45 ゴーティ・レジデンス伯爵

 応接の間はとても広く、私達は入口から少し歩いて中に向かった。


「貴方方がオーガースレイヤーのユカ様ですね、遠路はるばるお越しくださり有難うございます」


 凛としたイケボの男性が応接室の中で私達を待っていた。綺麗な金髪碧眼、スラっとした高身長、ホームが成長するとこんなイケおじになるのか……と言えるようなカッコいい男、この人物がゴーティ伯爵なのだろう。


「申し遅れました、私はこのレジデンス領を統治する当主、『ゴーティ・フォッシーナ・レジデンス』伯爵です。どうぞお見知りおきを」

「ボクはユカ・カーサです。こちらこそよろしくお願いします」

「カーサ……そうか、君はカーサ戦士長の息子だったのか」

「伯爵様は父さんをご存じなのですか?」


 ゴーティ伯爵は何かを思い出すように少し考え事をしてから以前の事を語りだした。


「ああ、彼は間違いなくこの国最強の戦士だろう。大将軍パレスと共に騎士団長だった私は王都を襲ったモンスターの大軍を屠った彼を戦士長で収まる器ではないとその功績を皇帝に推したのだがな、古い頭と風習に拘る貴族連中に猛反対されてしまったのだよ」

「そんな事があったのですか……」

「その古い風習に囚われた連中に嫌気がさして私は騎士団長を辞してこの領に戻ってきたというわけなのだよ、生まれ持った血の方が努力や身に着けた実力よりも尊いなぞ……奴らの考えは心底馬鹿げている!」


 ゴーティ伯爵のしゃべり方は王都の貴族連中への軽蔑を感じるものだった。


 しかし、このゴーティ伯爵という人物はキャラが立ちすぎていると言えよう、見た目は眉目秀麗、博識で思慮深く、それでいて統治者としての器も持ち合わせており、更にイケボ。例えるなら“ドラゴンズスターⅥ”の機械王国師団団長で国王だったエドワードや“ドラゴンズスターⅫ”に登場したザイン・トリドール皇帝のようなカリスマと強さも併せ持つ、天は一体この人物に何物を与えたのだろうか? 私がそう思っていた時ふと目に入ってきたのは応接の間の奥の壁に描かれた巨大な額縁に飾られた美しい女性の絵画だった。


「おや、気が付かれましたか、その絵は私の最愛の妻だったヴェッソーの肖像画です。稚拙ながらわが師『ヴォルケーノ』様を見習って私が描いた物なのです。本来表に飾るようなものではなかったのですが、亡き妻と共にいたいという私の気持ちを組んで皆がここに飾る事を勧めてくれたのです」


 確かに絵画の女性を見るとルームが成長したらこうなるのかなといった長身の美人の絵だった。彼女の母親というのもうなずける出来である……というか、この完璧超人は一体何者なんだ!? 元騎士団長で強い・イケメン・性格がいい・頭も良い・声も良い・絵も描ける……こんな欠点すら無い人物がいるという事が私は信じられなかった。


「素晴らしいです! 伯爵様は多彩なんですね!」


 エリアやマイルさんは伯爵の一挙手一投足全てに釘付けになっていた。そりゃあこれだけの美形がすればどんな事でも絵になるといえよう。マイルさんなんて瞳の奥がハートマークになるくらい伯爵を見つめていた。美しさは罪である。


「ユカ様、お褒めいただき有難うございます。それでは僭越ながら私の自慢の物をご披露させていただきます。バスティアン、いつもの物を」


「!」

「!?」


「ち……父上! 僕は旅の準備がありますのでこの辺りで一旦失礼しますっ!!」

「お父様……私、しばらく旅に出ていて魔法や勉強が滞ってましたのでそれを済ませてまいりますわっ!!」


「えー、せっかくパパがいいところを見せようとしたのに……残念だなー」


 私達は双子がここをすぐに離れた理由を後に知る事になる……あのような惨劇が起こるとは……この時点ではまだ誰も気が付くわけがなかった。

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