第3話
「えーとバッタさん助けてくれてありがとうございました」
白髪の綺麗な短い髪の少女が今バッタの姿をしている俺に律儀にお礼を言ってくる。
虫にまでちゃんとお礼を言うなんてできた子だなーと感心する。
何があったのかわからないけど助けられてよかったな。
「お褒めいただきありがとうございます」
今度はああいう変なやつに絡まれるんじゃないぞ。
いやちょっと待て今この少女俺が考えてることに答えなかったか?
「はい答えました」
笑顔でそう言ってくる。
「それはつまり?」
「私はあらゆる動物の心の声を聞くことができるんです」
(ってことは今の俺のこの心の声も全部聞こえてるってこと?)
「そういうことになりますね」
(えーと…)
「俺の名前はアリユスです」
「私の名前はユリンシスサリウスです」
「自己紹介が遅れて申し訳ありません」
「いえいえこちらこそ」
少女のどこかうやうやしさを含んだその態度につられちゃんとできているかは分からないが頭を下げる。
「私は今までアリユスさんのような賢いバッタさんを見かけたことがなかったので少し驚きました」
「えーとですね俺は…」
バッタじゃないと言うかどうか悩んでいると少女がいやユリンシスがなぜかいきなり深々と頭を下げる。
「アリユスさんに1つお願いがあります!」
いきなり土下座され驚き思わず周りの人が見ていないかと周囲を見渡してしまう。
(何で頭を下げられてるのかよくわからないですけど、とにかく頭を上げてください!)
とりあえず頭を上げてもらう。
(それでお願いというのは何ですか?)
「私の先ほどのあのお2方との言い争いを見てもう薄々わかっているとは思いますが…」
そこで一度言葉を止め、ためらったような様子で言葉を口にする。
「私はとても弱くおそらく今さらどこのパーティーに入ろうとしても雇ってはもらえません」
「そこでもしアリユスさんさえよければ私についてきていただけませんか?」
「自分勝手なお願いだということは重々承知していますそれでも」
俺はそう言われてすぐに言葉を返すことができなかった。
なぜならこの世界で再び魔王が生き返っているんだとしたらその魔王を倒さなければいけないからだ。
(もし魔王を実際に倒すとなれば人とコミュニケーションを取れないというのは致命的だ)
「人との会話のサポートであれば私でもできると思います」
(分かりました俺でよければよろしくお願いします)
言うとユリンシスが両手で俺をすくい上げるようにし自分の肩に乗っける。
「こちらこそこれからよろしくお願いします」
(ひとつ気になることがあるんですけど今この世界に魔王って蘇ってるんですか?)
ずっと気になっていたことを尋ねる。
(100年前に勇者様が魔王を封印されたらしいですがここ最近になってその封印が解かれ始めてるみたいです)
いきなりの脳内に直接語りかけてくる声に驚く。
(頭の中に直接声が聞こえてくる)
(すいませんいきなり説明もなしに)
(私の能力で自分の心の声を送りたい人の脳に直接自分の声を送ることができるんです)
(こんな街中で今バッタの姿をしているアリユスさんに喋りかけるのは少し憚られるので)
(それは確かに)
(それで100年前に封印された魔王が蘇りそうになってるっていう話は本当なんですか!)
(歴史が間違っていなければ私はそう伝えられましたが)
(もしその話が本当だとしたら俺が目覚めるまでに100年間かかったということになる)
俺が考えているとアリユスが不思議そうな目を俺に向けてくる。
その目は疑問を宿していて何を言っているのかわからないと言いたげだ。
覚悟を決め正体を明かすことにした。
(俺はその100年前に戦っていた勇者なんです)
「えええ!」
驚きのあまり言葉になり漏れてしまっている。
どどどうしましょう私勇者様に失礼な口の聞き方をしてしまったんじゃないかしら!
俺に全て聞かれていることなど忘れ顔を真っ赤にする。
(ところでひとつ聞きたいことがあるんですけど)
(はい何でしょうか勇者様!)
(さっきまでと同じ呼び方でいいですよ)
(俺自身そんなにうやうやしくされるのはあまり好きじゃないんで)
(それではお言葉に甘えさせていただいて!)
(答えたくなければ別に無理して聞くつもりはないんですけど)
(さっきの男たちにパーティー追放を言い渡されたっていうのは聞いたんですけど一体今どこに向かってるんですか?)
一緒について行くと決めたものの今どこに向かっているのか聞くのを忘れていた。
(ギルドの方に向かっています)
(恥ずかしながら私は今、今日をしのぐためのお金すら持っていないので)
乾いた笑いを浮かべる。
(ギルドに入会を頼んだとしても私の場合は受け入れてもらえるかどうか)
(実はさっきの男の人たちにパーティーを追放されたのも私は魔力以外人並み以下で全然使えないと言われてしまって)
(私の唯一の強みである魔力も強すぎるが故に扱いきれなくて)
(とりあえず新しいギルドに行ってみましょう)
俺がそう声をかけると少し曇っていた表情がパッと明るくなる。
しばらく歩いていると目的のギルドにたどり着く。
恐る恐るといった感じでギルドの中に入る。
「すいませんこちらのギルドに入会をしたいのですが?」
「かしこまりました入会希望の方ですね」
「それではこちらの紙に名前と自分がお使いになられる武器をお書きください」
受付の女の人に紙とペンを渡されユリンシスはその紙に書かれた項目を書いて埋めていく。
「書き終わりました」
「それでは次に能力テストをやっていきます」
「少々時間がかかりますのでその肩に乗せられているバッタはこちらで一度お預かりいたします」
「分かりましたそれでは少しの間よろしくお願いいたします」
そう言って俺を受付の人に手渡す。
(おそらくそんなに時間はかからないと思うのでしばらくの間待っててください)
(頑張ってきてください)
それからしばらくして。
ヘロヘロになったユリンシスが戻ってくる。
(大丈夫ですかユリンシスさん)
(私は大丈夫です)
本人はそう言っているが見た感じ明らかに大丈夫ではない。
「それでは全てのテストの結果ですが魔力量以外は全てDランクです」
少し気まずそうに受付の人は結果を発表する。
「でも魔力量は飛び抜けてSランクです」
落ち込んでいるのを励まそうというのはわかるがその言い方をしてしまうとむしろ本人の傷をえぐることになってしまうんじゃないかと心配になる。
「そうですか」
だが俺が思っていたよりも落ち込んでいる雰囲気はない。
自分で魔力量以外いいところはないというようなことを言っていたので、 こうなることは分かっていたんだとは思うが。
「それで初心者におすすめなクエストってありますか?」
話題を切り替えるように尋ねる。
「このギルドでは初心者の方にいくつかおすすめしているクエストがありますが特におすすめさせていただいているのは薬草採取のクエストです」
「報酬は低いですがその分安全で初心者の方におすすめしやすいクエストとなっております」
「それではそのクエストを受けさせてください」
(アリユスさんもこのクエストでいいですか?)
(俺は構いません)
(今聞くことじゃないかもしれないんですけど、ユリンシスさんって冒険者何年目ですか?)
(今年からです)
(だったら安全にこのクエストを受けましょうか)
(心遣いありがとうございます)
「それではこのクエストをお引き受けになるということでよろしいですね?」
「はい 」
確認するような口調で言うとクエストボードに貼られていた薬草採取と書かれた紙を手に取りハンコを押す。
「それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「もし回復薬などが少ない場合は左手の方にアイテムショップがありますのでご活用ください」
「ありがとうございます」
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