第9話

「お戻りになられたんですね」


村の方に戻ると村長がお出迎えをしてくれる。


「それでダンジョンの方にいたモンスターの方はどうなりましたか?」


村長が不安そうな表情でユリンシスに尋ねる。


「無事に倒すことができましたよ」


笑顔でそう言うと村長はほっと胸を撫で下ろす。


「村のみんな今日このお方が私たちが恐れていたモンスターを倒してくれたぞ!」


村長は村のみんなに少し大きめの声で声をかける。


「よしそれじゃあ今日は村の脅威をなくしてくれたこのお嬢ちゃんを叩いて祝杯をあげよう」


1人の男が嬉しそうに言う。


「私は大したことはしていませんからそんなわざわざ祝杯なんてあげていただかなくても」


少し困ったような口調で言う。


「それに私1人であのダンジョンの中にいるモンスターを倒したわけじゃありませんから」


言って俺が乗っている肩の方に視線を向ける。


「なんとその肩に乗せているペットが一緒に戦ってくれたというのですか!」


村長が驚きの声をあげる。


はたから見たらそう見えてしまうのかもしれないがペットと言われるのは違和感がある。


「いやペットというわけではなくてですね」



ユリンシスがなんとか訂正してくれようとしたものの全く聞く耳を持ってくれない。


「私たちはこれから祝杯をあげるための準備をいたしますのでその間しばらく私の部屋でゆっくりとお休みください」


村長にそう言われ広めの部屋に連れて行かれる。


「まさか祝杯をあげてもらうなんていう話まで発展するとは思ってませんでした」


少し困ったように笑う。


(それだけこの村の人たちがあのダンジョンにいるモンスターを脅威に感じてたってことですからそのモンスターを倒したことを喜ぶのは当然だと思います)


(どっちにしろ祝杯をわざわざあげなくていいですと言ってもこの様子じゃ無駄みたいですし諦めてもてなしてもらうとしましょう)


「そうですね逆にお断りするのも申し訳ないですしここはお言葉に甘えさせてもらうとしましょうか」


話していると扉が3回ノックされる。


「大変お待たせいたしましたたった今祝杯をあげるための準備が整いましたので私についてきてください」


俺たちに声をかけにきてくれたのはこの村に来た時に案内してくれた女の人だ。


言われた通り女の人の後ろについて行く。



するとテーブルの上にはとても豪勢な料理がたくさん並べられていて美味しそうだ。


(とても美味しそうですねアリユスさん)


(ええ虫であるが故に食べられないのが本当に悔しいです!)


「それでは早速ではありますが我々の村の脅威を排除してくれた1人のお嬢さんに拍手を!」


言うと今まで村長の方に向いていた村の人たちの視線がユリンシスの方に向けられ大拍手。 


「失礼かもしれませんがあなたのようなお嬢さんがこの村の脅威を排除してくれたことには本当に村のみんなで感謝しております」


村長は言って頭を下げる。


「いえいえ私は本当に何もしていませんから頭を上げてください村長さん!」


少し慌てた口調で言う。


「この度の祝杯の席どうかごゆっくりお楽しみください」


「そんな長ったらしい挨拶はいいからさっさと祝杯を始めようぜ」


酒を片手に持ちすでに構えている男が村長に訴えかける。


「それでは少し長くなりましたが村の皆さんも祝杯を思う存分に楽しんでください」 


村長がそう言うと一斉に今か今かと始まるのを待っていた男の人たちがお酒を飲み始める。


「ユリンシス様何か食べたいものがあればお取りいたしましょうか?」


この席まで案内してくれた女の人がそう声をかけてくる。


「いえ、ただこういう席は初めてなので緊張してしまって」


「失礼ですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 


「私の名前はユリンシスサリウスです」


「ユリンシスさんはだいたいいつ頃から冒険者を始められたんですか?」


「冒険者を始めたのはだいたい1ヶ月前なんですけど」


「もともととあるパーティーに所属していたんですが色々あって追放されてしまって」


「今は言い方はおかしいですがこの方と一緒に冒険者としてギルドの依頼をこなしながら暮らしています」


そう言って肩に乗っている俺の方に笑顔で視線を向ける。


「その方はかなり強いんですか?」


「ええ、だいたいいつもサポートしてもらってばっかりで」


「今回も助けてもらってしまいました」


納得したように頷きながらも俺の方に向けられる視線は本当にそんなことができるのかと訝しんでいる。


「こういう言い方は失礼かもしれませんが見た目的にはそんなに強そうには見えませんが、ユリンシス様がそうおっしゃるのでしたらそうなんでしょうね」


「この方は本当に強いんですよなんたってこの方はもともと勇者…」


と言いかけたところで慌てて言葉を止める。


「勇者?」


「勇者の伝説で言い伝えられている相棒のように強かったです!」


「勇者の伝説のお話に出てくる相棒ってバッタでしたっけ?」


「私も小さい頃に母に聞かされた話なのでよくは覚えていませんがとにかく強かったです!」


「この村を救ってくれた英雄さんよしっかりと祝杯を楽しめてるかい」


明らかに酔っ払った女の人が声をかけてくる。


「しっかりと楽しませていただいています」 


酔っ払いに絡まれた経験があまりないのか笑顔ではあるもののその顔は引きつっている。


「やめなさいユリンシス様が嫌がっているでしょう!」


「まあまあそんなつれないことを言わずに私とおしゃべりしましょうよ」


「だからこの方が嫌がっているだろう!」


「何よ私とユリンシスさんがしゃべったって別にいいでしょあなたに迷惑がかかるわけじゃないんだから」


「だからどう見ても嫌がっていると言っているだろう!」


「あの渡しでよければお話構いませんよ」


「本当やった!」


ユリンシスに近づけるのを嫌がっていた女の人はやれやれと言わんばかりにため息をつく。



それからしばらくして宴会の楽しげな雰囲気が落ち着いてきたところでお開きとなった。


「こちらの方に来ていただいてよろしいでしょうか?」


村長が声をかけてくる。


「はいわかりました」


そう言葉を返しつつも俺とユリンシスはなぜ呼ばれたのか理解できていない。



連れてこられたのは村長の家だった。


「宴会の方は楽しんでいただけましたか?」


「とても楽しませていただきました」


「ところで私に用事というのは何でしょうか?」


「そのことなんですが今回この騒動を解決していただいたお礼に少しばかりではありますが差し上げようと思いまして」


そう言って村長が手渡してきたのは少し大きめの袋だった。


「その中には少しばかり金科が入っています」


「お気になさらずお金ならギルドの方でしっかりと支払われますから!」


「いいえこれは私の個人的なものですからお気になさらずにお受け取りください」


「そうは言いましてもやはりお金をもらうわけには」


「私たちが住んでいるような小さな村はいつ何者かに襲われて村としての機能を失うか分かりません」


「問題を放置したままいつのまにか大変なことになってどうにもならなくなってきた村をいくつか私は見てきています」


「だから私はこの村を守ってくれたことが何よりも嬉しいんです」


「私の少しばかりの気持ちではありますが受け取っていただけると嬉しいです」


(これは受け取った方がいいと思います)


「そうですねありがたく使わせていただきます」


それから村の人たちに挨拶をしその村を去った。


「宴会も楽しかったですしいい人たちでしたね」


(そうですね)


このお金をどうしようかと考えながらギルドの方に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る