悪徳貴族ヘクタール編

29  ボロボロの依頼者

「貴方の傷を治します」


 エリアは息も絶え絶えな兵士に軽く触れた、どんどん酷かった傷口が元の綺麗な肌に戻っていく。その様子を見た周りの人はエリアをレベルの高いヒーラーだと認識した。


「ユカも凄いがこっちのねーちゃんも凄いぞ、ハイレベルのヒーラーだ!」


 私はエリアの能力がレザレクションと知っているがあえてギルドの人達にはヒーラーだと思わせる事にした。


「ハンイバルさん、この人はボク達が助けます!」


「それを聞いて安心した! ユカ、後は頼んだぞ!」

「よう、お前に頼まれて持ってきた魔神の手首だが、オレの連れ合いに頼んどいたから、街外れの閉まりかけの鍛冶屋に行ってみな! 最高の物があるぜ!」

「私達はまず食料を確保して国境線に向かいます。ユカ、貴方もご武運を!」

「空中の敵なら俺に任せな!一網打尽にしてやるぜ! ユカ、お前との冒険楽しかったぜッ!」

「ユカ、エリア、またねっ。シーユーアゲイン!!」


 そして、冒険野郎Aチームは魔軍の大軍勢に抗う国境線の救援に向かった。


 残された冒険者達はあたふたしていた。


「おいおい、俺達どうすりゃいいんだよ?」

「下手に国境線向かっても足手まといだろ」

「まあこの町守るのが最優先だな」

「その為にはリーダーが必要だろッ!!」

「ハンイバルさんくらい強い冒険者でなきゃみんな付いてこないぞ」

「……いるじゃねーか! 最適な奴が!」


「「「「「ユカだ!!!」」」」」


 私は冒険者ギルドのみんなの推薦でこの町の冒険者のリーダーに祭り上げられてしまった。まあ、リーダーは元クリエイター時代に何度も経験しているので人を統率したり纏めるのには抵抗はないからできない事はないが……下手にでしゃばるのも良くない。


「ボクでいいんですか?? 皆さんの方が経験者なのに」


「関係ねぇよ! オーガースレイヤーのユカ!」

「俺達のリーダー! ユカ!」

「頼んだぜ! ニューリーダー!!」


 卑屈ではないが下手に出た事でみんなは謙虚な私を満場一致で新リーダーに任命したのだ。


「私達冒険者ギルドとしましては、ユカさんは現在Dクラスの冒険者でしたが、ハンイバルさんの推薦と、忘れられた遺跡の攻略者という称号と……古代の魔神を討った功績で……四階級アップのA級冒険者に任命します!!」


「魔神を討った!!??」

「オレ見たぜ、魔神の手首らしきものを昨晩コングさんが運んでたのを」

「その際にこれをやったのはユカだと言ってたんだよな!」


「下手すりゃユカってウォールさんと同じくらい強いんじゃないのか!?」


 噂が噂を呼び私の評価はうなぎ上りである。しかしそれらの話が尾ひれのついたものではなく全部事実なので私は何とも言えないむず痒さを感じた。


 しかし、みんなが期待するのでリーダーとして冒険者ギルドをまとめる事になった。


「……みなさん、新しく冒険者ギルドのリーダーになったユカ・カーサです! 若輩者ですがよろしくお願いします!」


 私は未成年とは思えない毅然とした態度で全員に挨拶をした。すると、辺りは割れるような拍手で包まれた。まあ、前世では“ドラゴンズスター”の新作が出る度に制作披露パーティーで開発責任者挨拶をしていたので、私にとってこれはもう慣れた物なのである。


「ユカ……頑張ってね」


 リーダーになった私は冒険者達をまとめ、南東の魔軍の被害から逃げてくる人を助けられるように炊き出しやヒーラーの手配をした。周りの大人が手助けしてくれたので特に問題もなく被災民は助かったのである。


 だが……そんなある日、満身創痍でボロボロの男が町の反対側の門から入り、冒険者ギルドの受付に息も絶え絶えにやってきた。


「大丈夫ですか!? 魔軍が西からも来たんですか!」

「助けてくれ……私はヘク……タールりょう……からきた……あそこは……地獄……ヘクター……ルは……悪魔だ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る