第27話
「お2人ともおかえりなさいお怪我はありませんでしたか?」
受付の人が俺たちの方へかけてくる。
ユリンシスがその言葉を聞いた瞬間表情が何やら確信めいた表情に変わった。
「怪我をすることもなくクエストを終えることができました」
ユリンシスは受付の女の人に耳打ちをするように小さな声でこう言った…
「ちょっと人がいないところで話がしたいんですけどいいですか…」
真剣なその言葉に受付の人は、はいと短く言葉を返す。
「それではあちらの奥の方でお話をしましょうか」
俺たち3人は黙って頷きついていく。
連れてこられたのは少し暗い雰囲気の部屋だった。
「どうぞ座って楽にしてください」
2人は言われた通りテーブルの横に置かれている椅子に座る。
俺はいつも通りユリンシスの肩の上に乗っている。
「それではまず最初に私からお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「はい…」
ユリンシスの言葉に小さく頷く。
「私たちに今回の依頼をしたのはあの集団を無力化するためですか?」
「はい…」
帰ってきた言葉はさっきと同じで小さなうなずきと返事が帰ってくるだけ。
「最初からあの集団を捕まえて欲しかったんですよね私たちに」
集団っていうのは何のことですかと疑問の言葉が返ってくるかとも思っていたがそんなことはなかった。
最初から全て分かった上でやっていたこと。
(そう考えると全ての辻褄が合いますね)
(なんで俺たちに荷物を届けてもらう依頼をするだけで周りの人間に聞こえないように依頼をしてきたのか)
「つまり私たちに最初から頼みたかったのは荷物を届けるということではなくあの組織をどうにかしてほしいという依頼だったんですね」
ユリンシスが改めて確認するように言う。
「その通りです騙すような真似をして申し訳ありません」
そう言って俺たちに頭を下げる。
「もちろん今回の依頼は私が独断で決めたものではありません上の会議で決まったものです」
「あの1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
言って小さく手をあげたのは今自分が話していいのか少し迷った表情を浮かべたプレミアだ。
「なぜそもそも今回の依頼を私たちに頼んできたのでしょうか?」
「もちろんお姉様たちは実力もありますし今回のクエストを依頼する相手としては申し分ないのは分かりますが、はっきり言ってこういった秘密厳守の依頼はもっと上のランクの方にやってもらうものだと勝手に思っていたのですが?」
言い終えたところでお姉さまではなくお姉様たちと言ってしまったことに気づいたのか少し気まずそうな表情を浮かべる。
「それはもちろんおっしゃる通りなのですが他の今回のクエストを頼めるような方々はちょうどで払ってしまっていて」
「それとこのギルド自体あまり上のランクの方がいないというのが現状でして」
「こちらの手前勝手な事情だということは重々承知しているのですが」
「なるほどでもそういうことなら私たちに内容を全て話してもらった上で今回の依頼を受けたとしても特に問題ないように思うんですけど」
ユリンシスが疑問をぶつける。
「それが原則として革新的な証拠がない限りそういった闇組織の集団を捕まえることができないんです」
「なるほどだから今回の場合で言うと表向きには荷物を運ぶという依頼内容にし私たちが偶然出会ったように仕向けたということですか?」
改めて確認の言葉を投げかける。
「その通りです」
ユリンシスの言葉に特に言い訳をすることもなく素直に答える。
「それでは遅くなりましたがこれが今回の報酬になります」
テーブルの上に成功報酬が入った袋を置く。
いつもより多い金額が入っているのが袋ごしでもわかる。
「私は上の方々から今回の報酬には色をつけておくとしか言われていないので実際どのぐらいの額が入っているかは分かっていません」
「なので確認の方をお願いいたします」
俺たち3人恐る恐るその袋を開く。
するとその袋の中にはおそらく今までクエストをこなしてきた中で一番多かった金額の3倍以上は入っているのが目に見えてわかる。
「いい…いいんですか…こここここんなに頂いて…」
「いいんですよそのぐらいの働きをしていただきましたから」
「これは上の方々からの伝言です」
「いくらあなた方に実力があるとはいえまだ経験の浅い若者にこんな大変な依頼をして申し訳ない」
「2人の冒険者と…」
そこで不自然に一度言葉を止め俺の方に顔を向ける。
「1匹のバッタに私たちは期待をしているとのことです」
「今回の件は本当にありがとうございます 」
もう一度頭を下げる。
俺たちはギルドを出ていつも通り宿を探すことにした。
「さて今日はどこの宿にしましょうか」
ユリンシスがそんなことを聞いてくる。
本人もそれはわかっている。
(そうですね結構大きなクエストを成功させたわけですし自分たちのご褒美でいつもよりいい宿に泊まるっていうのはどうですか?)
「私はそれがいいと思います…」
そう小さく言葉を口にしたのはプレミアだ。
「プレミアちゃんがそういうならそうしましょうか」
「でもここら辺でちょっと高級な宿ってどこを選んだらいいんですかね」
(まあここの辺りは宿がたくさん並んでますからゆっくり選んだらいいんじゃないですか)
「私はプレミアちゃんと泊まれればどこでもいいです」
相変わらずのプレミアに対する激愛プリはスルーしてどこら辺の宿がいいか辺りを見渡しながら考える。
しばらく歩いているとユリンシスが足を止める。
「こことかいいんじゃないでしょうか」
足を止めユリンシスが指さす方に顔を向けてみるとそこには見るからに高級そうな宿があった。
(ここ見るからに高級そうですけど大丈夫ですかね)
「とりあえず入ってみましょう」
中に入ってみると中も同じように高級感漂うデザインになっている。
「ようこそお越しくださいました」
1人の女の人がゆっくりと俺たちの方に歩いてきて丁寧に頭を下げる。
「あの中に入っていきなりこんなことを聞くのは失礼だと分かっているんですが」
あまりの高級感漂うこの雰囲気に動揺しユリンシスが尋ねる。
「この宿に泊まるための最低金額ってどのぐらいですか?」
さっきまではとりあえず入ってみましょうと楽しそうに言っていたがいざ入ってみるとやはり緊張したのかそう尋ねる。
「お1人様で必要な最低金額は金貨20枚で2名様の場合は金貨40枚ほどになります」
それからいくつかの部屋を紹介してもらった。
「この中からお選びいただけますがどの部屋にいたしましょうか?」
「……」
何かを必死に考えているようで黙り込んでしまっている。
「それじゃあ2人合わせて金貨60枚のお部屋でお願いします」
「いいんですかお姉様そんな高額なお部屋に泊まったりして!」
(いいんじゃないですか今まで俺たちはだいぶ頑張ってきましたしたまにはこういうご褒美があっても)
「こちらがお部屋の鍵になります」
「それではお部屋までご案内いたします」
「この宿は他の宿と比べると高いのですがその分より良いサービスをご提供しますのでお楽しみにしていてください」
俺たちはどんなサービスをしてくれるんだろうと胸を躍らせながら部屋に向かう。
部屋の中は今まで止まってきた宿とはやはり違いとても広い。
「なんだか偉い人になった気分です」
ユリンシスが子供のように目をキラキラさせる。
「いいんでしょうかこんな高級な場所に泊まったりして」
(だからいいんですよプレミアちゃんもとても頑張ってくれましたし)
それから俺たちは運ばれてきた高級料理を食べその日はふかふかのベッドの上で眠りに着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます