7 そうだ、仕事しよう(ゴブリン退治編)

 天啓を受けた次の日、私は仕事に行った。

 しかしスキルがまともに使えずに、仕事にならなかったのだ。

 そうだろうなとは思ったのだが、床張りのスキルは私の天職にならない事を思い知った。


 ――だが『うんこ製造機』をやっていくのも私のプライドが許さなかった。

 これでも前世ではクリエイターを長年やってきたのだ! 

 仕事をすることにプライドを持っているだけに、仕事をせずに食わせてもらうのは今の親にも失礼だと思う。


 そして私は仕事から返された次の日、朝食後に母親に話してみた。


「母さん、ボクはスキルに頼らず冒険者としてギルドに登録してみるよ!」


 (下手に前世の記憶を取り返したからと一人称を私や俺などにすると不自然に取られるので、私は人に話す一人称は今まで通りボクで通すことにした)


「ユカの考えて出したことならやってみなさいっ、でも無茶はしちゃダメよっ」


 反対されるかと思ったが母さんは素直に私のわがままを聞いてくれた。

 やはり母さんは若いころ冒険者だったので経験者の助言なんだろうと感じた。


 ◇


 私は母さんの作った弁当を持ち、父さんの昔使っていたショートソードやレザーアーマー等を借りて村のはずれの子供たちが立ち入り禁止の裏門からモンスターの住む森に向かった。

 しかし、子供たちは現金なものである。

 私のスキルが戦闘に使えない床貼りだと村中に伝わったとたんに、誰も一緒に冒険に行ってくれなくなってしまったのである。


 仕方ないので、私は一人でも倒せるスライムや、少し頑張れば倒せるゴブリンを倒す事にした。  

 スライムやゴブリンならショートソードでも十分倒せるはずだ。

 ゴブリンは村に現れて家畜や野菜を奪う害モンスターなのだ。


 ザシュッ! ザクッ ブニュッ!


 私はスライムを2匹なぎ払って切った。

 これくらいならスキルなしでも余裕である。

 だがスライムは仲間を呼んだ。

 スライムなら何匹出てきても、攻撃される前に回転しながらなぎ払えば倒せた。


 最大8匹くらいまでなら回転斬り(我ながら安直な名前だ)でも十分倒せた。

 仲間が周りにいない分遠心力に任せてぶった切れば、相手から攻撃に当たりに来るようなもんだろう。

 気を付けるとしたら回転のし過ぎで気分が悪くならないようにするだけだ。


 しかしスライムは魔力の素が不浄な水と混ざっただけのものであり、モンスターというよりは自然の汚れなので経験値はほとんど入らない、剣術の練習になる程度だ。

 経験値を得るには最低でもウルフやゴブリンといった、魔素に毒されたモンスター化した生き物を倒さないといけない。

 これらのモンスターは猿や野犬が魔素に毒されてモンスター化したものだ。


 スライムを数匹倒したところで私は別の生き物の気配を感じた。

 スライムの切れっ端を餌にしようとウルフにまたがったゴブリンと歩きのゴブリンが現れたのだ。

 これは下手に戦えば大けがをしかねない、慎重に戦わないと。


 私は岩壁を背にしつつ後ろから襲われない場所を確保し、昼食に使うつもりだった油にしみこませた布に火をつけた。

 ゴブリンが怯めば目的は果たしたようなものだ。


 私の思った通り、ゴブリンは火のついた布を怖がっていた。

 私は炎の燃えた布をショートソードに素早く巻き付け、怯んだゴブリンをウルフごと全力で切りつけた。  

 私の目論見通り属性付与の武器でなくても切っ先の傷口からウルフとゴブリンは燃えだした。


「ギャアアア!ギョゲゲゲェ!」


 不快で耳障りな叫び声が聞こえる。

 火だるまになったゴブリンがのたうち回っているのだ。

 私は鉄で補強された冒険者シューズの靴底で、火だるまのゴブリンを奴らの仲間のいる方に蹴り飛ばした。


 狼狽えていたゴブリンは火だるまの仲間に押し倒される形で、身動きできないまま丸焦げの消し炭になった。


『レベルが上がりました!』


 どこからか女性らしい声でゴブリンとウルフを倒した私の耳の中に、レベルアップアナライズともいえる説明文が聞こえてきた。

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