35 謎のフードの人物

 よーし、最高の鎧も手に入った、旅の準備もできた! これで出発準備は完了だ!


「では、ボク達はレジデンス伯爵のお城に向かいます。後の冒険者の皆さんは引き続き避難民の炊き出しや町の守備をよろしくお願いします!」


「わかったぜ、ユカ!」

「まかせてくれ、リーダー」

「ユカさん、新規の受付は私が引き続き承りますので出来る限りで連絡お願いしますね」


 私は冒険者ギルドが当分、私がいなくても運営できるように誰にでもできるノウハウを紙に書いたり、各自が出来る事の共有をシステムの伝達をしたりしておいた。これは前世での私のゲーム開発リーダーの経験を生かしたものである。


かつての『トライア』時代は、制作に何年もかかる大作“ドラゴンズスター”開発の第一営業部はいざという時の為に新作開発待ちの間は同社他事業部のヘルプも行っていたのである。その為、第二営業部の“ラスティング・サーガ”、第三営業部の“竜剣伝説”、第四営業部の“ミレニアムハーツ”、第五営業部の“ミリティア・ミッション”といった各部署の仕事の手が足りなかった場合にスタッフが出来る事を手伝っていたのである。


それ故に各部署の手が空いた場合は“ドラゴンズスター”のメイン開発に協力してもらえるようにしておいた。これはいざ、どのメインスタッフが何かしらのアクシデントがあり制作から離脱した際もゲーム開発が出来るように私が社内で構築したシステムだったのだ。私はその経験をこの世界で実践したのだ。


経営不振の合併後の理不尽な合理主義の新社長のせいで開発部の連動を断ち切られた『トライエニアックス』に比べればこの冒険者ギルドはまだ品が無いだけで絆はある。それなのでノウハウさえあれば各自がそれぞれ出来る事で町やギルドに貢献できるわけだ。それ故に私は安心してここを離れる事が出来た。


「それでは行ってきます!」

「皆さん、行ってきます」

「冒険者ギルドの皆様、父上に代わり、ご尽力……感謝いたします!」

「それでは皆様、ご機嫌ようですわ!」


 僕たちは挨拶を済ますと町を出てレジデンス伯爵の待つインクリヴィズ城を目指した。


道中にはゴブリン、ホブゴブリン、コボルト、オークやポイズンスライム等が出たが、私の遺跡の剣エクスキサーチ、ホームの剣技、ルームの魔法で難なく倒せていた。ほぼ私が大半のモンスターを倒してはいたが、ホームもルームも足手まといという程の弱さではなかった。オーガーと戦う前の私よりはよほど強いのだろう。


「ユカさん、この辺りから物騒になります。気を付けてください!」


 私達は崖崩れで道が塞がれた為、街道から少し獣道っぽい場所を通らないといけなくなってしまった。本来なら私のマップメイカースキルで街道の邪魔な物を除ければ良かったのだが、まだこの兄妹にこのスキルを見せていいものかどうか不安だったのだ。


「ジメジメして暗いですわ……。 ううん! 私怖くなんて! 怖くなんてありませんわ!!オーッホッホホホ!」


 ルームが明らかに空元気で怖いのを押し切ろうとしていた、まあ普通の女の子だとこんな所いたらそりゃあ不安で怖くなるのだろうな……と私は頬を緩ませた。そんな時!


 シュッツ!! 何かが遠くから飛んできた!


「みんな、屈め!」


 全員が屈んだ所で頭のあった辺りに飛びナイフが木の幹に何本も刺さった!


「誰だ!?」


「へえ、あれを避けるなんて……やるじゃん!」


 !? 私は目を疑った。目の前にいたのは薄闇色のフードをかぶった謎の人物だったのだ! 薄闇色のフードの人物といえば……『クーリエの神殿』を崩壊させたのも薄闇色のフードの人物だった!


「ハハハ……アンタの持ってるものが欲しいんだけどぉ」

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