5 そうだ、仕事しよう(床張り編 前編)
天啓を受けた次の日、どうにか朝起きた。
気分はとても憂鬱だ、そりゃああんなハズレスキルで生きていくしかないんだから……。
今日は村はずれのタイルさんのところに仕事の話を聞きに行くことになったのだ。
タイルさんとは子供達にいつも仕事をしていないとバカにされていた村のおじさんだ。
母さんから聞く限り、タイルさんは無職ではなく村のみんなの依頼を受けた時だけ働いているとのことだった。
仕事、久々に聞いた言葉だ。
前世では普通に働いていたからな。まあ体を使ったのは学生の時のアルバイトくらいで後はずっと技術職のデスクワークだったな。
私は前の人生のことを思い出していた、しかしここでいう仕事とはそんなものではなく文字通りの体力仕事だろう。
「いってきます」
「気を付けるのよ、タイルさんによろしくね」
「にーちゃんがんばってー」
私はお昼のお弁当と手袋やロープなどを持って村はずれのタイルさんの家に向かった。
◇
「よう、お前さんがユカか、ウインドウさんから話は聞いてるぜ」
「よ……よろしくおねがいします」
私を迎えてくれたのは少し小太りでがっしりした髭モジャののっそりとしたおじさんだった。この人がタイルさんだろう、手はゴツゴツした感じで職人っぽさは感じた。
「床張りのスキルは使いこなせれば一生食いっぱぐれることはないぜ。俺だって昔は宮殿のメインフロアの床貼りをしたんだ。」
そう言うとタイルさんは誇らしそうに胸をどんと叩いてドヤ顔をしていた。昔やった仕事に自信があったんだろう、元クリエイターとしてその心境は分からないではない。
「へー、すごいんですね!」
「そうだろう、もし宮殿に行くことがあったら右端のカーテンの隅の床を見てみろ、俺の名前をそこに書いてるからな。あ、お前さん文字読めたっけ? てか、それよりも一般人が宮殿のメインホールに入れることなんてまずありえないか、すまなかったな!」
この世界の識字率はあまり高くはない、しかし名前くらいは教会で何かを書いたりするのでたいていの人は見様見真似で自分の名前だけは書けるのが通例のようだ。
「よし、では仕事をはじめるぞ! ついてこい」
「はい、わかりました」
私はタイルさんの後ろを彼の仕事道具一式を持ちながら今日の依頼主のもとに向かった。
◆
「あらあらタイルさん、ではよろしくお願いしますわ、ほほほ」
「はいよ!奥さん、じゃあちゃっちゃとやりますよ」
「あら、そちらの男の子は?」
依頼主のおばさんはタイルさんの横にいた私の事に気が付いたようだった。
「ボク、ユカ・カーサです。よろしくおねがいします」
私は普通の子供(少年)のふりをしながら挨拶をした、下手に一人称で私とか俺とか使いだすと何かあったのかと勘繰られるのでここは普通の少年のふりをした方がいいのだ。
「カーサさん。ああ、確かにウインドウさんとウォールさんに似てるわね、よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
タイルさんがぶっきらぼうに地面に敷いた大布に仕事道具を並べだした。
「よし、今から仕事をはじめるぞ! 小僧、まずは家具を運び出せ!」
「わかりました。でもボクはユカです、小僧じゃありません!」
「やかましい、名前で呼ばれたきゃ一人前の仕事をしてからほざけ!」
タイルさんはいかにも職人といった感じのしゃべり方だった。
以前子供にバカにされてた時はもっとヘラヘラした無職のおっさんといった感じだったが仕事になると性格が変わる人のようだった。
「ハア、ハア……ぜぇ」
依頼主の家はそれほど大きくなかったが、家具や雑貨が多かったので部屋をすっからかんにするのに二人がかりでも昼過ぎまでかかってしまった。
――床張りの仕事なんて床を魔力で作っておしまいだと思っていた。そんな時が私にもありました……。
お昼を食べて休憩した後、タイルさんがこちらを向いた。
「小僧、仕事ってのはこうやってやるもんだ!まあ見てろ」
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