6 そうだ、仕事しよう(床張り編 後編)
タイルさんは何も置かれていない床に向かい右手を突き出すと、左手で添えるようにして仁王立ちになった。手を広げてマナと呼ばれる魔力のエネルギーを集めだしたようだ。
しかしこのポーズを見ていると、まるで子供の頃に見たバトル系少年漫画で強いキャラクターがエネルギー弾を撃ちだすポーズに見えてきた。このポーズの後溜めたエネルギーをぶちかまして敵のキャラにぶつけるのだ。すると何故か上半身だけ裸になり下半身はズボンの残った敵キャラが立っている。私はそんな光景を思い出してしまい、思わず吹き出しそうになっていた。
「小僧! やる気がないなら帰れ!」
タイルさんは私の方を見ると物凄い剣幕で怒鳴ってきた。彼は彼で真面目にやっているのだ、私はそんな彼をバカにしてしまった事を反省した。
「HAaaaaaaa――――!」
タイルさんは溜めたマナを何もない床に解き放ち、その後少しずつ手の動きを変えていた。その動きに合わせてゲル状の半固体になったマナのエネルギーが動き、タイルさんの手の動きに合わせて少しずつ広がっていた。
「ぬぬうううぅぅぅん! ほやぁーーー!!」
お世辞にもかっこいいとは言えない掛け声を上げたタイルさんが少しずつ手を動かすと、床のゲル状のマナは少しずつ平たくなり、床一面にぴったり張り付いた。
タイルさんはさらに細かく手を動かし床と壁の隙間をなくすように微調整を始めた、しかしこの手の動きを見ていると不思議な踊りを踊っているようにしか見えない(笑)。MPを吸い取られることはないのだが、見ているとなんだか元気を吸い取られるようにも見えて、私は必至で歯を食いしばって笑いをこらえていた。
「ちょやぁぁーーーー!むーーん!!」
タイルさんが最後の仕上げを終わらせた、すると目の前の床にはゴムともウレタンともつかない不思議な触感の床が部屋一面に壁までピッタリと貼り付けられていた。
「奥さん、終わりましたよ」
「ご苦労様、別の部屋もお願いします」
「お安い御用です、もう少しお待ちください」
タイルさんは奥さんにニコッと笑うと再び床張りの仕事を一人でテキパキと小一時間で終わらせた。私はそれを後ろで見ているだけだった。そして奥さんに挨拶をしてお金を受け取り、家を後にした。
「どうだ、床張りのスキルも人の役に立つもんだろ」
「そうですね、でもボクにできるのかな?」
タイルさんは笑いながら何もない土地を指さした。
「小僧、あそこに自分のスキルで床を張ってみろ」
タイルさんは私を見てそう言った、実際にスキルを使ってみろという事らしい。
「わかりました」
私は返事をすると先ほどタイルさんがやっていたように格闘漫画の主人公がエネルギー弾を撃つようなポーズを取り、マナのエネルギーを集めてみた。
「Fuoooooooo! ハー!」
タイルさんとは比べ物にならないしょぼいエネルギーの塊が目の前の1メートル四方に真四角い形で作られた。そのエネルギーの塊はその場に留まらず、地面に全部吸い込まれてしまった。そして私の目の前にできたのは一メートル四方のコンクリートのような床だった。
「あちゃーーー、こりゃあとても使いもんにならないな。小僧、この仕事で食っていくのはあきらめろ、残念だがお前には才能は無いわ」
「何がダメだったんですか?」
「応用性がないんだよ、この石みたいな床しか張れないならこんな村では仕事にならんのだ、だからと町でも誰かに紹介してもらえないとこんなスキルでは弟子にもなれん」
私は仕事における死刑宣告をくらったようなもんだ、こうなるとこのスキルを使って生きていくのはとても無理だろう。私はコンクリートの床をそのまま残してとぼとぼと家に帰ったのだ。
私が床張りスキルで作った大理石みたいなものは、後日そのままに放りっぱなしになっていた。
その数日後、村の人全員がどうにかこれをどけようと掘ったがどこまで掘っても底が見えずに諦められて再び埋められた。
……その時作った床が2メートル以上掘っても底の見えないコンクリートのモニュメント化していたのか、これは今晩にでも元に戻しておこう。
――昨日まで存在していた謎の硬い石の床は次の日跡形もなく姿を消し、村の七不思議として後々まで語られることになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます