伝説の勇者は肉体を持たずに100年後の現代に蘇る!

カイト

第1話

「勇者よ、よくたった1人でこの城まで乗り込んできたな!」 


「おそらく1人でこの城まで乗り込んできたのは歴代の勇者の中でお前が初めてだ」


余裕そうな笑みを浮かべ頬杖をつきながら玉座に座り俺を見下ろしてくる。


「たとえ1人でもお前を倒してみせる!」


剣の先を魔王に向け宣言する。


「この勇者ユリンシスがお前を倒す!」


「たった1人でこの私に挑んできたことを後悔させてやる!」


魔王に向かってかけ1度ジャンプし剣を振り下ろす。


だがその攻撃は片手で防がれてしまう。


余裕の笑みを浮かべどうしたその程度かと言いたげだ。


「ハエが止まったかと思ったぞ」


「やっぱりこの程度じゃお前には聞かないか」


俺は冷静な口調で言う。


「まるでわざと力を抑えたような言い方だな」


「ああそうだ、今のはお前の硬さがどのぐらいか調べるための攻撃だ」


「だがもう硬さを調べる必要はない」


「我にはただの去勢を張っているようにしか聞こえないがな」


「ただ去勢を張っているだけかどうかは戦ってみればすぐにわかるさ」


剣を構え直しさっきと同じようにジャンプし姿を消す。


「…消えた?」


「俺はここにいるぞ!」


剣を下から上へと振り上げる。


さっきと同じように魔王は片手でそれをガードしようとする。


「2度も同じやり方で勇者の剣を防げると思うなよ!」


すると魔王のガードしていた方の手から少量の血が流れ落ちる。


「どうやら先ほどの攻撃は体の硬さを調べるための攻撃だと言っていたのは、はったりではなかったようだな」


魔王の表情はさっきと変わらず余裕の表情のままだ。


「さてそれでは私も少々本気を出すとしよう」


言って魔王は重たそうに腰を上げる。


俺を指さすと魔王の周りにいくつかの小さいどす黒い色をした玉が現れその無数の玉が俺の方に向かって飛んでくる。


飛んできた玉を全て剣で瞬時に叩き落とす。


「これは驚いたあれだけの数を瞬時にたた行落とすなんてさすがは勇者だな」


すごいとも何とも思っていない馬鹿にした表情を浮かべ軽く手をたたき拍手を送ってくる。


「どうやら我は勇者であるお前を少しばかり見くびっていたようだ」


「そうか!」


剣が直撃する前に避けられてしまい頬をかする。


「これほど早く動けるとはな」


どこか感心したような口調でわずかにかすった頬の部分を指で触る。


「ただその攻撃は貴様が早く動いているにすぎない!」


「魔法も何も使っていない小細工なしの攻撃なら避けるまでもない」


言った次の瞬間俺はさっきよりも早いスピードで剣を振り下ろす。


「2度も同じ攻撃を食らうわけがないだろう!」


一度距離を取る。


魔王が俺のことを指さすと目に見えない何かが腕の部分に突き刺さる。


まるで弾丸で貫かれたような痛みが体中に走る。


だが体から血は一切出ていない。


これが一体どういう攻撃なのか理解する暇もなく、同じ攻撃を反対の腕と両足に打ち込まれる。


まるで手足に見えない手錠がかけられたかのように身動きが取れない。


「どうだ体が自由に動かせないだろう」


「これはまだ実を言うと実験中の魔法なんだがどうやらうまくいったようだな」


「おめでとう貴様が初めてこの魔法を実際に使えると証明してくれたただ1人の人間だ!」


「とは言ってもこの魔法を今まで動物や魔物に試したことはあったが人間にはまだ一度も使ったことがなかったからな」


「さてとどめを刺すとするか」


「仲間を1人も連れてこないで私に挑できたことを後悔しながら死んでいくんだな」


「一つだけ殺す前に教えてくれ何でお前はこんなことをするんだ!」 


「こんなこと?」


「魔物を作って人々を恐怖させ病を流行らせたり何が目的なんだ」


尋ねると鼻で笑い飛ばしこう言った。


「理由など特にない我はただ知識の探求をしたいだけだ!」


「知識の探求!」


「我は今まで色々なことを実験し試してきた」


「貴様に今かけている魔法もその家庭でできたものだ」 


「それじゃあ、お前は自分の研究をただするためだけにこの世界に住む人たちを自分の研究のためだけに苦しめてきたっていうのか」


「何の悪気もなく!」


「傍から見たらそういう風に見えるのかもしれないな」


特に悪びれた様子もなく言葉を口にする。


「たったそれだけのために大人だけでなく子供も巻き込んで苦しめてきたっていうのか!」


心の奥底から激しい怒りが湧き上がってくるのを感じる!


「うあああーーー!!!」


「お前は絶対に許さない!」


鋭く魔王を睨みつけ剣を構え直す。


「まさか魔法を使わずに拘束を破ったというのか!」


「魔力を持たぬものが魔法を解るという前例は聞いたことがないが」


「まさか微弱ながらも勇者であるお前は魔力を持っているというのか!」


「いやお前から魔力は一切感じないこれはどういうことなんだ!」


そう言っている魔王は嬉しそうに不気味な笑いを浮かべる。


「そうだ殺さない程度に貴様を炒めつけて研究材料にするとしよう!」


「あいにくだが俺はお前の研究材料になる気はない」


「だろうな」


「なぜなら俺はお前を討伐しなければならないからだ!」


「なら我は力ずくでお前を手に入れる!」 


それからどれぐらいの時間が経ったろう、 長いこと戦いを続けお互いに瀕死状態になり今にも倒れそうなほどに体力が消耗しきっている。


「お互いに次の攻撃がどうやら最後みたいだな!」


魔王を討伐するつもりだったがもしもの時のことも考えてタイミングを見計らい封印しよう。


「そうだなこんな戦いをいつまでも続けていても意味はない」


刹那お互いに詰め寄り攻撃を繰り出す。


俺が繰り出した件は激しく火花を散らす。


一瞬距離を取りすぐさま再び距離を詰める。


今だ!


一瞬の隙をつき銀の首輪を魔王の首にかけ鎖で体を拘束する。


「しばらくの間暗闇の中で眠っていろ、次の勇者がお前の目の前に現れるまで」



「ははは!」


追い詰められているはずなのにたかだかと笑い声を上げる。


「次に誰がこの魔王である我の前に勇者として姿を現すか楽しみにしながらしばらくの間眠りにつくとしよう」


そういった次の瞬間俺に手をかざしてくる。


その時ずっしりと重たい何かが肩の上に乗っているような感覚を一瞬感じた。


「次の人生では今のように自由に生きられるかな」


「それはどういう意味…だ」


気がついた時にはもう自分の胸の部分に風穴が開いていた。


次から次へと腕や足に風穴が増えていく。


攻撃されているということは分かっているがその攻撃が全く見えない。


「う!」


口から大量の赤い血が吐き出される。


最後に心臓の部分に風穴を開けられ俺は朦朧とした意識で地面に倒れた。


ああ、俺は死ぬのか。


今まで人のため国のため色々してきたけど死ぬ時は意外とあっけないものなんだな。


まあいいか魔王討伐はできなかったけどこれでしばらくの間国に平和が戻ってくるだろう。


その平和のうちに魔王をどうやって倒すか国が考えてくれればきっと次の時代に待っている厄災もなんとかできる。


それにその頃になれば俺の次の勇者が現れてくれるだろう。


やれることは全てやった人生に悔いはない。


「色々と…大変な…人生ではあったかもしれないけど…それなりに楽しく過ごせたな」


朦朧とした意識の中で途切れ途切れにそう小さく言葉を口にする。


「頼んだぞ…次の世代の勇者たち!」


「仲間の1人や2人作っておけばよかったのかな」


今更考えてもどうしようもないことを思う。


「まあいいか、人が傷つくところを見なくて済んだんだからこれでいいんだ」

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