27 崩れゆく古代遺跡

 エリアの手渡してくれた青い液体は聖杯に一杯に湛えられていた。しかしさすがに私もこの力を受け取る事には抵抗を示した。


「ユカ、その力があればどんな事でもできる程の力なんだぞ、俺はお前ならその力に溺れる事無く正しく使えると信じてるからな!」

「ハンイバル、貴方は欲しくないの?」

「いや、欲しくないと言えばウソになる。しかし、その力を手に入れてしまったら俺は間違いなく慢心する。普通の人間はそこまで強くはなれないよ……」

「リーダー、では、ユカなら問題無いと確信できたのは何故なのでしょうか?」

「フェイス、俺は感じたんだ。彼は普通の人間ではない、普通の人間にはできない事をやり遂げるだけの器があるんだよ」


 ハンイバルさんの洞察力はバケモノクラスである。確かに私は元々この世界の人間ではなく、ゲームとはいえ達観して世界をいくつも創造してバランスやシステムを構築した事がある。だが、この世界でそれを言った事は誰にもなく、言ったところで誰も信じないであろう。


「わかった……ボク、コレを受け入れるよ!」

「ユカ、私はあなたを信じています」


 私は覚悟を決めて聖杯を飲み干そうとした。そして、青い液体を一口飲んだ。味は特に何も感じない、ただの色のついた水だった。


 一口飲んだ後、私は何も問題が無いと確信し、残りも飲み干そうとした。その時! 誰にも気付かれずに、私達から少し離れた空中に音も無く、何もないはずの空間から現れたフードで全身を隠した人物が現れた!


「困るんだよねェ……この世界に秩序の力を持ち込まれてはァ!!」


 ! 誰かのびりびりとした悪意を感じる!! そして私の持つ聖杯に不規則な軌道を描いた古代の硬貨が激しい勢いでぶつかり、聖杯を弾き飛ばした!


 カラァァァン!


 聖杯は砕け散り、残りの液体が全て飛び散り、霧散してしまった。


「誰だ!?」

「何だとっ! 今の今まで魔力を一切感じなかったぞ!」

「それどころじゃねぇ! 殺気どころか気配すらどこにもなかった!」


「ハハハハァ! キミたちは邪魔だなァ! アイツに頼まれたけど、それ関係なく不快だよォ! この遺跡と共に消えてしまいなァ!」


 謎の人物は先ほどの硬貨を遺跡のどこかに投げた。先程と同じ不規則な軌道を描いたコインは遺跡の壁に吸い込まれ……その後、遺跡が振動し、大地震が起こった。


「ハハハハハァ! さようならァ、勇敢な冒険者クン!」


 そう言うと謎の人物は遺跡の穴の底に飛び降りた……はずだったが、その姿はあっという間に見えなくなった。


「まずいぞ、このままでは全員生き埋めだ!」

「クソッツ! こんなとこでペチャンコは簡便だぜ!!」

「とにかく出ましょう!ここはもう持たないわ!」

「こういう時こそ焦ってはいけません、冷静に判断しましょう!」

「俺ならドラゴンさえいれば……ダメだな、全員助かる方法でないと!?」


「ユカ……力を貸して」

「エリア!?」


 エリアが壊れた瓦礫に触れると、大地震で崩れ、通れなくなっていた道が元の遺跡の床に戻っていた。物体の本来の姿に戻す『レザレクション』の力だ。これなら床をチェンジすれば外に抜け出せる!


「遺跡の床をチェンジ!」


 その時想像以上の事が起きた!! なんと、私の作った渡り廊下の床のサイズは一瞬で本来の10倍以上の物になったのだ!!


「これなら全員渡れる! 向こう岸のワープゾーンまで戻ったらすぐ入口まで全員でワープだ!」

「「「「了解!!」」」」


 遺跡の入り口に戻った冒険野郎Aチームと私達は魔神の手首を持ち、全員で隣町の廃屋までワープ床を使い一瞬で移動した!


古代の遺跡が跡形もなく崩壊したのは私達がワープした数秒後の事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る