第31話
「お2人ともお戻りになられたんですね!」
口調だけ聞くといつも通りの心配を含んだ口調に聞こえるがいつも以上に驚きを含んでいる。
「少々手こずりましたけどアリユスさんとプレミアちゃんが協力してくれたおかげでなんとか倒せました」
「これが今回のクエストのダンジョン攻略を成功させた証です!」
ユリンシスは言って大きな袋の中からボス部屋にいたドラゴンから剥ぎ取った素材の白い鱗を受付の女の人に見せた。
「これは確かに本物ですね!」
今までで一番驚いた声を上げる。
「お2人ともAランクの昇格おめでとうございます!」
自分のことのように嬉しそうに笑いながら拍手をしてくれる。
「何だってこのギルドに一気にAランク冒険者が2人も増えたのか!」
隣のテーブルでお酒を飲んでいた男の人が驚きの声を上げ立ち上がる。
周りで話を聞いていた冒険者の人たちは一斉に立ち上がり俺たちに拍手をしてくれる。
「皆さんありがとうございます」
ユリンシスが丁寧に頭を下げる。
プレミアと俺も同じように頭を下げる。
「ってかあいつら2人まだ冒険者になって3ヶ月ぐらいしか経ってないやつだよな!」
「それなのにもうAランクかとんでもねぇスピードだな」
「本当にな普通の冒険者だったら最低でもAランクの冒険者になるためには5年かかるっていうのにな」
俺たちを立ったまま遠巻きに見ている男2人がため息を含んだ言葉を漏らす。
「それにしてもなんであのパーティーたった女の子2人だけなのにそんなに強いんだ?」
「あのパーティは2人だけじゃねえんだよ」
「どういうことだ?」
「あの少し小さい子の隣にいる女の子の方の肩の上に乗ってるバッタがとにかく強いっていう噂だ」
「そんなに強いのかよ」
「見た目は普通のバッタにしか見えないけどな」
「使い魔契約かなんか結んでるのか?」
「俺も詳しいことは何も知らねえが何でも裏社会の組織をあのバッタ1匹で倒したっていう話だぜ」
「ええそんなに強いのかよ!」
「これは聞いた話だから詳しいことはわからないが少なくとも30人以上はいたらしい」
「もちろんあの女の子2人も魔法使いとしてとても優秀で今大活躍中のルーキー達ってわけだ」
「しかもあのバッタの方に至っては魔王の生まれ変わりっていう噂もあるぐらいだ」
周りから目も葉もない噂が聞こえているが気づかないふりをする。
(それにしても俺が魔王の生まれ変わりだっていう噂はどうなって広まったんだ)
(魔王はむしろ俺が倒さなきゃいけない相手だってゆうのに)
(いくら何でも話に尾ひれがつきすぎだろう)
(まぁって言ったところで噂の拡散はどうあがいても止められないので放っておくしかない)
俺たちに対する拍手が終わりいつも通りの空気に戻ったところで受付の女の人が俺たちを手招きしてくる。
「どうかしましたか?」
こうやって呼ばれる時はだいたい小声で何かを言われる時なのでユリンシスが小声で尋ねる。
「ちょっと奥の部屋でお話をしましょう!」
真剣みを帯びたその口調に俺たちは静かに頷く。
後ろについて行き奥の部屋に入る。
前にも1度来たことがある部屋だ。
「どうぞそちらに座ってください」
言われた通り椅子に座る。
「それで私たちをここに呼んだということは他の方々がいる場では話せないということですよね?」
ユリンシスが確認する。
「ええ、それはそうなのですがまずその話をする前に」
横に置かれていた大きな袋をテーブルの上に上げる。
「こちらが今回の報酬になります」
前にBランクに上がった時よりも報酬が多いのが袋ごしでもわかる。
「それでは中身の報酬をご確認ください」
すると思っていた通りBランクに上がった時よりも3倍ぐらい多い金額が入っている。
「いいんですかこんなにもらっちゃって!」
ユリンシスはBランクに上がった時の報酬をもらった時と同じように驚きの声をあげる。
「いいんですよ実際お2人にはそれほどの活躍をしていただきましたし」
「実際お2人にはこれからもっともっと活躍してもらうことになると思います」
「それでは報酬を無事にお渡しできたところで本題に入ってもよろしいでしょうか!」
真剣な口調で訪ねてくる。
「お2人がずっと受けようとしていた裏社会で奴隷を売り続けている組織についてなんですが」
「何か新しいことがわかったんですか?」
ユリンシスが食い気味に尋ねる。
「新しい情報は入ってきていません」
「ただその闇の組織に関するクエストが1つあってそのクエストを2人でお受けになりますか」
「はいもちろんです」
「あ!でもプレミアちゃんはどうしますか?」
1人で勝手に決めちゃいけないと思い直したようで横にいるプレミアに尋ねる。
「私も一緒にそのクエストを受けます」
「そうですかですがそのクエストを受けていただく前に1つ説明をさせてください」
「もちろんAランクのクエストもクエストボードには貼られているんですが、今回のクエストのようにクエストボードに貼られていないいわゆる極秘任務も存在します」
「今回のクエストは情報が少なすぎてどういう組織なのかもよくわかっていません」
「どのぐらいの人数がいてどのぐらいの強さなのかももちろん分かっていません」
「それなりの覚悟をしていってください!」
「今回お2人に向かってもらう場所なんですが明確な組織の拠点が分かっておらず地図をお渡しすることができないんですが、南の方に行っていただくとアルトという街があり中にその組織の拠点があるそうです」
「分かりました」
「とりあえず地図がないなりに街までやってきましたけど本当にここであってるんですかね!」
プレミアが不安を含んだ言葉を漏らす。
(それにしてもこの街なんかおかしくないですか?)
かなり大きい街のはずなのに全然人が歩いていない。
「確かにかなり大きな街なのに全然人が歩いていないのは少し不気味かもしれません」
ユリンシスが訝しげな表情を浮かべながら俺の言葉に頷く。
「お姉様とりあえずあの真ん中にあるとても大きな塔のところまで行ってみませんか?」
「何かがわかるかもしれませんし」
街のど真ん中に立っている大きな塔はとてつもない存在感を放っている。
何度か闇の組織と関わりがある人間と戦ったことがあったがそのどれもが空振りに終わった。
俺たちは街のど真ん中に立っている塔に向かった。
「これってどうやって入るんですか?」
周りが断崖絶壁に覆われていてそう簡単に入ることができない。
横にいるプレミアが中に入るための方法を考えているようだが入るための扉がそもそもないのでどうしようもない。
(とりあえず俺が飛んで中がどうなってるか確認してきます)
言って鷹の体に乗り移りその塔の最上階まで一気に向かう。
さすがに中の声までは聞こえないのでどういう奴らなのか全くわからないがその建物の中にはたくさんの武器が置かれているのでただの一般人じゃないことは確かだ。
(見た目で人を判断してはいけないとよく言うが中にいるやつの見た目と用意されている武器から考えて普通のやつじゃない)
(もしかしたら街の中で人通りが少なかったのも何か関係してるのかもしれない)
とりあえず中にもちゃんと扉があるようで入る方法がわかったのでとりあえず2人がいる場所へ戻る。
「どうでしたか?」
ユリンシスが短く訪ねてくる。
(中に思ったよりもたくさんの人数がいるのと入る方法が分かりました)
(真ん中の壁を叩けば中にいる誰かしらが気づいてくれるはずです)
「分かりました!」
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