なところ実感も沸いていないし、こうして誰かに言うのも若干の違和感があった。


「確かすごい可愛い子なんだろ? やったじゃないか」


「まぁな。まさか俺みたいな奴が……とは思うけどな」


「私はそうは思わないぞ?」


「え?」


 聞き返すと、夏目が整った顔立ちにわずかな笑みを浮かべる。


「康太はいい奴だし、話していて楽しい。私はかなり友達が少ない方なんだが、それでもこの短期間で仲良くなれたのは康太くらいだ」


「な、夏目……」


 夏目がぽん、と俺の肩に手を置く。


「自信を持て、康太。これから一人の女の子を幸せにするんだ。自分に自信を持たないでどうする」


「……確かにそうだな。ありがとう。俺も夏目はいい奴だと思うよ。友達が少ない俺でも、短期間で仲良くなれたんだからな」


「ははっ、全く、康太はお調子者だな」


 ケラケラと笑う夏目。俺も釣られて笑ってしまう。

 またしても実感する。やはりこのバイト先は大当たりだったな。

 こうして気の合う友達ができたわけだし。


「あ、そうだ康太。聞きたいことがあったんだが……」


「ん? なんだ?」



「いつ子供を作る予定なんだ?」



 …………。


 …………。


「…………はい?」


 今までのいい流れ、フル無視……?


「いつ頃子作りする予定なんだって聞いてるんだ。私としては出来るだけ早い方がいいと思うぞ。そうすれば、よりたくさん子供が作れる。つまり――ロリが増える!」


「ブレないなお前は⁉」


 そういえばそうだった。

 先ほど紹介した通り、この人はロリ大魔神なんだった。忘れちゃいけないよな。


「ほら、康太の義妹は美少女だろう? なら、なおさらロリコンのために……いや、世界のために子供をたくさん産むべきなんだ! うん、今日帰ったら子作りしろ! 私と約束だ!」


「仕事してくれません⁉」


 全く、夏目は困った奴だ。

 この先夏目がどういう人生を送っていくのか、非常に興味があるので、ずっと友達でいることにしよう。


 どこまでもどうしようもないロリコンだけど。





     ◇ ◇ ◇





 学校に登校する。

 教室に到着すると、見知った顔二人が俺の席の周りに座り何やら作業をしていた。


「おはよ、伊万里」


「おはよう、三好くん」


 今日も今日とて伊万里は伊万里で、ニコッと微笑みかけてくれる。


「奈良橋も、おはようさん」


「み、三好ぃ~!」


 涙目になりながら、苦しそうにプリントに書き込んでいる奈良橋。

 そのすぐそばには大量のプリントが積まれていて、何やら大変そうな模様。


「聞いてくれよぉ~! 俺朝一で登校させられて、委員長の仕事させられてんだよぉ~!」


 泣きついてくる奈良橋の視線を伊万里へと受け流す。


「いやぁなんかね? 昨日の放課後に先生に頼まれた学年会議の書類があってさ、凄く大変そうだったから奈良橋くんに手伝ってもらってるんだ」


「手伝うっていうか、ほぼ俺一人でやってるじゃんかぁ~!」


「え? 何?」


 伊万里の雰囲気が鋭いものに変わる。

 

「ひぃッ!!!」


 圧をかけられた奈良橋は、怯えるように背筋をピンと伸ばす


「もしかして、あの時の言葉は嘘だったの?」


「な、なんというか……」


「何でもします、って言ってたよね? 私の奴隷になるって、言ってたよね?」


「お、俺の知ってる伊万里じゃない……俺たちの知ってる委員長じゃないッ⁉」


 奈良橋が言うと、ふふふと伊万里が不気味な笑みを浮かべる。


「奈良橋くんが知ってる私ってなんだろうね? ねぇ、三好くん?」


「ッ⁉⁉⁉」


 鋭利な視線の矛先が今度は俺に向く。

 背筋がゾクッとするこの感じ。恐ろしいったらありゃしない。


「そういえば三好くんも、私に責任取ってくれるって言ってたよね?」


「い、言いましたけど……」


 しどろもどろになりながら、なんとか応えると伊万里が顔をパーッと明るくさせる。


「ふふっ、じゃあ三好くんも手伝ってね! ちなみに、これあと八クラス分あるからさ!」


「「は、八クラス分⁉」」


 奈良橋と声が重なる。


「ふ、普通それぞれのクラス委員がやるもんなんじゃないのか? なんでうちのクラスが全部受け持つんだよ」


「もちろん、私の内申点のためだよ?」


「めちゃくちゃ私情じゃんッ⁉」


「なななんてことを……」


 震え、恐れおののく俺と奈良橋に、伊万里はからかうような笑みを浮かべて言った。




「二人とも、頑張ってね?」




 伊万里の言葉に体が重くなるのを感じながら、俺も席について作業を始める。

 伊万里は苦しむ俺たちを見て、楽しそうに笑っていた。


 これも含めて、伊万里は伊万里なのだ。

 きっとこの先も変わっていくだろうけど、それでも、俺は伊万里と関わり続けていくだろう。


 そんな予感と期待を込めて、俺もふっと笑みをこぼした。





     ◇ ◇ ◇





 夏がやってきた。

 毎年この季節がやってくるごとに、年々気温高くなってないか? と思う。


 夏は外に出ないに限るのだが、今日はそんなことは言ってられず。

 準備を終えた俺は、彼女の扉をノックした。


「おい雪音、そろそろ行くぞ」


「あ、うん!」


 俺の呼びかけに、雪音が扉を開いて応じる。

 雪音は夏らしい麦わら帽子に白いワンピースを身にまとい、今日もきっと世界で一番であろう輝きを放っていた。


「似合ってるな、それ」


「えへへ、でしょ?」


 雪音が自然な流れで俺の腕にしがみつき、頬をすりすりとこすりつけてくる。

 夏なのに熱い……とは言わない。言ったら怒られるし。


「よし、行くか。電車の時間も迫ってるし」


「うん、そうだね!」


 ニコニコと満面の笑みを浮かべる雪音を見て、思わず頬が緩む。

 俺のすぐ隣で、この笑顔をずっと見れる。俺はそれだけできっと、最高に幸せだ。


 玄関で靴を履き、扉に手をかける。

 振り返ると、冬子さんと父さんが俺たち二人を見て微笑ましそうにしていた。


「じゃ、行ってくる」


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい!」


「気をつけてな」


 挨拶を交わし、外に出る。

 もわっとした空気に、照り付ける太陽の日差し。

 暑い、これが夏だ。


「あー日焼け止め塗ればよかった」


「あっちで塗ればいいんじゃない? あ、塗り合いっことかしようよ康太!」


「塗り合いっこねぇ……」


 俺が渋っていると、雪音が目を細める。


「あ、もしかして康太、恥ずかしいの? 今さらぁ?」


「い、今さらとか言うな!」


「だってそうじゃん。実際康太、昨日の夜に――」


「ちょいちょいちょいちょい! そういうこと外で言うな! ほら、早く行くぞ!」


「ふふっ、うん、康太っ♡」


 雪音と手を繋ぎ、青空の下を歩く。


 二人で成長していく。二人で大人になっていく。


 そうやって俺たちは、幸せになっていく。




                       完




――――あとがき――――


最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


ここまで書くことができたのは、毎話読んでくださったり、いいねをくださったり、感想を書いてくださった皆さんのおかげです!

つくづく、ネット小説というのは作者一人で完結できるものではないなと実感しております。


今作は作者にとって初めての義妹モノで探り探りでしたが、楽しんでいただけたなら幸いです。


今後も日々に少しだけ色を足せるような小説を書いていきますので、よろしければ作者フォローの方よろしくお願いします!

また、新連載、「記憶喪失したと思っている口下手な美少女が俺と友だちだと嘘をついた。今さら俺の記憶が戻ったとか絶対に言えない」も始まっていますので、こちらもご覧いただけたら嬉しいです!


では、またお会いできる日まで!


本町かまくら


 


 

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病んでる義妹に寄り添ったら、俺がいないと生きていけない体になっていた件 本町かまくら @mutukiiiti14

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