第18話
(それにしても本当にこの場所は広いですね)
まだまだ先が見える気がしない。
「いつになったら先が見えてくるんでしょうかね」
ユリンシスが足を進めながらため息の言葉を漏らす。
(もう少し歩いたらどこかで休みませんか2人とも疲れているでしょう)
周りの景色が全く変わらないので本当に前に進めているのかという不安を覚えるがさっきからずっと洋館の中を歩き続けている。
俺はバッタの姿で空に飛んでいるからあまり疲れを感じないが2人はずっと歩いているので、間違いなく多少は疲れているはずだ。
「私は大丈夫です歩けますから」
「私もです…」
プレミアが軽く頷き言葉を返してくる。
2人がそれでいいと言うならそれ以上は何も言わず足を進める。
しばらくただひたすらに足を進めていくと目の前にいかにも高級な王様が使っていそうなマットが引かれている。
「なぜこんなところにマットが引かれているんでしょうか?」
ユリンシスは疑問を含んだ口調でそう言いながらも慎重に前に進む。
ユリンシスの足がマットの真ん中を踏んだ瞬間地面が開き俺たち3人はその穴に落ちていった。
(いてて)
あまりに一瞬のことすぎてまだ理解が追いついていないが今俺がいるこの場所は真っ暗闇で何も見えない。
「アリユスさん大丈夫ですか?」
その声が聞こえる方に顔を向けてみるがかろうじてそこに人がいるということがなんとなくわかるだけで姿は見えていない。
「プレミアちゃんは大丈夫ですか!」
どこにいるかはわかっていないものの必死にあたりを見渡しているのがその口調から伝わってくる。
「私なら大丈夫です」
戸惑いと焦りを含んだ口調で答える。
(随分と深いところまで落ちましたね)
俺は上の方からわずかに差し込んでくる光を見ながらつぶやくように言う。
「すいません私の不注意で」
申し訳なさそうに言ってくる。
アリユスをせめているつもりは全くなかったのだが本人からしてみればそう感じてしまうのも仕方がないのかもしれない。
(とりあえず俺はこのまま一歩も動かないで止まっているので2人はまっすぐ歩いてきてもらっていいですか?)
歩くというほどの距離ではないかもしれないが誰か1人が止まっていれば手探りで一箇所に集まることぐらいだったらできるだろう。
特に何も困ることなく3人同じ場所に集まることができた。
(今の一番の問題はこの穴からどうやって抜け出すかってことですけど)
何か使えるような道具があれば話は別だが特に何か使えるような道具をギルドのショップで買ってきたりはしていないので別の方法を考えるしかない。
(まさかジャンプしたらあそこまで届くわけもありませんし別の方法を探しましょうか)
とりあえずユリンシスと前にダンジョン探索をする時に使った暗い場所を照らすひょうたんで明かりを確保する。
あたりを見回しながら抜け穴のようなものがないか3人で探す。
すると大きな岩に半分隠れて見えにくかったが頑張れば3人で通れる道を見つけた。
道をしばらく進んでいると坂道になっていることがわかる。
「坂道になっているということはこのまま進んでいけば元の場所に戻れるってことですね」
プレミアが期待半分不安半分といった口調で言って進もうとする
(それは分かりませんがこのまままっすぐ進んでいけばおそらくどこかの場所に出るのは間違いないでしょうね)
また何か仕掛けが地面の下に仕掛けられているかもしれないので慎重な足取りで気をつけながら進んでいく。
途中からこのまま前に進み続けても出口は現れないんじゃないかと思っていたが歩き続けていると一筋の光が差し込んでくる。
今までずっと疲弊の言葉を漏らしながらも歩き続けていたユリンシスがとても嬉しそうな口調で言う。
「ようやく出口が見えてきましたね!」
その光の方へとひたすら歩くとやはり思っていた通り元の場所に戻ってきた。
「ヤッターなんとか戻ってこれましたね!」
嬉しさのあまりユリンシスが腕を上に上げ喜ぶ。
(でもこっからまた色々と探索しなきゃいけないんですよね)
ほっと胸をなでおろした雰囲気に水を差してはいけないと思いつつもそんな言葉が漏れる。
「そうですねまだおそらく1割も探索できていませんもんね」
無事に全ての洋館の中を探索しきれるのかと言いたげな不安そうな表情をプレミアは浮かべる。
(正直言ってこの古びた洋館を探索できるのかは俺にも分かりません)
「そうですよねクエストを受けてしまった以上はこのクエストを終えなければいけませんし」
そのプレミアの表情は歩き疲れたというよりいつになったら終わるんだという諦めのようなものを感じた。
(なんだこれ)
どこからともなく出てきた霧のようなガスが俺たちの周りを覆う。
周りに充満したガスが口に入らないようにするがだんだんと自分の意識がどこかに飛んでいく。
目を覚ますと俺の目には綺麗な雲がいくつか浮かんだ空が目に入った。
「ここはどこなんだ?」
まだ何が起こっているのか理解できない頭で考えながら当たりを見回す。
「こらアリユスいつまでこんなところで昼寝をしてるのご飯が冷めちゃうから早く戻ってきなさい」
どこか懐かしさを感じる声が聞こえ後ろの方に顔を向けてみると俺は不思議な光景を目にする。
顔の部分だけに霧がかかっている。
「何その顔?」
「私は多少大人になったとはいえそんなに顔立ちは変わってない!」
「変なこと言ってないでさっさと家の方に戻ってきなさい」
しゃべり口調は本当のお母さんのようだ。
「分かった分かったから手放して!」
引っ張られている頬を話してもらい後ろについていく。
「それで今どこに向かってるんですか?」
「は!」
足を止め俺の方を振り返る。
その口調はどうしてそんなことを聞くんだと言いたげだ。
「あなた今日は本当にどうしたの今から行くのは自分の家でしょ」
「それに何そのやけにうやうやしい態度はいつも通り普通にすればいいじゃない」
やっぱりおかしい何なんだこの状況は?
自分が覚えている一番新しい記憶から状況を考えてみる。
確か今まで俺は洋館の中を探索しててそしたら穴の中に落ちてでもなんとかそこから抜け出すことができた。
大丈夫そこまでは覚えてる。
それからも探索を続けててそしたらいきなり周りに変な煙が充満し始めて。
それから俺の意識がだんだんと遠ざかっていって。
「そうだ2人は大丈夫なのか!」
無意識のうちに言葉になり外に漏れていた。
「あんた本当に大丈夫なの?」
言いながら俺の熱を測るようにして額をくっつけてくる。
「熱はなさそうだけど体調悪くない」
「大丈夫」
笑顔でそう答える。
辺りをなんとなく見回してみると過去にここに来たことがあるような懐かしい感覚を覚えた。
何なんださっきから何かが引っかかってるこの不気味で気持ち悪い感覚。
思い出そうとすればするほどその記憶が頭の片隅に追いやられていくような思い出すのを拒んでいるようなそんな感覚がずっと続いている。
「ねえ母さん最近何か変わったこととかなかった?」
「変わったことって?」
「例えば魔王が復活したっていう噂を聞いたとか」
「魔王が復活したっていう噂は聞いてないけど」
「っていうかもし万が一そんな噂が流れてるんだったらすぐに私の耳に入ってくると思うし」
それもそうだよね。
もしかしたら何らかのきっかけで過去に戻ってきたのかと思ったがそもそも今の質問でそんなことがわかるわけもないか。
とりあえず俺にできるのは今の状況を把握しておくことぐらいだな。
言われるがままについていく。
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