38 騎士団名物特製シチュー

 ホームによる説教は一時間以上続いた、そしてエリアは立って困った顔のまま説教を受ける私達三人を見ていた。私がこれだけ人に長時間説教されるなんて久方ひさかたぶりだ。そういえば、まだ私が“ドラゴンズスター”を作る前の宣玩堂せんがんどうファミリードライブ用ゲームソフト“竜剣伝説”を作っていた頃に責任者の堀口さんにこっぴどく叱られたなぁ……。


 事の起こりは私が徹夜続きでプログラミングを保存するのを忘れたまま寝入ってしまった事だった。データレコーダーとパソコンにプログラミングを入れて磁気ディスクで保存したと思い込んだ私は完全に寝入ってしまった。だがその時は台風が近づいていて、まだ小さかった会社の電気が集中豪雨と雷雨で全て停電を起こしてしまったのだ! 


保存していたはずのデータはパー、新しくプログラムを打ち直すにしても全部やり直したら一週間以上はかかる。その上、もう印刷会社にも商品のカタログや家電量販店の店頭に貼る為の大型チラシも発注済み、それにはでかでかと発売日まで書かれていたのである!!


結局、各部署に製作総指揮の堀口さんと当時本社だった『新日本電設』の子会社で新設のゲーム開発部総責任者の『トライア』専務の仙田さんが平謝りしてくれた事で制作延長は決まったのだが、ファミリードライブ初のアクションRPGゲームの立場は宣玩堂本社の“デルタの伝説”が先に発売されてしまい、竜剣伝説はお蔵入りになったのである。その後私は堀口さんにクビ寸前の所を助けてもらい、こっぴどく数時間以上お説教を食らったのだ。


「聞いてるんですか!? ユカさん!!」

「は。はい! 海よりも深―く反省しています!!」

「……そうですか。これからは冒険者として恥ずかしくないように羽目を外さないでくださいね!」

「反省してます……」


 はあ、大の中年がまだ見習騎士の子供に説教されて情けないったりゃありゃしない。私は冷静に『ユカ・カーサ』としてこの世界で生きていく事を誓った。


「お兄様……わたくし足が痺れてきました……」

「あーしももーダメっ! リタイアッ リタイア」


「……まったく、皆さんもっとしっかりしてくださいね!」


 ホームは頭ごなしに怒っていたわけでも当たり散らしていたのでもなかった、至極冷静だったのだ。


「そういえばもうお昼ですね、皆さんお腹すきましたか?」


 ホームはさっきまでの怒り顔とは全く違うにこやかな表情で全員に問いかけていた。


「はい」

「お腹すきましたわ……」

「あーしも腹ぺこぺこー」

「そうですね、そろそろお昼にしましょう。ではボクが準備しましょう」


「ユカさん、準備は僕に任せてください!」


 そういうとホームは手慣れた手つきで野菜の下ごしらえや干し肉の戻しをし、とても美味しそうなシチューを作った。


「父上の教えなんです。僕は騎士たるもの、ただ戦うだけにあらず。困った人の為、何でも手助けできるような男になれと言われて育ちましたので。料理、裁縫、洗濯、簡単な工作や土木作業なら一通りできます。魔物や災害から逃げてきた人はどれも一人だけでは出来ないでしょうし。」


 ……まるで災害時の自衛隊である。騎士なんて戦うだけの誇りで生きているようなものという認識だったが少しその考え方を改めるか。ホームの所属する騎士団は元騎士団長だったゴーティ伯爵の指示のもと、本来の戦うだけの騎士団から弱者を守る為の騎士団に変わったという事なのだろう。


「美味しそうです」

「流石はお兄様、いつもながら素晴らしい出来でございますわ!」

「……そう思うなら少し手伝って欲しいんだけどな……」

「ん? お兄様、何か言いました?」

「いや、ルームはあまり器用じゃないから、お皿とか用意してくれるかなって」

「当然ですわ! 働かざるもの食うべからず! お父様の教えですわ!」

「……あーしももらって……いいのかなぁ?」


「どうぞ、新しい仲間ですから、歓迎しますよ!」


 ……このみんなの食事の前のやり取りを見ていて、なんだかんだでこのパーティーはうまく行きそうかな、と私は感じた。

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