第10話

いつも通りどんなクエストにしようかとクエストボードに貼られた紙を見ていると。


「ユリンシスさん」



名前を呼ばれ受付の女の人に手招きされる。


なぜだか周りの人間にバレてはまずいことでもあるのか小さい声で手招きしてくる。


「何でしょうか?」


言葉を返しつつもその言葉は疑問を含んでいる。


「実は少し頼みたいことがありまして」


耳打ちするように言う。


「頼みたいこと?」


「ええ、街にこれを届けに行って欲しいんです」


「そう言ってカウンターに置かれたのは随分と大きな荷物。


「届けるのは別に構わないのですがなぜ私に?」


「そもそも今日このお仕事を頼むことになったのはいつも村まで届けてもらっている人が今日は体調を崩してしまって」


「別の冒険者の方々に頼もうにも頼めなかったということですか?」


「この荷物を届けるのは今夜中で構わないので別のクエストを受けてからでも大丈夫です」


「ええ、大丈夫ですよ今届けに行きます」


「本当ですかありがとうございます」


ほっとした表情を浮かべる。


「どこまで届ければいいんでしょうか?」


「ちょっと待ってくださいね今地図を書きますから」


内ポケットから紙とペンを取り出し地図を書く。


小さな紙に書かれた地図を受け取る。


「今回の報酬にはなるべく色をつけときますから期待しといてください」 


「ありがとうございます」


「それでその荷物を誰に届けるかなんですけど」 


「この地図に1と書かれている場所にその荷物を待っている人の家があるのでそこまで行って届けてください」


「分かりましたそれでは行ってきます」


「それではお気をつけて」


俺たちは早速ギルドを出てその地図に書かれた目的地へと向かう。



「報酬に色をつけてくれるって言ってましたけど実際どのぐらいつけてくれるんでしょうか?」


(それはわかりませんけどクエストボードに貼られていない正式な以来じゃない以上言っちゃ悪いですけどそんなに期待はできないんじゃないですかね)


「こういう話はあまりしちゃいけないというのは分かってるんですけどまだ私駆け出しの冒険者だからそんなにお金がたまらないんですよね」 


(実際みんなそんなものなんじゃないですか、俺が勇者としての活動をしてた時だって周りにそういう人いっぱいいましたし)


「勇者のお仕事をしていた時はお金がなくて苦しんだことはあったんですか?」


(俺はお金がなくて苦しんだっていう経験をしたことはないですね)


(旅の道中にかかるお金はだいたい全部国が負担してくれていたので)


(そういえばそのお金を使って貧しい子供たちにご飯を買ってあげるっていうのをずっとやってたら王様にばれてすごい怒られました)


「勇者としては正しい行いだと思いますけどね」


(その王様もあなたのお金はこの世界の悪である魔王討伐をするためのものなんですよとは言ってたんですけど理由を説明したら納得してくれました)


「やっぱりアリユスさんは優しいんですね」


どこかくすぐったそうに笑いながら言う。


(やっぱりって何ですかやっぱりって)


(でも優しいって言うなら俺よりも王様の方が優しかったです)


(本来ならさっきも言いましたけど魔王討伐にしか使っちゃいけない国から支給されてるお金を俺が勝手に子供たちのためにお金を使ったのを見逃してくれたんですから)


「その王様も優しかったんだとは思いますけど私はやっぱりアリユスさんの方が優しいと思います」


(だからやっぱりって何ですか)


話をしながら歩いていると目的地の町に到着した。



「えーとこの街の中にある家の人にこの荷物を届ければいいんですよね」


(そうですね)


しばらくあたりを見回しながら歩き家を見つける。


その家のドアを3回ノックする。


「はーい」


家の人が出てくる。


「あのこれギルドからの届け物です」


「ありがとうございます、いつも届けてくれる人が体調を崩したって聞いてたから心配だったんですけど届けに来てくれたんですね」


「私が代わりに届けさせていただきました」



「無事に荷物は届け終わりましたけどせっかくなので街を見て回りませんか?」


(そうですねせっかくですから見て回りましょうか)


それからあたりを見回してみると色々なお店が立ち並んでいる。


(こうして見てみると色々なお店があるんですね)


「私も他の街にあまり来たりしないので何だか不思議な感じです」


(確かに冒険者の仕事で来ることはあってもこうしてのびのびとくることわないですもんね)


すると目の前で1人のがたいのいい男が銀の首輪をつけられた女の子を無理やり引っ張っている。


「これどうにかした方がいいんじゃないの」


周りの人たちは口々にそんなことを言うばかりで実際に動こうとする人は誰もいない。


「なんであんなひどいことを!」


(あの銀の首輪は奴隷につけられる首輪ですね)


(おそらくあの子の父親か母親がお金欲しさにあの子を奴隷として売ったんでしょう)


「あの方を助ける方法はないんですか?」


(助けたい気持ちは分かりますけど下手に動いて騒ぎを起こせばあの男が逆上して何をしてくるか分かりません)


(ここは大人しく様子を見て騎士団が駆けつけてくるのを待ちましょう!)


(いざとなったら俺1人で!)


そんなことを考えていた次の瞬間!



ユリンシスがいつのまにかその男の前に飛び出していた。


「どうしてあなたはこんなひどいことをするんですか!」


言いながら銀の首輪をつけられた女の子を守るように両手を大きく広げる。


「何なんだお前は邪魔をするな!」


「なんでこんな小さな女の子を奴隷として使うなんて考えられるんですか!」


「そんなことお前には関係ないだろうそこをどけ!」


「確かに関係はないかもしれませんが手は出させません!」


緊張のあまり足を震わせながらも一歩も引かずにそう言葉を口にする。


「そこをどけどかないと切るぞ」


「どきません!」


珍しくはっきりとした口調で言う。


「そうかだったら俺がお前をここで切ってやる!」


男が剣を構え切りかかろうとしたその瞬間!


「何!」


俺が前に出てその剣をガードする。


「ただのバッタなんかに俺の剣が防げるわけがない今のはただの偶然だ」


今度は俺めがけて剣を振り下ろしてくる。


同じように足で剣をガードする。


「嘘だろうこんな事って!」


男はバッタが自分の剣を受け止めているという光景を信じられず驚いている。


(後ろにいる2人には指1本触れさせない!)


大丈夫だと思うが2人に攻撃が当たらないように一応注意を払っておく。


今度は相手が少し距離を取り隙を伺いきりかかってくる。


(どっからでも来い、どんな場所からでも対応してやる!)


だが俺は余裕でその攻撃を避ける。


(諦めろ何どやったって同じだ)


「くそ何で俺の攻撃がバッタごときに当たらないんだ!」


男の表情は焦りと怒りにそまる。


(お前がいくらやったところで俺の速さにはついて来れない!)


修行のおかげで前よりもこの体を使いこなせるようになった。


再び剣を振り下ろしてきたその時俺は後ろに回り込み相手が俺の方を振り返ったと同時に顎に攻撃を入れ気絶させる。


周りでその光景を見ていた人たちは拍手をしてくれた。


(俺の戦いを見てる暇があるんだったら誰か呼んできて欲しかったな)


(まぁ無事に助けられたことだし別にいいか)


「何なんだよあのバッタ普通じゃねえな!」


「そもそもバッタが人間相手にかなうものなのか!」


「いやどう考えても普通じゃねえだろう」


周りで俺の戦いを見ていた人たちはそんな驚きの言葉を口にする。

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