第16話

「2人ともおかえりなさい初めてのモンスター討伐クエストでしたけど怪我はしていませんか?」 


「ええプレミアちゃんがモンスターに最後の一撃でダメージを与えてくれたのですぐに片付きましたよ」


(でもほとんどやってくれたのはアリユスさんなんじゃ)


(そのことを受け付けの人に言うと色々とめんどくさいことになりそうなので言わないでおいてください)


(分かりました)


俺の言葉に短く返す。


「それでこれが今回倒したモンスターの素材です」 



ユリンシスがそう言って少し大きめの巾着袋をカウンターに置く。


「中身を確認いたしました問題ありません」


「それではこれが今回のクエストクリアの報酬になります」


俺たちはお礼を言ってそのギルドを出た。


「さて今回も無事にクエストをクリアできたわけなんですけど問題なのはどこに止まるかですよね」



ユリンシスがため息交じりの言葉を漏らす。


(いくらお金が入ったとはいえ中身をちゃんと確認してないんでわかんないですけどそんなに多くはないでしょうしね)


クエストの紙に書かれた成功報酬の部分を見るのを忘れていた。


「とにかくなるべく安いところを探しましょう」


いつも使わせてもらっている宿が立ち並ぶ場所からは少し外れた場所で宿を探していると。



「あの…ここなんていいんじゃないでしょうか」


プレミアが歩いていた足を止め少し自信なさげなくちょうで言う。


その建物は古びたような感じではあるが外に出ている看板に書かれている値段を見てみるとだいぶ安い値段で泊まれるみたいだ。


「良心的みたいですし中に入ってみましょうか」



「すいません泊まりたいんですけど部屋空いてますかね?」


「2人部屋をご希望でしょうか?」


「はいそうです」


「それでは右手側の奥の部屋がちょうど開いていますのでそちらの方にご案内いたします」


女の人の後ろについていく。


「ここが今回お泊まりいただくお部屋になります」


「こちらがこの部屋の鍵になります」


2人がお礼を言って軽く頭を下げる。


俺も2人の真似をしてちゃんとできているかわからないが軽く頭を下げる。



「なんかそんなに重労働のクエストってわけじゃありませんでしたけど疲れましたね」



ユリンシスが言いながらベッドの上に身を投げ出し仰向けでダイブする。


「そういえばアリユスさん私と一番最初に出会った時魔王についての情報を探らなきゃって言ってましたけど魔王についての情報は今さぐれてるんですか?」


(いやそれが全くこの体だから冒険者として登録してギルドで働くこともできませんし)


「だったらなおさら私たちが冒険者ランクをあげなきゃいけませんね」


「はい!」


プレミアがとても気合いの入った返事を返す。


(そう言ってくれるのはとても嬉しいんですけど怪我しないように気をつけてくださいね)


「分かってますいくら私たちが新人の冒険者だからってそこら辺に気を配らないで怪我をしていたらもともこもありませんからね」


(分かっているなら大丈夫なんですけど)


「私たちはお風呂の方に入ってきますね」


(いってらっしゃい)


(魔王の情報を探るにしてもこのバッタの体じゃ図書館に入ることもできないしな)


(他の誰かに借りてきてもらうってこともできなくはないんだけどここら辺にある図書館にどんな本が置いてあるかそもそも分かってないから時間の無駄になる可能性の方が高い)


しばらくどうしようかとなんとなく考えていると2人がお風呂から戻ってきた。


それから夜ご飯を食べ眠りについた。



目を開け横に顔を向けてみるとまだ外は暗く夜。



それからなんとか頑張って寝てみようと試みるが全く寝れる気配がしない。


少し外の風に当たるため外に出る。


なんとなく夜の空に浮かぶ星を見ていると、後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえる。


「アリユスさんも起きてたんですか」


(ええ、なかなか眠りにつけなくて)



(ユリンシスさんは?)


「私も似たような感じですなかなか寝付けなくて」



(ユリンシスさん)


「何ですか?」


(何であの時私の冒険についてきてほしいなんて言ってくれたんですか?)


(このままだったら1人で俺がさまようことになるって思ったからですか?)


「あの時はそんなこと一切考えてませんでしたよ」


「ただあの時私を助けてくれた姿を見てこの人と一緒に冒険できるんだったら大丈夫だ安心できると思ったんです」


「あの時私が冒険についてきてくださいって言ったのは困ってるからとかそういう善いからじゃなくてただ自分のためにそうしただけです」


「また誰か別の人のパーティーの中に入って追放されるのは嫌でしたから」


そんな話をしてるとまた後ろから足音が聞こえてくる。


「こんなところでお2人ともどうしたんですか?」


「少し私たちが出会った時の話をしていただけです」


「プレミアちゃんも今日はなかなか寝付けないですか?」


「はいなんでかよくわからないんですけど目が覚めてしまって」


「まだお2人と出会ったばかりで数日しか一緒にいないのにこういうことを言うのは変かもしれないんですけど最近このままでいいのかなって思って」


(それはどういう意味ですか?)



「なんというかなかなかうまく言えないんですけど、お2人と一緒にいると居心地が良すぎるというか何と言うか」



「プレミアちゃんは前の暮らしの方が良かったですか?」


「そんなことはありません!」


と即答する。


「ならこのままでいいんですよ、プレミアちゃんが今の状態を望むなら」


「…」


その言葉には何も返さずただうつむき困った表情を浮かべる。


「だから…」


プレミアにつけられている首輪に手をかける。



ユリンシスがその首輪を取り破壊する。


「もうプレミアちゃんはこんな首輪に支配される必要はありません」


(そうですよだからもし俺たちと一緒に冒険をしたくないと思ってたりしたら無理してついて来なくてもいいんですよ)



「それは絶対にないです!」


冗談のつもりで行ったのだが思っていた以上にはっきりと強く言葉を返されたので俺は少し驚く。


しかし同時にプレミアがこんなはっきりと物を言うことは知っている限りなかったので否定してくれたのは少し嬉しい。


それならこれからもよろしくお願いします。


俺とプレミアは握手を交わした。


「私もこれから改めてよろしくお願いします」 


(さてこのままだと明日起きられなくなっちゃいそうですし寝ましょうか)


「そうですね」


次の日。



「おはようございます」


プレミアがまだ眠たそうな目をこすりながら体を起こす。


少し遅れてユリンシスがベッドから起きる。


「失礼します朝ごはんをお持ちいたしました」


「ありがとうございます」


「それじゃあ早速食べましょうか」



「ところで今の冒険者ランクからあがるために何か条件ってあるんでしょうか?」


プレミアがご飯を食べている最中そんな素朴な疑問を口にする。


「私も具体的な冒険者ランクのあげ方を聞いたわけじゃないのではっきりとは分からないですけど」


「とにかく最初は強いモンスターを倒すとかじゃなくて実績を積み上げていってくださいって言われました」


「やっぱりランクの上がってない状態で上の方のモンスターと戦うと大変なことになっちゃうからですかね」


「アリユスさんとお姉様がいれば余裕でSランクのモンスターを倒せそうな気がするんですけど」


「お姉ちゃんはプレミアちゃんがそう言ってくれるとすごく嬉しいです!」


そう言って頬ずりをする。


(なんだか日を重ねていくにつれてユリンシスさんのシスコンドアイが増して言ってるような気がするんですけど)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る