第14話
中に入るとお店の中にいたのはこしが曲がったおばあちゃん1人だけ。
「あら久しぶりねユリンシスちゃん」
「お久しぶりです」
「ここはやっぱり前と変わってないんですね」
「この店はすっかりリピーター専用の店みたいになっちゃってね新規のお客さんは全く来ないのよ」
「でもだからこそこんなに年を取った私でもお店ができてるから感謝はもちろんしてるんだけどね」
「ところでその横にいる方は?」
ユリンシスの横にいるプレミアを見る。
おばあちゃんに目を向けられると条件反射のようにユリンシスの後ろに隠れる。
「あらあら可愛いわね」
とても優しい目を向ける。
「それでプレミアちゃんでよかったかしら?」
言葉は何も返さずにただ強くうなずく。
「自分が得意だと思う魔法ってある?」
「だいたい杖を買うときは自分の得意な魔法を活かせる杖を使うか全体的な能力を上げる杖を買うかの2択なんだけど」
「何かこだわりはあるかしら」
「特にないです…」
「それじゃああなたが使えそうな杖を一通り見ていきましょうか」
今にも消えそうな聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で困った様子もなくそう言葉を返しているおばあちゃんを見て俺は思わず驚く。
「右の杖が重たい分強い攻撃を放ちやすい」
「左の杖が細かい攻撃を早いスピードでモンスターに打ち込める」
「両方とも手に取ってみていいでしょうか…」
さっきと同じように今にも消え入りそうな声ではあるものの自分から尋ねることができている。
「もちろんです両方とも手に取ってみてください」
若干どこか怯えたような様子で大きい方の杖を手に取る。
杖を持ち上げようとした瞬間支えることができずプレミアの体がよろけてしまう。
「危ない!」
転びそうなプレミアの体を受け止めたのはユリンシスだ。
「ありがとうございます」
「気をつけてくださいね」
「これは私にはとても扱えそうにありません」
確かにこれでは魔法を扱うどうこうという話ではない。
「プレミアちゃんは小さめの杖の方がいいみたいですね」
ユリンシスが優しい口調で言う。
本当の戦いでこんな魔法の杖を使われたら魔力コントロールができなくて爆発させてしまうかもしれない。
「すいません」
ユリンシスに申し訳なさそうに言葉を口にする。
「私は全然大丈夫なんですけどプレミアちゃんはどっか怪我していませんか 大丈夫ですか!」
体をペタペタと触り確認する。
「大丈夫です私は受け止めてくれたおかげでどこも怪我していません」
「すいません、選ぶのに時間がかかってしまって 」
「自分がどういう魔法が得意かぐらい分かっていればもう少し早く決められたかもしれないのに」
「いいんですよゆっくり選んでください」
言っておばあちゃんは隣にある小さい方の杖を手に取りプレミアに手渡す。
「こっちの杖はさっきの杖と比べるとすごい軽いですね」
「その杖は自分の魔力が魔法に変換されるスピードが早いから新人の方にもおすすめです」
プレミアがその杖についている値札を見てわずかに驚きの表情を顔に浮かべる。
「ありがとうございます他に自分にあったいいものを探してみますね」
「プレミアちゃんこの魔法の杖が欲しいんじゃないですか」
「いいえ私は他のものを探してみます」
「でも少しいいなと思ったから今値札の方を見たんじゃないですか?」
「いいえそういうわけでは、ただこういう魔法の杖の値段っていくらぐらいなんだろうと思ってみただけです」
言いながらプレミアが手に持っている杖を元の場所に戻す。
「なるほど、おばあちゃんこの杖を1つください」
「あの私は…」
「この杖は私がプレミアちゃんに勝手にプレゼントしたいと思って買ったものです、なので他に欲しいものがあれば買ってもらって構いませんよ」
それ以上プレミアがそのことに対して何かを言うことはなく。
ただ小さな声でありがとうございますとつぶやく。
おばあちゃんにお礼を言った後そのお店を出た。
(どうしましょうさっきの杖かなり高かったのでカツカツです)
(いいところを見せようと思って見えを貼ったりするからそういうことになるんですよ)
冗談交じりの口調で言う。
(これは決して見えなんかじゃないです!)
(でもこれから3人で冒険者ランクを上げて行こうっていうのにそんなお金の使い方をしてて大丈夫ですかね)
(ギルドに貼られてるクエスト内容によっては移動するためのお金は自分で払ってくださいって書かれてるクエストもありますし)
(このまま行くと行く先々でプレミアちゃんに何か買ってあげたくなっていつのまにか破産してるって言う光景が容易に想像できるんですけど)
(なかなか痛いところをついてきますねなんとなく私もそんな気がします)
(でも安心してください、もしお金が足りなくなったら私の分のお金を切り詰めてどうにかしますから!)
(安心できる要素がどこにも入ってないんですけど)
「おかえりなさい」
「こちらがお預かりさせて頂いていた書類です」
プレミアに書類を渡す。
「ありがとうございます」
まだ記入できていなかった部分に情報を書いていく。
「書き終わりました」
「それでは次に能力テストをやっていただくので別の部屋に移動しましょうか」
「私見学してもいいでしょうか」
「いいですよただテストをやっている最中はその中に入らずガラス越しに見学をしてください」
「分かりました」
(俺も一緒に行っていいんですか?)
(私が能力テストをやってた時は他に面倒を見れる人がいなかったので受付の人に預けてましたけど今回は私が能力テストをやるわけじゃないので大丈夫だと思います)
「バッタさんも一緒に見学してもいいですか?」
言いつつも確認する。
「構いません」
中に入ってみると目の前にはガラスで覆われた大きな部屋があった。
中にプレミアが入っていく。
すると色々な能力テストが始まる。
最初は体力測定や握力テスト後はモンスターの攻撃をどれだけ避けられるかというテスト。
(なるほどこれでユリンシスさんが能力テストをやった時に倒れそうなほどフラフラになっていた理由が分かりました)
「それでは最後に自分が得意としている魔法を一つだけ使ってみてください」
プレミアは、はいと短く返事を返し魔法の杖を構える。
何もなかったはずの地面からいきなり木の根っこが生え始める。
それから数分も経たないうちに目の前に大きな木が現れその上にプレミアが乗っかっている。
しばらくして全てのテストが終わった。
「それでは能力テストの総合結果を発表します」
「魔法はSランクでその他の能力はCランクで平均といった感じですね」
「すいませんもう少しいい成績を出せるかと思っていたのですが」
申し訳なさそうに言ってくる。
「いいえこれから伸ばしていけばいいんですよ」
と言っているユリンシスの笑顔は若干引きずっている。
(ユリンシスさん同じテストをやった時魔法の部分は同じでSランクだったんですけど他の部分はDランクだったんですよ)
「そうだったんですかすいません」
俺とプレミアのやり取りが聞こえていない女の人はきょとんとした表情をしている。
「これでプレミアさんは冒険者ということになります」
「ありがとうございます」
「ユリンシスさん」
「何ですか?」
「この杖を買ってくれて本当にありがとうございます」
丁寧に頭を下げ改めてお礼の言葉を口にする。
「これでたくさんの冒険を一緒にしましょう」
「はい喜んで」
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