第2話
頭が朦朧としている状態でゆっくりと目を開けてみると知らない光景が目に飛び込んでくる。
(一体ここはどこなんだ?)
あたりを見回してみると周りには特に何もなく広い草原が広がっているだけ。
(今ここがどこでどういう場所なのか理解するために情報を集めないと)
分からないなりにただひたすらにまっすぐに進み続け人がいる場所を目指す。
どうしてこんなことになっているのか自分が覚えている一番新しい記憶を探し考えてみる。
(俺は魔王がいるお城に乗り込んでついさっきまで戦っていた)
(何度か攻撃をくらいはしたものの魔王を無事に封印できたはずだ)
(いや待てよ魔王が封印される直前に最後の力を振り絞って俺の心臓を貫いたんだ)
(確かその後だんだんと意識が遠のいていって…)
(ということはここは天国なのか?)
(その割には随分とリアリティがある)
体に触れるそよ風の感覚土の匂い俺が生きていた頃と全く変わらない。
そんなことを呟きながらまっすぐ進んでいると、少し遠くの方に街が見えてきた。
(あそこに行けば誰か人から情報が聞けるかもしれない)
安堵のため息を漏らす。
(すいません)
街の中を行き交う1人の人に声をかける。
だが声をかけられたことに気づいていなかったのかそのまま素通りしていく。
(すいません少し聞きたいことがあるのですが?)
もう一度街の中を行き交う人たちに声をかける。
だがさっきよりも大きな声で呼びかけたはずなのに誰1人として顔すら向けない。
俺は周りの人たちが反応しないその光景を見て違和感を覚える。
「これは一体どういうことなんだ!」
魔王との戦いを終えてから一体どのぐらいの時間が経ったのかは分からないが、 戦いを終え俺が気を失っている間に悪い噂が広まり、この世界全員の人々から嫌われているということはさすがにないだろう。
「すいませんお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
今度は声をかけ軽く1人の肩を掴んでみる。
だが驚きの光景を目にする。
肩を掴もうとしたその手は肩をすり抜ける。
(これは一体どういうことだ?())
(まさか俺は幽霊になった状態でこの世界に蘇ったというのか!)
(皆さん俺のことは見えていますか!)
今までで一番大きな声で街中を行き買う人たちに身振り手振りを交えながら声をかける。
だがなんどかそれを繰り返してはみたものの全く周りの人から反応がない。
これではっきりと確信した。
幽霊という存在になっているかは分からないが少なくとも周りから見えない状態になっていることは間違いない。
(だがどうしていきなりこんな状態になったんだ?)
特に意味もなく前へと進みながら思考を巡らす。
すると命を落とす前魔王に言われたことを思い出す。
次の人生では今のように自由に生きられるかな。
(この状態が魔王にかけられた呪いの力だとしたら納得がいく)
(納得できたのはいいが問題なのはこれからどうして行くかだ)
(周りの人たちから姿が見えないとなると色々と厄介だな)
(自分の買い物ができないだけじゃなくここがどこでどういう場所なのかという情報を人から聞くこともできない)
(あの魔王はどうして俺をこんな状態で現代に蘇らせようなんて思ったんだ?)
(いやあの魔王のことなんて考えても無駄かどうせ研究のためとかなんだろう)
(誰にも見えない状態で現代に蘇ったからとはいえ封印した魔王をどうにかして倒す手段を見つけないとまた厄災がこの世界に降りかかる)
(あくまで封印をしただけであってこの世界に厄災をもたらす存在が消えたわけじゃない)
これからどうしようかと改めて考えながら進んでいると1人の男の怒鳴り声が聞こえてくる。
「何なんだよお前魔力量が多い割に全然使えねえじゃねぇか!」
2人いるうちの1人の男が一歩前に出て1人の女の子に怒鳴り声をぶつける!
(絵に書いたようなチンピラの見た目してるな)
(ってこんなことを考えてる場合じゃない助けてあげないと!)
(けど助けに入ったところで今の俺じゃまともに戦えない!)
(どうにか戦おうとしたところで相手の体をすり抜けて終わりだ)
どうしたものかと考えていると飛んできたバッタが目に止まる。
(せめて相手に姿が見えてさえくれていれば俺が誘導してる間に逃げてもらうっていう手段も取れたかもしれないのに!)
(どうにかして体が欲しい!)
(動かせるからだが!)
そう願っているといきなり自分の魂がそのバッタの体に入り込む。
目を開けてみるとそこには何と言うか慶應しがたい光景が広がっていてバッタが睨みつけてきている。
すると俺はなぜか体を取り戻していて背中にはいつも使っている剣がある。
次の瞬間そのバッタが俺に向かって襲いかかってくる。
「なんだかよくわからないけど戦わなきゃいけないみたいだな!」
剣を構える。
バッタはあたりを縦横無尽に飛び回り惑わせようとしてくる。
辺りを飛び回りながら様子を伺い攻撃の隙を狙う。
予想していたよりもかなり早いスピードで反応することができず攻撃を食らってしまう。
「移動速度はかなり速いが攻撃力自体はそんなにないみたいだな」
「これなら!」
立ち上がり剣を構え直す。
再び飛び回り攻撃の隙を狙う。
その時バッタは俺が全く動かないのを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべたように見えた。
バッタは足のとがった部分を俺の胸に突き刺す。
見事に胸を貫かれたが一切気にせず剣でバッタを切り落とす。
すると目の前にはさっきの光景が広がっていて体の足の部分がバッタになっていることに気づく。
(いや違う、これは俺の体の一部分がバッタになってるんじゃなくて俺がバッタに乗り移ったんだ!)
どうしてこうなったのかは分からないけどとりあえずこれで助けに入れる。
1人の男が前に出てその女の子を殴ろうとした瞬間その3人の間に入り飛び回る。
「くそう何なんだこいつ鬱陶しいな!」
男は俺を何とか追い払おうとするが一切それは無視して周りを飛び続ける。
男は苛立ちがピークに達したようで鞘から剣を抜き俺に向かって剣を振り下ろしてくる。
直撃で攻撃を食らうのはまずいと思いガードしようとしたその瞬間!
バッタの足の部分が相手に勢いよく直撃し2mほど勢いよく吹っ飛んでいった。
「お前大丈夫か?」
仲間がその男に駆け寄る。
「くそ何なんだよあのバッタただのバッタじゃないのか!」
街の中を行き交う人たちに訝しんだ目を向けられ何見てるんだと言いたげな怒りを含んだ目で周りの人たを威嚇する。
「ただのバッタが俺に勝てるはずがない!」
「やめとけよどう考えてもあれはただのバッタじゃない新種のS級モンスターの類かなんかだ」
「ここはおとなしく帰ろうぜ」
少し頼りなさげな体格をした仲間の男がおどおどとした口調で言う。
「何言ってんだ同業の冒険者に負けたっていうならまだしもただの虫に負けたとなっちゃ冒険者の恥だ」
「だからあれはどう考えてもただの虫じゃないってモンスターかなんかだって!」
「今回はこのぐらいで勘弁してやる!」
なんとかさって言ってくれたか。
心の中でほっとアンドのため息を漏らす。
勇者として冒険をしてる時もああいうやつに絡まれたことはあったけど久しぶりだな。
懐かしさのような感情が込み上げてくる。
それにしてもなんでバッタの体にいきなり乗り移ることができたんだ?
これが本当に魔王にかけられた呪いだとしたら何でこんな呪いを俺にかけた。
いやさっき考えて結論が出たじゃないかあいつのことをいくら考えても無駄だと。
「あの…」
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