第28話 メリッサのステータス


 愛美はメリッサから閲覧許可を得たので、ステータスへ視線を落とした。


――――――――――

名前:メリッサ

職業:見習い暗黒騎士 Lv6

HP:180/180

MP:30/30

腕力:52

体力:40

敏捷:19

器用:15

魔力:10

精神:5

スキル:【血撃】【半死の一撃】【ブラッドサークル】

称号:【天職の加護】

装備:黒いブロンズの大剣、冷めた血の胸当て、冷血のレオタード、赤き血の鉄靴

所持金:0G

――――――――――

    ↓

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名前:メリッサ

職業:見習い暗黒騎士 Lv9(3アップ!)

HP:360/360

MP:60/60

腕力:96(44アップ!)

体力:70(30アップ!)

敏捷:31(12アップ!)+5(クールニクスのワッペン(呪))

器用:23(8アップ!)

魔力:10

精神:8 (3アップ!)

スキル:【血撃】【半死の一撃】【ブラッドサークル】【月面歩行(装備効果)】【血剣】new!

称号:【天職の加護】【ジャイアントキリング】new!

装備:黒いブロンズの大剣、冷めた血の胸当て、冷血のレオタード、赤き血の鉄靴

所持金:5000G

――――――――――


 レベルが6から9に上がっている。


 新しいスキル【血剣】と愛美も獲得した【ジャイアントキリング】も得ていた。

 気になったので【血剣】をタップしてみる。


【血剣/パッシブスキル。大剣装備で攻撃速度が3%早くなる】


「お〜、攻撃速度3%アップだって! あと腕力がめっちゃ上がってるよ!」


 愛美がメリッサの肩を叩くと、彼女は疲れたように肩を落とした。


「レベルが上がって可愛さから遠ざかってる気が……」

「そんなことないよ! メリッサは元が可愛いんだからさ、これは一種のギャップ萌えみたいなものだよ。暗黒騎士が血なまぐさいからメリッサの可愛さが際立ってるんだよね」

「もっと可愛いスキルがほしい。【血剣】って……なんでこんなホラーっぽいの……」

「ホラーってよりスプラッター?」

「上げるのか落とすのかどっちかにしてー」

「私はいつでもアゲアゲだよ。メリッサの良いところいっぱい知ってるし。それに暗黒騎士、カッコいいよ。もっと自信持って!」

「いやそうじゃないんだけど……」


 メリッサはなんか違う、と愛美を見るも、愛美は大きな瞳を楽しそうに細めている。


 一緒に遊べることが楽しいと目が語っているため、メリッサは毒気を抜かれ、つられて笑った。


「愛美にはかなわないなぁ。ま、そのうち可愛いスキルを覚えるでしょ! イベントクリアで覚えるスキルとかもあるみたいだしさ」

「おー、楽しそうだね。イベントとか参加したいな」


 しばらく二人で雑談をし、800を越えている同接に愛美とメリッサは驚いて何度も感謝を告げた。視聴者に挨拶をしてライブ配信を切ろうとする。


 しかし、視聴者から「街につくまでは」とお願いされたので、愛美はメリッサの許可をもらって森を抜けるまでライブ配信を行うことにした。


 同接が増えてびっくりしたねと言いながら、すり鉢状になっているホーンラビットの巣を上り、小さな空洞になっている入り口から出る。景色は森の中へと変わった。


 ライブ配信カメラは小さな球体をしており、ふわふわと二人の後を追っている。


 愛美のMP残量が乏しいため、なるべく戦闘を避けて森を抜けた。


「あ、ニッケさんからDMだ」

「例のお姉さんね」


 メリッサが愛美から見せられたメッセージ画面を覗き込んだ。


「門の前で待ってるって!」


 どうやら街の門で待っているらしい。


『姉さん迷ったのかww』

『一番乗りでメリッサちゃんに会おうとしてるな』

『有名クランのサブマスがそれでいいのかw』


 愛美は道中でニッケとの関係性をメリッサに説明する。


 メリッサはニッケが有名な情報クラン『春風のたより』のサブマスだと知り、「そんな大物とどこで知り合ったの?」と驚いた。


 狩猟の森を抜けると、遠くに巨大都市ホープシティの門が見えてきて、門の付近に見知った姿を見つけた。


「ニッケさーん!」


 長い髪をかき上げ、ニッケが手を上げた。スリットが入った民族衣装のようなロングスカートから小麦色の美しい脚がのぞいている。


 愛美はメリッサの手を引き、門の付近まで行くと笑みを浮かべた。


「ニッケさん! 無事にズッ友と再会できました。ありがとうございます」


 愛美はメリッサの背中を軽く押して紹介する。


「メリッサです。愛美とはフランスのスクールで一緒でした。情報クラン『春風のたより』のサブマスさんなんですよね? 凄いですね」


 やや人見知りなメリッサが丁寧に挨拶をすると、ニッケはふっ、とアルカイックスマイルを見せてから流し目を送り、ポケットからメモ帳とペンを取り出した。


「メリッサちゃん……」

「な、なんでしょうか?」

「ここにサインを」

「えっと……サインですか?」

「あなた、とてもいい。金髪ツインテールで大剣を振り回すのはロマン。好き。愛美ちゃんと二人合わせるとさらに良き。好き」

「あ、はい……」


 困惑するメリッサ。


『まさかのサインwww』

『姉さん自重なしww』

『暗黒姫が困惑w』

『拙者と場所を変われでござる』


 コメント欄からニッケに対して盛大なツッコミが入った。


「とりあえずサインしてあげたら?」


 ニッケが面白い人だとは知っていたが、思ったより変な人だと知った愛美もちょっと苦笑いだ。


 サインをしてもらったニッケは愛美にもペンを渡し、二人分のサインを手に入れると非常に満足そうな顔をした。


「これが私のユニークアイテム!」


 決め顔でカメラに向かって高々とメモ帳を掲げるニッケを見て、愛美とメリッサは顔を見合わせて笑った。


『ウザいけど美人だから許せてしまうw』

『ウザいwww』

『姉さんwwww』


 三人はわちゃわちゃとゲームについて話しながら、門をくぐって街に入った。


 ニッケが話し上手なため、メリッサも割とすぐに打ち解けることができ、自然な笑みが浮かんでいる。


「こうやって一緒にゲームできるの……嬉しいよね!」


 愛美が心底嬉しそうに笑い、はじまりの街ホープタウンの大通りをスキップして歩く。


 石畳を身軽にぽんぽんと跳び、ふわりと身体を半回転させて見習いローブをひるがえし、メリッサとニッケに笑顔を向ける姿はまさに聖女そのものだった。


『聖女様なんだよなぁ』

『心根が純粋』

『そのピュアさ、おっさんには眩しすぎる』


「視聴者の皆さんもありがとう。また一緒に遊びましょう!」


 愛美が締めの挨拶に入ってカメラを見る。


「あ、愛美……ッ!」

「上っ!」


 メリッサとニッケが驚愕して手を伸ばした。


「ヴァ――」


 ガシャン!


 ――5ダメージ


 ――あなたは死にました


 バイバイと言おうとした瞬間に花瓶が脳天に直撃し、最初の文字「バ」が「ヴァ」になり、半開きをした口のまま、宙にキラキラとエフェクトを散らして消えていく愛美。


 花瓶が落ちて5ダメージを受けてデスならければ、それはそれは素敵な聖女様の笑顔で配信は締めくくられるはずであった。


『花瓶デスwwwwwwww』

『腹痛いwww』

『笑いの神に愛された聖女wwwwwwww』

『決めきれないところがアイミちゃんwww』

『毎回笑かしてくれるww』


 コメント欄は爆笑に包まれ、ライブ配信は終了した。


 デスペナから復帰すると目の前に胡散臭い神父の顔があって、「おおアイミ、冒険の途中で死んでしまうとは情けない」と妙に慈愛の込められた笑みを向けられ、げんなりしたのは言うまでもない。

 ついでに顔の横には『蘇生料金7700Gを払ってください』と浮かんでいた。

 草むしり確定である。


 シバイッヌ、ブレイブソード、ハイタッチに引き続き、花瓶デスの動画もバズるのはちょっとだけ先のお話である。

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