40 ユカの持つスキル
同じ釜の飯を食う、これは昔から日本に伝わることわざだ。家族以外の者が同じ場所で同じ食事をする事で、同じ仕事や団体の結束の強化で苦楽を共にする事、と言えるだろう。
かつて『トライア』でも製作スタッフたちによる意識の共有は行われてきた。年に数回の忘年会や新年会、送別会等の懇親会、徹夜が決まった際の徹夜明けのファミレスでのみんなでの朝食(その後解散して各自家で死んだように寝る)、月一ペースのカラオケ大会に誰かが突発で提案のバーベキューやキャンプが行われた。
……よくブラック企業の求人にある『アットホームな職場です』の任意という名の強制的な物ではなく開発スタッフみんなが本心からスタッフ間の食事の共有を楽しんでいたのだ。
そして何よりも楽しみだったのが、“ドラゴンズスター”新作完成時のスタッフ打ち上げでの特上カツ丼だった! 普段からたまに一人でも食べたくなるカツ丼ではあったが、ゲーム完成後の達成感を感じ、みんなで一緒に食べるカツ丼が何よりも格別だったのである。
このように食事における仲間意識の共有は洋の東西を問わず、人間のコミュニケーションとして必須な物なのである。そういう意味で先程、私達はただの旅の同行者ではなく本当の仲間になったと言えるのだ。
「ご馳走様でした」
「あー食った、食った 満足だわー」
「ご馳走様ですわ」
「ご馳走様……」
「いえいえ、こんなものでよろしければ」
私達は昼食を作るのをホームに任せた分、食事の後片づけはホームに休んでもらい、残りの食べたみんなで行った。その為撤収は10分少しで完了した。
「よし、では行こう!」
「ユカ様……お聞きしたい事があるのですが」
「何ですか?」
多分マイルさんとの戦闘の時のあの事だろうな……。
「ユカ様のスキルっていったい何なんですか? 魔法でもなければ幻でもなさそうでしたが。あんな物見たのは初めてです!」
「私(わたくし)も見ましたわ、ユカ様はヘクタールの輩ども倒した時も何かしでかしてましたわね」
「あーしも知りたい! あれだけ凄い事やられて知らないままってシャクじゃない」
……これはもう言い逃れや誤魔化しようがない、これは素直に言うしかないか。
「実はボクのスキルは……
「へ?床作り?? あの足元の床を作るだけのハズレスキルですか??」
「信じられない……あーし、そんなのに負けたの?」
「オーッホッホホホ、皆様わかってませんですわね! ユカ様がそんなショボショボの能力で終わるわけないじゃないですの! 冗談ですわよね」
やはりこの世界で床作りというのは役立たずのハズレスキルだというのは一般的な共通認識のようだ。しかし、ルームだけは魔法使いだけに何か他の人と視点の角度が違うように感じた。
「本当だよ、まあ他の人と使い方が違っただけかな。これを見てみて」
そう言うと私は目の前の森の鬱蒼とした茂みに手を向けた。
「目の前の茂みを街道にチェンジ!」
「「「!!!?」」」
エリアを除く全員が、私のスキルで茂みが一瞬で歩いてきた街道と同じ道になりビックリしていた。
「信じられない……」
「あーし、夢でも見てるのぉ??」
「凄い魔力量ですわ……」
私のスキルは森の奥までを一瞬で地平線が見えるような街道にしてしまった。今後のスキルの課題は能力の最小化だろう、スキルが拡大化した分少し魔力を使っただけで凄い範囲がマップメイクできてしまうのだ、それこそ魔力を手ではなく指先だけでゴマ粒程度集める程度の集中力が必要なのだ。
「まあ、ユカの能力がケタ違いってのはわーったよ、これならモンスター退治も楽にできそうだね!」
「……うん」
「そうですね、早く父上に会いましょう」
「お父様、元気かしら……」
私達は食事を撤収し、準備を整えてゴーティ伯爵の待つ城に向かった。
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