第19話

とりあえずこれがどういう魔法なのかわかるまでは大人しくしておかないと!


もし下手に何かしてリアルの方の世界で寝ている俺に何か影響があったら困る。


だからと言って何もしないでこの世界にとどまっているわけにもいかない。


とりあえずここがどこだか分かっていない以上はしばらく様子を見るしかないか。



「今日はアリユスの好きなものばっかり作ったからきっとそれ食べたら元気出る」


「わいありがとう!」


全力で子供っぽく喜んでおく。


連れてこられたのはどこか見覚えのある家だった。


この家の雰囲気どっかで。


奥深くに眠る記憶を辿って思い出そうとしてみるが思い出せない。


「じゃーんどうだ」


そのテーブルの上にはたくさんの剛性な料理が並べられている。


その横に立っている母さんはドヤ顔で俺の方を見てくる。


「すごいお母さんこれ俺のために作ってくれたの!」


わからないがとりあえず褒めておく。


「いつもはあんたが料理してくれてるけど誕生日ぐらいは私が料理しようと思ってね」


「私もやればできるんだぞってところを見せたかったっていうのもあるけど」


なんとなく母さんの手の方に視線を向けてみると料理を作っている時に何どか失敗したようでほとんど全ての指に絆創膏が貼られている。


その怪我には会えて気づかないふりをし作ってもらったご飯を食べる。


作ってもらった料理の味はちゃんとするしこれは一部の感覚を現実から作り出す幻覚魔法か?


そもそも俺は魔法をよく知らないのでいまいち自信が持てないが。


とりあえず一刻も早く元の世界に戻らないと!



あれ何でそもそもさっきからずっとどっかに行こうとしてるんだ別に行く必要なんてないじゃないか?


今日は俺の誕生日なんだから家で過ごせばいい。


どこかにわざわざ行く必要なんてない。


「母さんおかわり」


「今日はどうしたんだやけにいっぱい食べるじゃないか」


「いつもは私が料理を作っても残すくせに」


「お母さんより俺の方が料理作るのはうまいもんね」


「なんだとこの野郎!」


口調だけ聞くと怒っているように聞こえるが、母さんが子供っぽく笑いながら俺の頭を少し乱暴に撫でてくる。


「そういえばお父さんまだ帰ってこないの?」


「お父さんならそろそろ帰ってくると思うんだけど?」


母さんが家の扉の方に視線を向けながら言う。


それから数分の時間が経ったところで家の扉を少し強めにノックする音が聞こえてくる。


「父さんが帰ってきたんじゃない」


言って母さんがテーブルから立ち上がりドアを開ける。


「いや今日も仕事疲れた」


「9歳の誕生日おめでとうアリユス」


「父さんが左手に持っている箱は何?」


興奮が抑えられず尋ねる。


「これは何かな?」


子供っぽい口調でじらすようにその箱をテーブルに置きゆっくりと開けていく。


「お前の一番好きなチョコケーキだ!」


「ありがとうお父さん」


「プレゼントはまだまだあるぞ」


そう言って次に父さんが取り出したのは何やら大きな布に包まれた何かだ。


「将来勇者になりたいんだったよな、だったら今から修行しておくことに越したことはないだろう」


言いながら白い布を取っていく。


するとその白い布に包まれていたのは大きな剣だということがわかる。


「ありがとうお父さん」


「でもこの剣大人用だからまだ俺には使えないと思うんだけど」


「だからアリユスには今から強くなってもらっで大人になった時にこの剣を使えるようにしておくんだよ」


「でもまだアリユスは9歳大人になるまで後6年はかかる、その間この大きな剣はどこに置いとけばいいの」


「隣の部屋まだたいして何も置いてなかっただろうあそこに剣を飾っておけばいいんじゃないか」


「じゃあわかったよあそこに飾っておくよ」


口調だけ聞くとどこかめんどくさそうではあるが表情はとても笑っている。


俺が勇者を目指していることを喜んでくれている。



「アリユスその代わり必ず勇者になれよ それまでこの件はお母さんが預かっておくから」


それからしばらくして俺は額に勇者の紋章が浮かび王様に勇者だと直々に認められた。


今までよりも修行を頑張り力をつけていった。


それから俺は15歳の誕生日を迎えた。

 

「アリユス誕生日おめでとう!」

「アリユス誕生日おめでとう!」


「いやでも本当に驚いたよ子供の時に叶えたいって言ってた夢を本当に叶えちまうんだから父さんは鼻が高い」


そう言っている父さんの表情はとても誇らしげだ。


「いやでも最近は勇者としての仕事が多すぎて大変だったからこうしてまた家族3人で集まれて嬉しいよ」


「そうか父さんもこうして家族3人でまた集まれて嬉しいぞ」


そう言っている父さんの目には涙が浮かんでいる。


「なんで父さんが涙流してるんだよ」


「なんでなんだろうなでもとにかく嬉しくて」


「お母さん隣の部屋にある剣持ってきてもらっていい?」


「剣?」


「ほらずっと前誕生日の時に父さんがくれたやつ?」


「あれねでも何に使うの?」


「これから長旅をすることに多分なるだろうしせっかくだからあの剣を使わせてもらおうと思って」


「いいよな父さん」


「ああもちろんだそのために買った件だからな」


しばらくすると母さんが重たそうな剣を持って戻ってくる。


「どうぞ」


「ありがとう母さん」


言って母さんから剣を受け取る。


受け取った瞬間全てを思い出した。


「ああ、そうか…」


とても小さな声でつぶやくように言葉を漏らす。


「どうかした?」


母さんが少し心配そうな表情で訪ねてくる。


「そろそろ俺行くわ」


「もう行っちゃうのかせっかくだからとまっていけばいいのに」


少し寂しそうな口調で父さんが行ってくる。


「そうしたいのは山々なんだけどやらなきゃいけないことを今思い出して」


言いながら俺は立ち上がる。


「アリユス」


名前を呼ばれ顔だけ母さんの方に向ける。


「大きくなったね」


「ああ、そうだな」


言葉を返し前を向きもらった剣を鞘から抜き構える。


「本当にもういっちゃうの?」


「ああ、俺にとってこの世界は少し都合が良すぎるみたいだ」


よくよく考えてみればおかしな話だ。


俺が小さい時に命を落とした父さんと母さんが生きてたりこうして剣をもらったり。


そう考えるとこの両親2人の顔にモヤがかかっているのはおそらく俺が顔を覚えていないからだろう。


そもそもこの剣は昔王様からもらったものだ。


それに俺の両親2人は俺が小さい時にいなくなっている。


「俺は勇者アリユス!」


俺は何もない空間に向かって手に持っている剣を振り下ろした。



(戻ってきたのか)


あたりを見回してみるとついさっきまでいた場所だということがわかる。


横に顔を向けてみるとユリンシスとプレミアが仰向けの状態で寝ている。


(まだ2人は意識を取り戻せてないのか)


その時少し遠くの方からモンスターの唸り声のようなものが聞こえてくる。


だんだんとモンスターの足音がこちらに近づいてくる。


(2人を早く起こさないと!)


(2人とも起きてください!)


もう俺は元の姿に戻ってしまっているのでその言葉が声になることはない。


(そうか声になんないのか だったら…)


(少し手荒な真似になりますけど許してくださいよ2人とも!)


俺は少し強めに力を込めて2人の頬を殴る。


すると2人の目がゆっくりと開く。


「アリユスさん…」


意識がはっきりしていない口調でユリンシスが俺の名前を呼ぶ。


プレミアは少し遅れて体を起こす。


(2人ともどうやらゆっくり寝てる場合じゃないみたいです)

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