第12話 ハイタッチ


 流浪のスケルトンを倒してクエストをクリアしたので配信を終わろうとしたら、まだやってほしいと一斉にコメントが流れたので、愛美は嬉しくなって笑顔で了承した。


「それでは街に帰りたいと思います!」


 帰り道でウルフとエンカウントしたが、【自動治癒(オートヒール)】で回復を入れ続け、肉を斬らせて骨を断つ作戦で倒していく。


 愛美は配信カメラに向かって解説を入れた。


「ウルフはこうやって腕を噛んでもらってですね」


 愛美の左腕にウルフが噛み付いて、ぶら下がる。


 ――11ダメージ


 一気に減ったHPバーが【自動治癒(オートヒール)】によって満タンまで回復する。


「抱き込むようにして捕まえます。あとは聖なる毒針で攻撃します」


 ウルフを太ももに挟んで、ぷすぷすと毒針で刺しまくる。


 1ダメージのログが大量にポップして、ウルフは悲しげな顔で光の粒子になった。


『ちょっw』

『やってることが脳筋すぎるwwww』

『この聖女イカれてるw』

『笑顔で毒針刺すの笑える』


「毒針は手首のスナップが重要です」


『スナップwww』

『アホwww 腹痛いwwwwww』

『腕を噛んでもらって〜のとこ好き』

『この子アホなのでは?w』


 盛り上がるコメント欄に、さすがの愛美もちょっと恥ずかしくなってきた。


「これしか方法がないんですよぉ! 杖で攻撃しても0ダメージなんですから!」


 愛美が必死に抗議すればするほどコメント欄で愛美イジりが盛り上がってしまい、もう知りませんと言って愛美は街へと向かう。


 ごめんねとコメントが流れたので、さして気にしていない愛美は笑顔でいいですよとお許しを出した。


(こうやって誰かと話しながらゲームするの楽しいなぁ)


 愛美は終始笑顔で街への道を進んだ。


 MPの残量が心もとないのでスライムとの戦闘は避けると、三十分ほどで街に到着した。


 シバイッヌがいる門の前の広場で、二人の男女が手を振っているのが見えた。


「ニッケさん! アキラさん!」


 大きく手を振り返して二人に駆け寄った。


 MPが0の手前だったので、話すだけなら大丈夫だと【自動治癒(オートヒール)】を切った。街を歩くために少しでも自然回復させておきたい。


 エキゾチックな露出高めのニッケが妖艶に微笑み、金髪イケメンの聖騎士アキラが若干暑苦しい笑顔を向けてきた。


「配信見てたよ。おめでとう」

「ニッケさん、ありがとうございます」

「アイミちゃん、やったな!」

「アキラさんが練習に付き合ってくださったからですよ。ありがとうござました」


 二人にお礼を言うと、『“春風のたより”のサブマス!』『明星の騎士団のアキラだ!』というコメントが流れた。


 有名人であった二人の登場に視聴者たちが大いに盛り上がる。


 愛美は二人が多くの人に知られていることに驚き、尊敬の念を覚えた。


「アイミちゃん。イェイ」


 ニッケが嬉しそうに右手を掲げたので、愛美はハイタッチする。


「いぇーい!」


 ニッケの優しいハイタッチに、ぱちりと軽い音が鳴った。


 続いてテンション高めのアキラが「来い!」と言って手を上げたので、愛美も「行きます!」とノリよく返してジャンプしてハイタッチした。


 クランのリーダーを務める熱い男アキラは結構な勢いでハイタッチをした。


 ばちんと音が響く。


 アキラが白い歯を出して「ナイスハイタッチ」と言う。

 愛美もにかりと笑い「ナイスハイタッチですね」と親指を立てた。



 ――5ダメージ


 ――あなたは死にました



「ア、アイミちゃん?!」


 愛美は広告に出てくる外国人ボディビルダーのような爽やかな笑顔で親指を立てたまま、キラキラと光の粒子になって消えていった。


 アキラとニッケはまばゆい光になって空へと溶けていく愛美を見上げ、呆然と口を開ける。


 三人の周りに駆け寄ってきたシバイッヌが、くぅん? と首をかしげた。


 静寂を切り裂くように、アキラの脳内にログが流れた。



 ――プレイヤーキル


 ――低レベルキルのため所持金三分の一、1000Gを奪いました。


 ――初犯のため三日間レッドネームとなります。懸賞金がかけられます。



「ちょっとぉおぉぉぉっ! ハイタッチでデスるとか聞いてないよぉぉぉッ!」


 アキラの悲しい叫びがこだまし、一部始終を映した配信カメラが愛美の後を追うように消えた。


 コメント欄は茶化すように『聖騎士、ハイタッチで見習い聖女をキルする』という文字が延々と流れた。


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