第28話
「お2人に少しお話があるのですが?」
受付の女の人がそう言ってくる。
「何でしょうか?」
ユリンシスが短く尋ねる。
「実はこの間の依頼をこなしていただいた件でギルドの上の方々からAランクに昇格するためのクエストを受けてみないかというお話が出ておりまして」
「確かAランクに上がると私たちが今探しているプレミアちゃんを奴隷にしようとしていた組織の情報を教えてくれるんですよね」
再び確認するような口調で尋ねる。
「あくまでその可能性が高い組織のことについての情報だけですけどね」
「ただ本当にAランクのクエストは今までより格段に難しいだけじゃなく命を落とす可能性も格段に上がります」
「分かりました!」
2人はその言葉に強くうなずく。
「それじゃあショップの方に行ってアイテムを買い揃えてから目的の場所に向かいます」
ユリンシスが言ってショップの方に向かう。
「かしこまりましたそれまでお待ちしております」
ショップの方に向かいまず回復役を変えるだけ買っておく。
「プレミアちゃんの回復魔法があるとはいえそれに頼ってばかりもいられませんからね」
(そうですね)
(回復魔法にだって限界はある魔力が切れればそこで終わりだ)
回復役をいつもより3倍ほど多めにかごに入れ体力を回復する薬も念のため買っておく。
他にも色々とアイテムがあったが買って結局使わなかったということもあり得るので必要なものだけにとどめておく。
会計を終えた後受付の方に戻り女の人から目的地までの地図を受け取る。
「気をつけていってらっしゃいませ」
「アリユスさんどうかしたんですか?」
(…何がですか?)
「さっきからずっと何かを考えているようだったのでどうしたのかなと思って」
「受付の女の人が昨日伝言で1匹のバッタにも期待をしているって言ってたのを思い出して」
「確かにそう言ってましたけどそれがどうかしたんですか?」
(まさか俺の正体をギルドの上の人間が知っているんじゃないかと思って)
「それはないんじゃないでしょうかお互いに面識があるならまだしもアリユスさんが魔王を封印してから100年経っているわけですから面識はないと思います」
(そうですよね…)
そんなことを話しながら地図を確認し歩いていると、目の前にとても大きなダンジョンの入り口が見えてきた。
「ここがその目的のダンジョンっていうことでいいんですよね」
プレミアが確認するような口調で訪ねてくる。
「ええ、地図にはそう書かれています」
「なんか今まで探索してきたダンジョンとは違って不気味な雰囲気を放ってますけどここに入った瞬間に動けなくなるとかないですよね」
(絶対にないとは言いませんけどいつまでもこんなところに立っていても仕方がないですし中に入りましょう)
俺がそう説得すると諦めたようにプレミアはその中へ入って行く。
(このクエストは今までやってきたクエストとは違ってAランクのクエストは命をいつ落とすか分からないですから気を引き締めていきましょう)
「はい…」
今にも消え入りそうな声でプレミアが言葉を返してくる。
慎重にダンジョンの中を探索していると、ふと勇者としてダンジョンを探索していた時のことを思い出す。
(そういえばダンジョンを探索したことは何回かありましたけどそのうちの何回かは死にかけましたね)
「どんな感じにですか?」
2人とも言葉を返してこないと思っていたが、意外にも興味ありそうに言葉を返してきたのはユリンシスだ。
(そうですね毒で殺されそうになったことは何回かありました)
(それと後は幻覚を見せられて幻覚を見てる間に隙を疲れて殺されそうになったりとか)
昔話をしながら歩いているとプレミアがユリンシスにひっつくように後ろを歩く。
「どうしたんですかプレミアちゃん」
尋ねるが何も言葉は返さずただユリンシスの腰にゆっくりと手を回す。
すると小さな声でプレミアがこう言った。
「あの…この場所…少し怖いので…しばらくの間こうしていてもいいでしょうか」
「ええ構いませんよ!」
ユリンシスはプレミアにしがみ疲れ平成を装っているつもりなのかもしれないが嬉しいという感情が顔に全て出てしまっている。
傍から見るとコアラが気にしがみついているように見える。
「大丈夫ですよプレミアちゃんはお姉ちゃんが守ってあげますから」
「あ…ありがとうございます」
震えた声でユリンシスの服に顔をうずめながら言葉を口にする。
足を進めていると少し遠くの方から何やら重たい足音が聞こえてくる。
俺たちの方に近づいてきたのは両方の手に鉄球を持った大勢のモンスターだった。
(2人とも気をつけてくださいどんな攻撃を仕掛けてくるかわかりません)
「はい分かっています!」
ユリンシスは杖を構える 。
俺もモンスターに攻撃をしてみるがあまりの体の硬さにダメージを通している気がしない。
(思ったよりこのモンスターの体硬い!)
(ユリンシスさん鷹の死骸ってまだ持ってますか?)
「ええ、まだ持ってますけど?」
(それ出してもらっていいですか?)
「わかりました」
俺が一度乗り移ることができた体は俺の魂が抜けても死骸が腐ることはなく異いを発することもない。
鷹の体に乗り移り鋭いくちばしでモンスターに攻撃をしてみるがそれでも全くダメージを与えられている木が全くしない。
(他にダメージを与えられそうな方法っていえば)
横の方に顔を向けてみるとプレミアが敵の攻撃を食らう直前だった。
(プレミアちゃん!)
ギリギリでプレミアの体を突き飛ばしその攻撃を避けさせることができた。
俺もその攻撃を紙一重で避ける。
(ちょっと危険な方法かもしれないけどやってみるしかないか)
鷹の体から抜け出し目の前にいるモンスターの体に乗り移る。
目を覚ますと相変わらず目の前には奇妙な光景が広がっていてその真ん中には鉄球を両手に持って鎧を身につけたモンスターが目の前に立っている。
俺を目で捉えるなり容赦なく襲いかかってくる。
「今まで戦ってきたモンスターとは違って攻撃力もかなりあるみたいだな」
言いながらも俺はその攻撃を避ける。
しばらく距離を取って観察した方が良さそうだ。
さっき振り下ろした鉄球を持ち直し再び俺に振り下ろしてくる。
「思ったより攻撃範囲が広いな」
攻撃を与えられる隙があるとすれば…
「ここだ!」
再び振り下ろしてきた鉄球の攻撃を避けその鉄球の上に乗りジャンプし剣を振り下ろす。
するとモンスターが身につけていた鎧の半分を切り裂き生身の体が現れる。
俺のことを絶対に許さないと言わんばかりの怒りを含んだ鋭い目を向けさっきよりも2倍ぐらい早いスピードで俺に向かって鉄球を振り下ろしてくる。
今度は2つ同時に!
「このスピードで鉄球を振り回されるのは厄介だな」
「けど鉄球の攻撃範囲はだいたい覚えた」
ならその攻撃範囲に入らなければいいだけだ。
手に持っている鉄球を2つとも振り回し俺に向かってまっすぐその鉄球をぶつけようとしてくる。
俺は一歩後ろに下がりギリギリその鉄球が届かない距離に移動する。
「その戦い方じゃ俺は倒せないぞ!」
剣を構え直し様子を伺いながら距離を詰め攻撃の隙を伺う。
さすがに体の半分の鎧を破壊されたことで警戒されているのかそう簡単に俺を寄せ付けようとはしない。
「それはそう簡単にさっきみたいな攻撃を食らったら隙を見せるわけないよな」
「それでも…」
お互いに隙を伺う。
目に見えない緊張感がだんだんと膨れ上がっていく。
攻撃をよく見るんだ!
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