2 天啓の日
「ユカ」
「ユカッ!」
誰かが呼んでいる、どうやらボクのことのようだ、ボクはゆっくりと目を開けた。
「ん……なぁに」
変な夢を見た。
よくは思い出せないがとても怖い夢だった。
痛くてつらい夢。
でもボクは何もケガしていない……アレが夢でよかった。
カーン! と甲高い音が響く、これは痛い。夢じゃない。
どうやらフライパンで頭をたたかれたようだ。
「いつまでも寝てなさんなっ」
ズキズキする頭をさすりながら、ボクはゆっくりと台所に向かった。
こんがりと焼けたパンとスープが、おいしそうな湯気を立てている。
それ以外にも今日は特別に焼いたオムレツが別皿に盛られていた。特別なごちそうだ!
しかしなぜかボクは、頭の中にホカホカの玉子がたっぷり乗った白い粒粒のたくさん入った謎の料理のイメージが浮かんでいる。
……どうもそれが頭に残っていて、ボクはあまり玉子に対する食欲がわかなかった
「えー、にーちゃんだけいいなー」
妹のルーフがオムレツを羨ましそうに、傍からのぞき込んでいる。
「ルーフ、食べるかい?」
「わーい! にーちゃん大好き!!」」
母さんが困った顔を見せていた。
「せっかく誕生日だからって奮発したのに、アンタ卵嫌いだったのっ?」
「う、ううん……そういうわけじゃないんだけどなんだかちょっとね」
母さんがため息をついて横を見た。
「まあ、ルーフが食べちゃったみたいねっ」
食事を済ませてボクが食器をしまおうとしていると、母さんが何か問いかけてきた。
「ねえユカ、今日が何の日か覚えてるわよねっ」
「え。何だったっけ???」
コーン! 今度はしっかり蓋のしまった小瓶が頭に飛んできた。
「いったいなー! 何すんだよ!?」
「ふざけたこと言ってるからでしょっ! 今日はユカの誕生日、天啓を得る日でしょっ」
そうだった、この世界では15歳の誕生日に神様から天啓を受けてスキルを覚醒してもらうのが、大人になる儀式だった。
父さんのウォールは戦士長、兄さんのピラーは五人長、どちらもスキルを活かした職業に就いている。
もう一人の兄さんのポルタは戦闘系スキルではなかったので、町で錠前職人になるために見習いをしている。
母さんのウインドウは、今は普通の主婦だ。
しかしたまに何かの魔法でゴミを吸引したり、洗濯物を水魔法でかき混ぜたり、風魔法で乾かして手抜きしているのを見かけるので本当は凄腕の冒険者か魔法使いだったんだろうと思う。
普通の人はスキルを使ったら大半のmpを消費して動けなくなってしまう。
でも母さんは容易くmpを消費する魔法を制限なく使っているみたいだ。
ボクは父さんみたいな強い戦士か冒険家になるために、村はずれでスライム退治などを他の子どもと一緒にしていた。
スキルなしでもスライムくらいは問題なく倒せるのでスキルが戦闘系なら、父さんや兄さんみたいに強くなれるかもと考えている。
「パン食べたら早く教会に行きなさいっ!」
「はーい」
ボクは普段より少し小ぎれいな服に着替えると教会に向かった。
村の人何人かに挨拶すると声をかけられた。
「ユカ、今日が天啓の日か! おめでとう。勇者になれるといいな」
勇者の天啓、それは約束された勝利のスキル、世界を救う英雄になれる能力だ
そういえばボクは小さいころから勇者にあこがれていたんだった。
昔話に出てきた『勇者』『大魔女』『魔法王』『竜王』これは誰もが知っている魔王と戦った伝説の英雄たちの話だ。
はずれスキルだと冒険に出ることもなく村で一生を終える、そんなのは嫌だ!
今日ボクのこれからの人生が決まる。そう思うとワクワクしてきた。
ボクは天啓を受けるために教会に向かった。
教会は村はずれにある。
今日の天啓を受けるのはボクだけだったようだ。
教会の中はしんとしている。
中にはなんだかいい匂いが漂っていた。
教会に入ると入口の受付で羽ペンを持った書記の人が、ボクに話しかけてきた。
「さあ、貴方の名前を神に告げるのです」
ボクははっきりした声で自分の名前を言った。
「戦士長『ウォール・カーサ』の息子、『ユカ・カーサ』です!!」
「ユカよ、貴方の名前は神に届きました。さあ、中に入りなさい」
神父様に引き連れられてボクは聖堂の中に入った。
その中央の大きな道の向こう側に飾り付けされた祭壇があった。
「さあ、神に祈りなさい」
神官様に言われ、祭壇でボクは祈り始めた、
すると、なんだか気分がフワフワしてきた。
そしてボクは意識が遠くなっていった……。
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