第34話

「あれは私たちをどこに連れて行くつもりなんでしょうか?」


「一体何がどうなってるんですか!」


特にわけもわからず俺たちの後ろをついてきているプレミアは走る足は止めずに尋ねてくる。


「実のところ私たちもよくわかっていないんです」


「ただ魔力を宿したあの角が反応したということは何かが起こる!」


(その何かが起こる前に対処しなければもしかしたらもっと悪いことになるかもしれません!)


(それこそ今の村の状態をさらに悪化させるような何かが起こってもおかしくない)


だが俺たちはその角を追いかけていた足を止めた。


なぜなら空の雲がいきなりどす黒い紫色に変わり不自然に暗くなっていったからだ。


するとその曇り空に黒い鎧を身にまとった何かが映し出される。



「久しぶりだな勇者アリユス!」


(お前は魔王!)


次の瞬間大きな音がなり目の前に落雷が落ちる。


目の前を見てみるとちょうど雷が落ちたところに魔王が立っていた。


「この人が魔王なんですか?」


プレミアが杖を構え尋ねてくる。


(ええ…)


(それにしても魔王俺と会わない間に随分と見た目が変わったみたいだな俺と100年前に戦ってた時は体が黒い霧に覆われてたっていうのに)


「100年も時間が経ってるんだ見た目が変わっててもおかしくはないだろう」


(確かに100年もの時間があればいくら見た目が変わったとしてもおかしくはない)


(普通ならな!)


(俺はお前との100年前の戦いで確かに命を落としたが同時にお前を封印してるはずだ)


「あの封印は100年しか持たない」


「よく考えてみれば単純な話だろうお前がこの世界に蘇るよりも俺が早かったってだけの話しだ」


(昔話に花を咲かせるのはこのぐらいで終わりにしようぜ)


俺は2人の前に出て勢いよく殴りかかる。


「勇者自ら攻撃をしてくるか」


(今お前に攻撃をするのは俺じゃない!)


「何!」


ユリンシスが魔王に向かって効果力な炎の魔法を放ち直撃する。


「さすがに勇者の仲間ってことだけあって随分と攻撃力は強いみたいだな」


「そんなお姉様の攻撃を食らって無傷でいられるなんて!」


さすがに長い年月恐れられてきた魔王というだけあってそんな簡単にはやられてくれないみたいだな。


「それなら!」


プレミアがユリンシスに何やら作戦を伝える。


2人は俺の前に出て杖を構え直し魔法を放つ。



ユリンシスの炎の魔法とプレミアの風の魔法が合わさり新しい効果力の魔法が生まれる。


「なるほどよくできたかなり強力な魔法みたいだがまだまだ甘いな」


2人が放った魔法はかなり協力だったにも関わらず余裕のある笑みを浮かべている。


「勇者よ魔王である俺から一つ提案をしてやろう」


(なんだ)


「一対一で勝負しないか?」


「アリユスさん騙されないでくださいこれは何かの罠です!」


(分かったその勝負を受けよう)


「アリユスさん危険ですよ!」


ユリンシスのその言葉は一切無視して魔王の方に足を進める。


すると霧のようなものに覆われた。


「ここは!」


思わずあたりを見回してしまう。


「ここなら誰の邪魔も入らず思う存分戦えるだろう」


いつのまにか俺の姿が人間の姿に戻っている。


「俺が元の姿に戻っているって事はこれは幻覚の魔法か何かか!」


「これが本当に幻覚だったとして俺がわざわざそんなことを教えると思うか」


「それもそうだな」


「それにしても100年前俺の城に乗り込んできた時には仲間を1人も連れてこなかった勇者が仲間を引き連れているとはな」


「そんな減らず口を叩けるのも今のうちだ」


ジャンプをし魔王に向かって切りかかる。


だが余裕の笑みを浮かべ避けられてしまう。


次に切りかかると今度は避けようとすらしない。


正確に言うならただ首を少し横に傾けるだけ。


確かに剣先は魔王の肩の部分を捉えきっているはずなのに切っている感覚がない。


「何だ今の!」


確かに俺の剣は魔王の右肩を捉え切っていた。


「どうした勇者がよそ見なんかをしてそんなことをしていたら負けるぞ!」


薄気味悪い笑みを浮かべ俺に人差し指を向け次の瞬間!


俺の右肩に弾丸でも打ち込まれたような痛みが走る。


同じだ!


100年前俺が命を落としたあの時と!


けどまた同じ攻撃でやられるわけにはいかない!


なんとか体制を立て直し距離を取る。


考えろどうしてさっきは魔王に攻撃が当たらなかった。


幻覚の魔法の中にさらに幻覚の魔法でもかけてるっていうのか?


いや違うおそらく俺の考えが当たっているとしたら!


剣を構え直し切りかかる。


目の前の光景に惑わされるな!


魔王の何もない後ろに向かって剣を振り下ろす。


「う!」


魔王は剣で切られた肩を抑える。


「なぜわかった!」


その魔王の声には驚きと疑問が宿っている。


「さっき俺がお前の肩を切った時まるで気づいていないかのようにスルーしていた」


「俺はさっき攻撃が通用していないのかと思ったが」


「一つの考えにたどり着いた」


「俺の攻撃が通用していないんじゃなく幻覚の魔法によって感覚を狂わされているってことに」


「おそらくお前との距離は俺の目から見て数センチずれている」


「だからさっきお前の肩に剣が触れたにもかかわらず感覚自体がなかったんだ」


「おそらくこの勇者としての姿も幻覚!」


「実際はバッタの姿のまま」


「はははははははははははははははははははははははは!」


たかだかに笑い声をあげる。


「そうさその通りだよくこの短時間に気づけたな!」


「だがいくら種が分かったところでその都度自分の感覚のずれを直しながら我に攻撃を仕掛けてくるのは至難の技だと思うが?」


「それでも俺は勇者としてやるしかないんだ!」


俺は魔王との距離を詰める。


俺は攻撃を繰り出すが攻撃を食らわしているという感覚がない。


また俺との感覚の差が生まれてるのか。


やっぱりこの幻覚に支配された空間をどうにかしないとどうにもできないのか!


「アリユスさん」


「ユリンシスさん!」


「今から幻覚の魔法を解きます」


次の瞬間黒い霧に覆われていた周りは元の景色へと戻る。


「いくらお前の仲間が俺の幻覚の魔法を解いたところで勇者であるお前に勝ち目はない」


(それはどうなんだろうな)


「何!」


(策を労さないと俺に勝負ができないお前なんかに俺は負けない)


(お前が転生したのかどうなのかは分からないがその体合ってないだろう)


図星だったのか再び指を俺に向け弾丸のような攻撃をしてこようとする。


俺は鷹の体に乗り移り攻撃をかわす。


それを何度か繰り返す。


「小賢しい真似を!」 


俺は乗り移るのを繰り返しながら魔王との距離をじわじわと詰めていく。


「いつの間にそんなところに!」


一瞬の隙をついて容赦なく攻撃を叩き込む。


「魔王自らかけた呪いがあるにも関わらず俺に手も足も出ない気分はどうだ」


「調子に乗るなよ貴様!」


その言葉は一切無視してありったけの力を込め鷹の鋭い爪で攻撃する。


その瞬間魔王は手に持っていた剣で俺の攻撃をガードするが、その剣ごと俺の攻撃で破壊する。


それから魔王は特に何か言葉を発することもなく地面に倒れた。


俺たちが村の方に戻るとだんだんと呪いにかかっていた人たちの表情が和らいでいく。


「なんとか村の人たちも体調を取り戻したみたいですね」


ユリンシスが安堵のため息を漏らす。


(俺の勇者としての勤めはもう終わってるのかもしれないでもできる限り平和を守って行きたい)


それから俺たちは街の人たちに泣くほど感謝され喜ばれた。


改めてこの世界を守ることを決意した。

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伝説の勇者は肉体を持たずに100年後の現代に蘇る! カイト @478859335956288968258582555888

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