50 ヘクタールの差し金 ポディション商会

 いじめた相手に復讐される、よくある王道の物語で見かける光景だが、やられる側を目の前で見るのは私も初めてだった。因果応報と言えば仕方がない。

 

「私の父親の番頭だったフィートはライバルのポディション商会と組んでいたのです。そしてポディション商会の娘に私に反感を持つ者がいたので彼女にわが商会の全ての情報と金庫等を全て明け渡してしまったのです」

「ポディション商会……最近力をつけてきた新興勢力だね。わが領にも商売の申請許可を出しに来たよ。私が認めなかったけどね」

「ゴーティ様、あれでもポディション商会は形だけはまっとうな商売で書類も揃えてきたはずですが、何故却下したのですか?」


 私もそれは疑問だった。書類さえそろっていれば不本意でも申請許可を出すのが普通の為政者だと言える。しかしゴーティ伯爵はそれを認めなかったのだ。


「マイルさん、いくら書類を揃えてても物の出所が分からなければこの領では売れませんよ。盗品かもしれませんからね」

「ゴーティ様はポジション商会が盗品を売っていると言うのですか?」

「まあ尻尾は出さないけどね、アレがヘクタールと組んでいるという所までは調べ済みだよ。彼らもまだまだ詰めが甘いな」


 ゴーティ伯爵は既に盗賊団が商隊や定期便をモンスターに襲わせてそれをポディション商会経由でヘクタールが売らせている事まで把握済みだったわけだ。


「しかしゴーティ様は何故ヘクタールの差し金だとわかったのですか?」

「私は取引させる相手の袋や箱には特殊な染料を袋や箱に塗っているのだよ。塗った後は乾いてしまい見えなくなる。しかし、特殊な光魔法を使うと……浮き出す形だ」


 これは現代日本で使われているブラックライトのスタンプのシステムとほぼ同じである!確かにこれだとよほど用心深い相手でなければバレるわけがない!


「この方法で作った箱や袋の盗まれた物と同じ物をポディション商会の者がいけしゃあしゃあと我が領に商売許可申請書を出しに来たのが一か月ほど前だ。しかし私はこの売りに来た連中に対して今我が領では間に合っている、ヘクタール領なら今物が不足しているので行ってみてはいかがかと通行許可証を出してやったのだが……」

「従わなかったんですね」

「恐らくそうだろう、関所からヘクタール領に行った者がいる報告は上がらなかった。それどころか盗賊が出没するようになったのはその直後の事だったのだよ」


 確かに正体を隠してヘクタール領から襲いに来るためにレジデンス領に来た連中にヘクタール領へ帰れとも突きつけるような通行許可証を出しても馬鹿にされたと取られるだろう。流石はゴーティ伯爵である。


「多分ポディション商会としては、我が領は物資が行き届いているから物が売れないと見たのだろう。それで物資不足にして高値で売りつける為にモンスター使いの盗賊をけしかけた、といったところだろうね」

「従わなかったんですね」


「お父様!! 通行手形の事で是非ともお願いがあります! わたくし達をヘクタール領に行かせてください!」


「父上、僕からもお願いします! ヘクタール領では今でも困窮した領民達が餓死をしているのです! それを切実に冒険者ギルドに伝えに来た人が追っ手に殺されそうになっていました! 僕はこんな理不尽を許せません!」


「……お前達は私とヘクタールに戦争をさせたいのかい?」

「! いいえ! そういうわけでは……」

「隠さなくてもいい、お前達は私の子供だ。その気持ち、わからないわけではない。だが、まだ今はその時ではない」


 ゴーティ伯爵は双子の考えを見抜いていた、その上で止めたのだ。伯爵には既に立てた計画があると考えていいのだろう。


「話は聞こう、だが……その話は盗賊退治が終わってからだ!」

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