第8話
次の日の朝昨日村長のところまで案内してもらった女の人に今度はダンジョンまで案内してもらう。
村から少し離れた山のような場所で歩く足を止める。
「到着しましたここがダンジョンです」
目の前には大きなダンジョンへと続く穴がある。
「それでは私はこれで失礼いたします」
「どうかご無事を願っております」
頭を下げてそう言った後女の人はその場を去っていった。
(さて随分と大きな穴ですね)
(いつ何が出てくるか分かりませんから気をつけて進んで行きましょう)
「はい!」
短いその返事には緊張が含まれている。
ユリンシスは身長な足取りでダンジョンの中へと入っていく。
中はとても薄暗く全く目の前が見えないというわけではないがとても見えにくい。
(なんか周りを照らすものを持ってくればよかったですね)
「あ!」
何かを思い出したような声を上げ一度立ち止る。
すると少し大きめの入れ物の中から提灯のようなものを取り出す。
(何なんですかこれは?)
これはですねと、説明を始める前にその提灯のようなものに魔法で火をともす。
すると見えにくかった視界が一気に見えやすくなる。
「持ち運びが簡単にできる提灯と言ったところでしょうか」
「こういった薄暗いダンジョンの中や洞窟の中などでよく使われます」
(100年前までは松明に火をともして洞窟の中とかを進んでいくっていうのが普通でしたけど今はこういうものがあるんですね)
(自分でそんなことを言っているとおじいさん感を感じるな)
(まあ100年間のジェネレーションギャップがあるんだから仕方がない)
俺が言うと小さく笑い声を上げる。
「すいません何だかアリユスさんが拗ねているのを見ていると面白くて笑いが込み上げてきてしまって」
(別に拗ねているつもりはないんですけど)
(でもまぁユリンシスさんが笑ってくれたんだったらそれでいいですけど)
俺の言ってる意味がうまく伝わらなかったらしくなぜだか顔を赤くしながら少し首を傾げる。
(まだ出会ってから全然時間は経ってませんけどユリンシスさんが笑うのを見るのは初めてだなと思って)
「ありがとうございます…」
うつむきながらそう小さくお礼を言われる。
なぜお礼を言われたのか全くわからなかったがわざわざ確認するようなことでもないかと思いスルーしておく。
(今少し顔が赤いように見えたんですけど体調とかは悪くはありませんか大丈夫ですか?)
「大丈夫ですご心配なさらないでください!」
そう言って顔をそらされてしまう。
(そういえばそのポーチみたいなのどうしたんですか昨日まではつけてなかったですよね?)
思い出したような口調で尋ねる。
「これは今日の朝ダンジョンに向かう準備をしてる最中に村の人から色々と荷物がかさばるだろうからって言われてもらったものなんです」
そんな話をしていると目の前に大量のゴブリンが現れた。
唸り声で俺たちを威嚇してくる。
ユリンシスは怖がり俺の後ろに隠れようとする。
(今の俺はただのバッタです後ろに隠れたところで盾にもなりませんよ)
(大丈夫ですよそんなに怖がらなくても
ユリンシスさんなら余裕で勝てますから)
無責任に自信を持たせるためにそう言っているわけではなく本当にそれが可能な力がある。
「でも…」
(大丈夫ですユリンシスさんなら)
「分かりました!」
怖がっていた表情から真剣な表情へと変わる。
ゴブリンの前に立ち魔法の杖を構える。
一度小さく深呼吸をし心を整え自分の魔力を注ぐ。
ゴブリンがユリンシスに攻撃をしようと棍棒を振り上げたその瞬間!
魔法が放たれた。
攻撃をしようとしていたゴブリン半分どころではなく周囲にいたゴブリン全てを一発の魔法だけで倒した。
いや倒したというよりも後方もなく塵と化したという方が正しいか。
あまりの魔法の威力の強さに地面がえぐれている。
(修行以上の成果を出してくれたのは純粋に嬉しいんですけど、後方もなく消されてると素材の剥ぎ取りができなくなっちゃうのでもう少し力を抑えましょうか)
「すいませんでした」
申し訳なさそうに頭を下げる。
(大丈夫ですよさっきも言いましたけどまさかここまで俺がたった1回教えただけで成長するとは思ってませんでしたから嬉しいです)
少し遠くの方から聞いたことがない叫び声が聞こえてくる。
「今のって?」
(分かりませんけどとりあえず行ってみましょう)
「そうですね」
少し早足しでその声が聞こえる方に向かってみると、そこにはイノシシのような見た目をした大きなモンスターが2体いた。
(俺は左の方の相手をするのでユリンシスさんは右のモンスターの相手をしてください)
「分かりました」
軽く頷き杖を構える。
(さて俺は片方の相手をしなきゃいけないわけだけど、どうやって相手をするかな)
(とりあえずこのバッタの体で飛び回ってしばらく様子を見てみるか)
襲いかかってくるのを待っていると俺を目で捉え勢いよく突進してくる。
(思った通りこのスピードなら余裕で避けられる)
(ただ一つ問題点があるとすればこの硬そうな皮膚にバッタの足で通用するのかという点だ)
(俺が攻撃をよけると腹を立てたのか俺のことを睨みつけさっきよりも早いスピードで突進してくる)
その攻撃を避け一瞬のスキをつき攻撃をしてみたが予想通り全く攻撃が通った気がしない。
(乗り移るための修行をしている時気付いたことではあるが自分本来の力を出せる時と全くその力を出せない時がある)
(一体その差は何なんだ?)
(まだまだ魔王にかけられた呪いについてもわからないことだらけ)
(このまま分からない状態じゃいられない!)
どうしたらいいのかとモンスターの攻撃を避けながら考える。
次の瞬間突進してくると思いきや片方の足で俺を踏み潰そうとする。
攻撃に反応することができず踏み潰されてしまう。
しまった突進しかしてこないだろうとたかを括っていた。
「アリユスさん!」
(ユリンシスさんは俺のことは気にせず戦ってください!)
(何をやってるんだ俺は!)
(こんなところで…)
(俺はこの世界の悪である魔王復活に備えてこんなところで負けているわけにはいかないんだ)
(こんなところで!)
俺はバッタの小さな体で踏み潰されている足を持ち上げる。
そのまま持ち上げ地面に叩きつける。
無事に倒すことができたようでピクリとも動かない。
(終わったか)
心の中で安堵のため息を漏らす。
(それにしても何だったんだ今のさっきまでは全然かなわなかったのにいきなりなんかわからない力が込み上げてきた)
ユリンシスの方に目を向ける。
追い詰められてはいるが手は出さずただ見守る。
「アリユスさんどうしたらいいんでしょうか!」
助けを求めてくる。
(俺に声をかける余裕があるってことは大丈夫ですとっとと倒しちゃってください)
何か言いたそうにしていたがグッとこらえ一度距離を取る。
杖を構え直しモンスターの突進してくるスピードに合わせ魔法を放つ。
当然その攻撃をかわしきれずもろにくらいモンスターはひっくり返る。
「なんとか倒せました」
緊張の糸が切れたのか地面に座り込む。
(今度は力の調節をちゃんとできたみたいですね)
「どうにかなりましたけどやっぱり魔法を話す時は失敗したらどうしようって考えちゃってなかなか不安から抜け出せませんね」
(俺は魔法を使うことができないんでよくわかんないんですけど、魔法使いに関わらず冒険者はそう思ってると思いますよ)
ユリンシスが素材を剥ぎ取りギルドの方に戻る。
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