12 そうだ、仕事しよう(オーガー撃退編)

 どう考えてもレベル4でオーガーに立ち向かうのは自殺行為だ。例えるなら人間が大型ダンプの前に立ち止まるようなもんだ。トラックが急ブレーキで止まって「ボクは死にません!」というのはフィクションだから可能であって、現実には轢き潰されてバラバラになってギャー! と言いながら死~んとなるのがオチだ。それくらいオーガーと人間の体格や強さには越えられない壁が存在する。


 ここでこのデカブツ(オーガー)になぶり殺しにされて食われるなんてのは絶対に嫌だ! どうにかしてこの状況を回避しないと。私はどうすればオーガーから免れることができるか素早く考えなくてはいけなかった。オーガーの食事はもうすぐ終わる、あれだけの体躯だったオークリーダーが既にクリスマスの飾りつけされたローストチキンを大きくしたくらいに足の部分が残っているだけになっていた。凄い食欲と食事のスピードだ。


 私は自分のスキルが何なのかもう一度考えてみる事にした。初仕事でミスった時、何故か床がどこまでも掘っても底の見えないモニュメント化したり、先ほどの不自然な四角い沼、これはひょっとして私のスキルのものなのかのかもしれない!しかしそれを使うにはもう少し考えないといけないようだ。しかしここではあまりにも時間が無い。


 私はオーガーがまだ食事をしている間に片目を手で隠して辺りの当たり判定を確かめた


 00000100011000


 オーガーのあの体躯では1だけのサイズは確実に通れないだろう、私は1の方向に向かい走り出した。かろうじて人が一人通れるだけの獣道だ。


 GUUUuウム……


 食事を終えたオーガーは次の(私)獲物を狙うためにのっそりと立ち上がりあたりの木々をなぎ払いだした。凄まじい馬鹿力だ、間違いなくこれは知力を最低に攻撃力全振りしたステータス丸出しだった。0判定だったはずの森の木々がどんどんなぎ倒されて1の数値が増えていく、私はこいつを相手に木を利用して逃げるのはほぼ無理だと考え直した。


 私は目を隠していた手を離し、逃げながら次の作戦を考える事にした、幸いオーガーはその巨体の為に鈍重そのものといえるような動きだった。しかし一歩が2メートルくらいで歩けるので追いつかれるのは時間の問題だ。どうにかオーガーが通れない狭い岩に挟まれたような場所に行かないと!


 私は川沿いを走って切り立った崖に挟まれた水の枯れた谷底にたどり着いた。ここならオーガーでもそう簡単に崖を壊すことはできないだろう、今のうちに次の手段を考えないと。


 OGAAAAァァアア!!


 考える間もなく私に追いついたオーガーが凄まじい雄たけびを上げながら私を掴もうと手を伸ばしてきた! 万事休す! だが、やはりオーガーは馬鹿だった。


 GUO? ググゴーン!


 なんとオーガーは両端切り立った崖に挟まり、身動きできなくなってしまったのだ。見事なまでに崖にジャストフィットなサイズピッタリにはまってしまい、私の数十センチ先で片手だけがじたばたしていた。

 

 助かった、これで少しは考える時間が作れた。私は自身のスキルでこいつを倒す方法を思いついた! だがそれが予想外れだったら今度こそ私の人生はここでピリオドである。


 私は自分の持つマナの力を引き出す為、右手を前に突き出しながら左手を添えて精神集中を始めた。


 「FOOOOオオオオオオオォォォ!地面よ、毒の沼に変われ!」


 GUOOO!????ォォォ


 成功だ! どうやら私の本当のスキルはマップチップ、つまり床を任意のものと入れ替える能力だったようだ! オーガーは数メートル四方の四角い毒沼に全身を取られ、身動きできなくなっていた。

 オーガーはもがきながら崖に手を思い切り叩きつけた、その衝撃はまるで地震である。木々がわさわさと揺れていた。しかし肝心の毒の沼はオーガーを捕らえ抜け出そうともがくほど深く沈み込んでいく。


 GOOOOOOOOAAAAAAAAAァァァァァアア!


 オーガーが激しく暴れたのが自身の命を奪うことになるとは当人は気が付かなかっただろう。私が崖の上の方を見ると、明らかに崖がヒビを立てて崩れだした。そして崩れた崖はオーガーの上空から岩の雨として降り注いだのだ。さすがの凶悪モンスターも自然の驚異には勝てるわけがなかった、岩と降り注いだ木の枝にグシャグシャにされたオーガーはもう原型すらとどめていなかった。


 「レベルが上がりました」「レベルが上がりました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る