43 レジデンス兄妹、熱烈に歓迎される

「マイルさん、昨日の事何も覚えてないんですか?」

「アハハハハー、残念だけどなーんも覚えてないんよ」

「まったく、大変だったのですわよ!」

「だからゴメンってばー」


 マイルさんは猫耳をピョコピョコさせながらケラケラ笑っていた。どうやらこの世界では獣人は普通に存在するし、さほどヒエラルキーの低い物ではないようだ。フードの下の猫耳が分かった途端、マイルさんは薄闇色のフードを外し、尻尾を揺らしていた。


「マイルさん、遺跡で見た時とはまるで別人みたいですね、あの時は凄く威圧感があったのに」

「??? ユカ? あーし、遺跡なんて行った事ないよ。いくらそこの宝物が凄くてもリスク考えたら賞金稼ぎやってる方が割は良いからね!」


 ??? 私は何か違和感を感じた、遺跡にいた薄闇色のフードの人物と今の薄闇色のフードのマイルさんは別物だという事だ。確かにマイルさんは植物使いではあっても、コイン一つで遺跡を崩壊させたようなスキルの持ち主とは違う。あれは何か別の奴だったのだろうか?


「そうだ、昨日のお詫びね」


 そういうとマイルさんは高い木の幹に手を触れた。


「少し実をもらうよっ」


マイルさんが少し木の幹に力を入れると、高い木の枝からよく熟れた木の果実が四つ落ちてきた。


 ポトポトポテッ


「はい、これは丸かじりで食うんだよ」

「美味しそう……」

「うう、そんなの、少しはしたないですわ……」

「……ルーム、その実ちょっと貸してくれる?」

「わかったわ、お兄様」


 ホームは手慣れた手つきで木の実をむいて何個かにカットした


「はい、これでいいかな」

「お兄様、ありがとうですわ」


 そのやり取りを見ていたマイルさんが物憂げそうな表情を見せた。


「お兄ちゃん……か、羨ましいなー」

「マイルさん?」


「あーしにもしお兄ちゃんがいたら、どんなだったんだろうなー……。あーしの事、甘やかせたりバカな兄弟げんかとかしてたんだろうかな」


 マイルさんのふざけた態度は寂しさの裏返しなのかもしれない、まあ本心は本人しかわからないだろうから決めつけるわけにはいかないのだが、私は彼女の言動をパーティーのリーダーとして見守る事に決めた。


「みんな、食べたら出発するよ!」

「うん……」

「ユカ様、わかりました」

「かしこまりましたですわ!」

「わーったよ!」


 私はキャンプ道具をしまうと辺り一面の地面を元の高さの土地に戻した。


「辺り一面の土地を元の形にチェンジ!」

「……いつ見ても凄いスキルですね」

「今でもやはり信じられませんわ……」


 伯爵の待つ城まで今日中にたどり着ければいいのだが、私はホームに後どれくらいで城につくか聞いてみた。


「ホーム、後どれくらいで伯爵様のお城につくの?」

「ユカ様、もうすぐ父上のいるお城が見えてきますよ」


 私は目的地の城が本来街道を三日程通る場所と聞いていたので、最短ショートカットの出来た自分自身のスキルの便利さを改めて痛感した。


「ユカ様、領民達の家が見えてきました!」


 ホームの指さした辺りには小ぎれいな家がいくつも並んでいる。領民達の家がそれだけ小ぎれいに保てるという事はそこそこ生活水準が高いと言えるだろう。ゴーティ伯爵が名君と言われるのも納得できた。


「皆さま、ご苦労様です」


「おーい!みんなー、伯爵様のご子息様達のご到着だぞー!!」


 領民達は本心からレジデンス兄妹を出迎えてくれている。父親が善政を布(し)いているので領民達の顔が本当に嬉しそうに二人と私達を歓迎してくれていた。


「皆さま、収穫祭の準備はどうなっていますか?」

「ホーム様、もちろん収穫祭は行います! 今年は難しいと思っていたのですが、伯爵様が自ら収穫祭の為に貯えを出してくれると言ってくれたので、その恩に報いる為にも盛大にやらせていただきます!」


「ユカ様、これが父上の方針なんです。万が一の飢饉に備えて備蓄は常に貯えておく。しかしその年に無事過ごせたらそれを出して皆で実りを共有する。それが『ボルケーノ様』の教えだと父上が以前言っていました」

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