39 みんなで食べる食事は美味しい

 ホームの作った騎士団特製シチューはとても美味しかった。私の中で軍隊の作る食事のイメージと言えば以前横須賀の海軍カレー祭りに行った時の物だったが、イメージ的にはそれに近いのかもしれない。まあ元々保存食を美味しく食べる為の料理法だったのだろうが、現地調達した材料もいい味を出していた。


「美味しい…」

「当然ですわ、お兄様の特製シチューは騎士団の中でも群を抜いて凄いのですのよ!」


 ルームがドヤ顔でエリアに言っていたが……私は、お前が作ったんじゃないだろうにとツッコミを入れたかったが、大人の対応でスルーする事にした。


「本当に美味しいですね、肉の戻しが固すぎず柔らかすぎずでとても良いです」

「ユカ様、お褒めいただいて恐縮です、ですが僕はまだまだ修行中の身、いざという時の為にもっと素早く大勢の人の食べられる量を作れるようにならないと実戦では役に立ちません!」


 向上心が高いというのは素晴らしい物である。素人目線では美味しい物が作れればそれで凄いという事になるが、よく女子会で聞くというネタの『これだけおいしい物が作れるなら店出せるわよね』を同じクオリティで大量に、しかも安価で利益の出るように作る事を考えない友達が褒めるようなモンであろう。


 だが彼は実戦での立ち位置まで考えているのである。これは中々普通は若いうちから考えられる事ではない。


「う……、……」


 マイルさんが食事をしながら涙ぐんでいた、


「マイルさん? 何かお口にあいませんでしたか??」


 ホームが何か気まずそうな感じでマイルに問いかけていた。


「う……美味いよ、こんな美味いの初めてだ……」


 これは何の変哲もない飯盒炊爨のカレーからカレーを抜いたような野性味あふれるシチューである。確かに美味しいがそれほど泣くほどのものなのかというと疑問ではある。


「……マイルさん、普段どんなもの食べてたんですか?」

「ユカ! あーしを馬鹿にすんじゃないよっ! 普段は賞金で稼いでもっと立派な物を食べてるよ! それにこれでもあーしは最高の物ばっかし食べれたんだよっ!!」

「では……何故」


「あーしはね、子供の時からずっと友達いなかったんだ。没落前は父ちゃんも母ちゃんも仕事で忙しくて、食事なんてのは小さい頃からいつもメイドに用意された豪華なものを一人で食べるだけだった……美味しい物でもなんだか食べたらそれでおしまい。そんな生活をずっとしてたんさね」


 うーむ、まさかこの異世界で現代日本に置けるような愛情の無い食事の鍵っ子のような境遇を聞くとは思ってもいなかった……。しかし、マイルさんは没落令嬢だったのか!


「だからね、こんな風に他の人と食べる食事が初めてだったのさ、誰かと話しながら一緒に食べるってのに本当は憧れていた。だから味よりも気持ち的にこんなに美味しい食事をしたのは初めてだったのさ」

「味よりも……すみません! もっと修行して出直します!」

「!! オイオイ! 誤解! 誤解だって!! 言い方悪かったよ! アンタの作ったシチュー美味しいよ!!」


 言葉は選び方を間違えると誤解を生むものである……昔のグルメ漫画で言葉を選び間違えて即料理勝負になる展開って何度も見てきたなー。


「おかわり……ください」


 意外な物である! 普段自分からしゃべらないエリアが自分から率先してしゃべっておかわりを要求していた。ホームの特製シチューはそれだけ美味しいという事なのだ。


「はい、まだおかわりありますよ!」


 食事の時間はその後しばらく続き、私達は文字通り共に旅をする同じ釜の飯を食う仲間になったのだった。


 同じ食事で仲間との意思共有は前世の『トライア』でのゲーム制作時にもよく体験していたなと私は思い出したのだった。

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