第6話
次の日。
「おはようございます」
ユリンシスが眠たそうな目をこすりながら体を起こし言ってくる…
(おはようございます)
昨日の夜俺は小さなタオルを上にかけてもらい眠りについた。
ベッドで一緒に寝ましょうとも言われたがもし寝返りを打たれて俺が反応できず押しつぶされても困るので断った。
それに今の俺がいくら見た目がバッタだからとはいえ男である俺と一緒に寝るというのは色々と問題がある。
扉をノックする音が聞こえる。
「朝ご飯をお持ちいたしましたので中に入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ入ってください」
失礼いたしますと言って女の人が中に入ってくる。
テーブルの上にいくつかの朝ご飯を並べる。
トーストにトマトスープそれと俺には昆虫食のゼリー。
「それではごゆっくりどうぞ」
昨日の夜俺に修行をつけて欲しいと言わ
れ2人で朝早くから起きて修行しようということになったがもしここで魔法を放って暴走するようなことがあれば大問題なので人気のなさそうなところに移動してから修行をする。
「いただきます」
(いただきます)
「気になってたんですけど元々人間だったアリユスさんがそのゼリーを食べて美味しいと思えるんですか?」
(昆虫食のゼリーって比較的甘く作られてるからってゆうのもあるとは思うんですけど、そんなに食べられないってほどじゃないですね)
(バッタの体に乗り移ってるから味覚が変わってるっていうのもあるかもしれませんけど)
それから俺たちはこの宿を出る準備をしてお礼を言った後宿を出た。
ユリンシス曰くここから少し歩いた場所に誰もいない開けた場所があるらしいのでそこで修行することにした。
(本当に誰もいませんね)
「この辺は特にモンスターがいきなり出現することもないので冒険者の人達も来ませんしゆっくり修行できると思って」
「早速ですが修行をつけて頂いてもよろしいでしょうか?」
(よろしくお願いします)
言うと手に持っている杖をぎゅっと握る。
(それじゃあまずはあの時魔法を放った感覚をなるべく鮮明に思い出してみてください)
「分かりました」
魔法の杖を構える。
ゆっくりと杖の先にある水晶の部分に自分の魔力を注いでいく。
(いいですよいいですよそんな感じです)
だが途中まではうまくいっていたもののだんだんと魔力の力が不安定になり爆発してしまう。
(なるほどもしかしてユリンシスさん魔力を注ぐ最後の方頭の中で失敗する瞬間を思い浮かべてませんか?)
「はい実は途中まではちゃんと魔力を冷静に調整できるんですけどいざ放たないきゃって思うと、失敗したらどうしようとかそういうことばっかり考えて」
「最終的には魔法が失敗した時の自分を頭の中で思い浮かべちゃうんです」
「でもなんでわかったんですか私が頭の中で途中から失敗する自分を思い浮かべてるって」
(魔法の杖を握る手に途中から明らかに余計な力が入って緊張してたので多分そうかなと思って)
俺はユリンシスの肩の上に乗る。
(少しだけ指示を出すので魔法を使ってみてください)
「分かりました」
同じように魔法の杖を構えゆっくりと自分の魔力を注ぎ込んでいく。
やはり同じように途中まではうまく魔力を注げていたもののだんだんと魔力の注ぎ方が乱れてきている。
(少し魔力の注ぎ方が乱れてきているので落ち着いてください)
言うと小さく深呼吸をし乱れた心を整える。
(放って!)
「はい!」
すると火の玉がはるか彼方まで飛んでいく。
遠くまで飛んで行ったはずなのにかなり大きな爆発音が聞こえてくる。
(ここからしっかり見えたわけじゃないですけどすごい爆発力でしたね)
(でもまあ何がともあれ成功したってことは今のと同じ感覚でやればまた成功できるはずです)
「分かりましたありがとうございます」
「でもなんであの大型モンスターと出くわした時は感覚をつかめてないのに魔法を使えたんでしょうか?」
(それはおそらく無意識的にコントロールができていたんでしょう)
(でもこれから冒険者として活動していく以上はそんな偶然だけに頼ってたら命を落とします)
(さて俺は俺で別の生き物に乗り移れるかどうか確かめてみないとな)
とは言ったものの俺の場合は乗り移るための生き物を探してからだな。
あたりを見渡し生き物がいないか見ていると、黒い蝶が咲いている花の周りを飛んでいた。
(よし試しにあれに乗り移ってみるか)
(でもこのバッタの体に乗り移った時はそもそもどうやって乗り移ったんだっけ?)
記憶をたどり考える。
(確かあの時は早く助けないと、と思ってでもこんな誰も認識してくれない状態でしかも触れても体をすり抜ける状態じゃ助けられないだろうと思ってて)
(そんな時に地面にバッタが止まった)
(あの時は確か俺に体があったらって思ってたんだよな)
花の周りを飛んでいる黒い蝶に視線を向ける。
その蝶に視線を集中させていると、バッタの体から自分の魂が抜き出るのを感じ蝶の頭の中に入る。
するとバッタの中に初めて入った時と同じようにそこには慶應志賀対光景が広がっていた。
俺の姿があの時と同じように戻っている。
「どういう理由なのかは全くわかんないが姿が戻ってる」
目の前にいる黒い蝶が俺のことを睨みつけてくる。
少し間を開け襲いかかってくる。
剣を構えその攻撃をガードし距離を取り様子を伺う。
「バッタの時もそうだったけど生き物の体を乗っ取る時にはその中にいるやつと戦わなきゃいけないのか!」
だが蝶の動きはバッタの時と同じで単調でそんなに攻撃をよけるのには困らない。
次に俺に向かって飛んでくるタイミングを見計らい剣を構え直し蝶の体を剣で真2つに切り裂く。
目を開けると蝶に乗り移れていた。
それから俺はできる限りの生き物に乗り移り色々と試してみた。
何回か色々な生き物に乗り移ってみて分かったことではあるが、乗り移る生き物の脳みそが小さければ小さいほど乗り移り安い。
乗り移っても記憶や身体能力はそのままみたいなので乗り移った瞬間に最強の生物が誕生する。
ユリンシスの修行の方はどうなっているんだろうと気になり見てみるとかなり魔力操作ができるようになったみたいだ。
(アリユスさんちょっとやってみてほしいことがあるんですけど)
「私にできるようなことであれば構いませんが一体何をするんですか?」
(魔法を使って俺と戦ってみてほしいんです)
「戦うんですか?」
(乗り移る前の体と今のこの体がどれくらい差があるのか確認しておくためにお願いします)
「分かりました」
お互いに距離を離し戦いを始める。
魔法の杖を俺に向け攻撃を放つ。
(この短時間で魔力を調整して周りにむやみやたらに被害が出ないようにしてる!)
(ええこの短時間ではありましたけど色々なことができるようになりました)
(このままだと戦いにならないので1回私との脳内会話を切りますね)
たった1回俺が今の攻撃を避けただけで動きを把握したらしく。
次に放ってきた攻撃は俺の頬をかすねる。
それから再び距離を取り動きを観察する。
この体じゃあもし真正面まで詰め寄られた時に瞬時に避けることができないな。
別の体に乗り換えるか。
1度乗り移ることができた体はいつでも出入りすることができる。
俺が体に入っていない時はただの死骸と化すので傍から見たら結構怖い。
長いこと戦いが続いた。
「ここら辺で一度終わりにしましょうか」
(それにしてもこの短時間でかなり魔法を使えるようになりましたね)
「アリユスさんに修行をつけてもらったおかげです」
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