第12話
女の子はか細い小さな声で話し始める
「私の昔いた村は盗賊の人たちにいきなり襲われて焼け野原にされました」
「今よりも当然力がなかった私は何もすることができずその盗賊の人たちに奴隷として売り飛ばされました」
「それからというもの私は売り飛ばされた先で力の強い男の人たちに服従するしかありませんでした」
「そうだったんですか…」
ユリンシスが何も言葉を返さず黙る。
だが少し間を開けてユリンシスが女の子の背中を優しくさすってこういった。
「大丈夫です私たちは少なくともあなたの味方ですから」
「私たち?」
「ええ、そうですよ私とこのバッタさんがあなたの味方でいます」
小さな子供をあやすお母さんのような優しい口調で言う。
すると今まで縛り付けていた感情の様々な糸が一気に切れたかのようにユリンシスの胸の中でしくしくと涙をこぼす。
それからある程度流れ出ていた涙が止まったところで思い出したように言う。
「そういえばさっきお名前を聞いた時教えてもらえませんでしたけど、名前だけでも教えてくれませんか呼ぶ時に困るので」
言うと曇った表情で顔を俯かせる。
すると小さな声で呟く。
「私には名前がないんです…」
「盗賊の人たちには番号で呼ばれてましたから」
「正確に言うなら名前を呼ばれていた記憶はあるんですけど、それがどういう名前だったのかは覚えてないんです」
「それなら私が今から新しい名前をつけてあげますね」
それからしばらく名前を考える。
「プレミアなんてどうでしょうか?」
「私はそんなに特別な人間じゃありません」
「確かに特別という意味もありますけどプレミアという言葉には幕開けという言葉もあります」
「新しい人生を歩んでいくという意味を込めて」
「…」
「嫌でしたか?」
尋ねると強く首を横に振り否定する。
「それじゃあ改めて自己紹介をしましょうか」
「私はユリンシスサリウスです」
「ユリンシス…」
なかなか続きの言葉が出てこないその様子を見て言った。
「言いづらいようでしたら自分の好きなように呼んでいただいて構いませんよ」
「私の肩に乗っているこの方が」
(俺の名前はアリユスと言いますよろしくお願いします)
「バッタが喋った!」
今までの表情の中で一番驚いた表情をしている。
「これは私の能力でバッタさんの声を聞こえるようにしているんです」
(その能力が使えるんだったらわざわざ伝えてもらわないであの男に俺の声を聞けるようにしてもらった方が早かったんじゃ)
「あの時は慌てて忘れていてすいませんでした」
そんな話をしていると扉をノックする音が聞こえる。
「失礼いたします先にお風呂と夕食どちらにいたしますか」
「それじゃあ私はお風呂で」
「プレミアちゃんはどうしますか?」
新しくつけられた名前には反応せず同じ場所に立っているだけ。
「プレミアちゃんはお風呂どうしますか?」
優しい笑顔でそう言いながら肩をポンと軽く叩く。
「私も一緒に入ります」
「それじゃあお風呂の方に先に入らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「かしこまりましたご案内させていただきます」
それから女の人にお風呂場まで案内してもらう。
脱衣所で服を脱ぎ2人でお風呂に入る。
「思ってたより広いんですね」
「さぁプレミアちゃんここに座ってください」
私が言っている意味がわからなかったのか首をかしげる。
「私が髪の毛を洗ってあげましょう」
少し冗談交じりの口調で言う。
恐る恐るではあるものの私が言った通り鏡の前にある椅子に座る。
「それじゃあ頭から洗っていきますね」
お店の人のような口調で言って優しくプレミアの頭を洗う。
「お痒いところはございませんか?」
「大丈夫です…」
緊張した様子で言葉を返してくる。
プレミアの頭を優しく優しく洗っている途中その手が止まり感情が込み上げてくる。
今までずっと我慢していた私の感情は今にも溢れ出そうになる。
プレミアの頭の上に涙の雫が一滴落ちる。
どうしたんだろうと気になった様子で私を見上げる。
すると悲しんでいる表情を見て困惑しどうしたらいいのかわからないと言った表情をして困っている。
「すいませんプレミアちゃんが盗賊に連れて行かれてしまったという話を聞いてからずっと我慢していたんですけどとうとう我慢できなくなってしまって」
流れ出ていた涙が止まったところで私は優しく後ろからハグをした。
「今までつらかったね頑張ったね…」
「でももう大丈夫だからね」
「って言って簡単に信用してもらえるとは思ってませんけど少しでも早く心を開いてくれたら嬉しいです」
「さて頭と体を洗い終わったところで湯船に入りましょうか」
「はい」
小さく頷き返事を返す。
「気持ちいい…お風呂に入ったの初めて」
小さく呟くように言葉を漏らす。
聞いていいことなのかどうなのか迷いながらもこう尋ねる。
「答えたくなかったら答えてもらわなくても大丈夫なんですけど、ここに来るまではどうやって体をきれいにしてたんですか?」
失敗したというように焦った表情で自分の口を慌てて抑える。
少し気まずそうに私から目をそらす。
だがその泳いでた目は少し間を開け私の方へと戻ってくる。
どこか諦めを含んだような口調でこう言った。
「私が奴隷として管理されていた時は小さな桶にお湯をためて体を洗い流すぐらいで、その他のことはさせてもらえませんでした」
私と同い年ぐらいだからこういう言い方は変かもしれないけど、これからはこの子に楽しい人生を歩んでほしい。
「あの…」
「何ですか?」
「アリユスさんをお姉様と呼んでいいですか?」
言われた瞬間自分の心の中に今まで感じたことがない感情が込み上げてくるのを感じた。
何今まで感じたことがない感情が私の奥底から込み上げてくる。
「ダメだったでしょうか?」
不安そうな表情で顔を見上げ訪ねてくる。
「ダメなんかじゃありませんよ私が好きなように呼んでいいと言いましたからね」
私はそのあまりの愛しさに頬ずりをする。
私のそのいきなりの行動に驚き困惑の表情を浮かべている。
いけないいけないきなりこんなことをしてしまってはプレミアちゃんに嫌われてしまう。
「ごめんねいきなり」
「いいえ私は別に大丈夫です」
何だこの子天使か何かなのか愛しい愛しいすぎる。
「それじゃあずっとお風呂の中に入ってのぼせるのもよくありませんしそろそろでましょうか」
(そろそろ2人ともお風呂から上がってきていい頃だと思うんだけど)
ちょうどそう思っていると2人が部屋の方へと戻ってきた。
(おかえりなさいお風呂は気持ちよかったですか?)
「とっても!」
満面の笑みを顔に浮かべ言葉を返してくる。
帰ってきたその言葉にはお風呂が気持ちよかったという感情以外のものが含まれているような気がした。
(どうしたんですかずいぶんと嬉しそうな顔をしていますけど)
(プレミアちゃんが可愛すぎて困ってます!)
(ユリンシスさんがこんなハイテンションなの初めて見たな)
(それはハイテンションにもなりますよあんな可愛い子に姉ちゃんって言われたら!)
(なるほどアリユスさんからすると妹ができた感覚と近い感じなんですね)
(いいえ妹などではありません天使の生まれ変わりか何かです!)
あまりにも熱を持った口調で返されてしまったので何も言い返すことができずただ頷くしかない。
「ただいま食事のご用意ができました」
「それじゃあ一緒に食べましょうかプレミアちゃん」
何がともあれ楽しそうで良かった。
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