第13話 クエストの報酬



(アキラさんには悪いことしちゃったなぁ……)


 愛美は学校が終わって帰宅し、自分の部屋でスマホを見ていた。


 画面にはアキラがプレイヤーから逃げている姿が映っている。


 ポリスメンズという賞金首殺しの動画配信クランに追われているらしい。


 奇しくも門の外でハイタッチをしたので、プレイヤーキル判定になってしまったようだ。街の中はPK禁止なのでキルはできない。不運な事故であった。


「【自動治癒(オートヒール)】は常にかけておかないと」


 ハイタッチで死ぬのは貧弱にもほどがあった。


(ニッケさんと買い物に行って、武器屋でデスったことも謝らないとね)


 視聴者に毒針を面白おかしく言われたので、やはり攻撃力はすべてを解決するという精神で武器屋に行き、転んだ拍子に最高級オリハルコン製のブレイブソードに頭から突っ込んで2200ダメージを負ってデスってしまった。


(【自動治癒(オートヒール)】でも死ぬことはある……うん)


 減算速度が速すぎて回復が間に合わなかった。

 さすがに【自動治癒(オートヒール)】も無敵ではない。


 武器屋のおっちゃんの「お嬢ちゃぁぁん!」という叫びと、ニッケの「アイミちゃぁぁん!」という悲鳴が耳の奥にまだ残っている。


 不幸にも配信中に起きた事故だったので、めちゃくちゃコメント欄は盛り上がった。


(そういう色物っぽい盛り上がりはいらないんだけどね……。もっと清楚な聖女姿を褒めるコメントがほしい。切実に)


 スマホでRLO2の掲示板を調べると、愛美専用スレッドが立ち上がっていて、瀕死聖女、ゾンビ聖女、ワンパン聖女、脳筋聖女などの不名誉なあだ名が散見された。


 バカにされているのではなく、親しみを込めて呼ばれているのが痛し痒しだ。


 現に、『アイミの聖女伝説チャンネル』は登録者数が四千人まで膨れ上がっている。


 わずか一週間足らずで人気が出たことは素直に嬉しい。


 愛美がデスる切り抜き動画、『シバイッヌVer』『ハイタッチVer』『ブレイブソードVer』は合計でなんと五十万再生だ。


 ぐぬぬ、と愛美は拳を握って、皿の上に乗せたポテチをかじった。


(アイミじゃなくてアホ美って)


 愛美は過去の転校先で愛曽山愛美ではなく、アホ山アホ美と呼ばれたことを思い出した。


(一度ならず、五回も違う転校先でアホ美と呼ばれ、RLO2でも呼ばれるとは……異議あり!)


 私のような清楚で知的なレディをつかまえて何を言うとんねんと、言ってきた全員に心の中でツッコミを入れていく。


 愛美はスマホに映る逃亡者アキラにエールを送り、ヘッドセットコルタと連携しているアプリを開いた。


 RLO2にスマホでログインする。

 攻略などは一切できないが、自分のステータスやアイテム確認をできる仕組みだ。


(えーっと、ステータス確認っと)


 アプリを操作して画面を開いた。


――――――――――

名前:アイミ

職業:見習い聖女 Lv7

HP:5/5

MP:940/940

腕力:1

体力:1

敏捷:1

器用:5

魔力:190

精神:80

スキル:【治癒(ヒール)】【祈り】【レスト】【プロテクト】

【小さな祝福Ⅴ】

ユニークスキル:【自動治癒(オートヒール)】

称号:【無手の博愛者】

装備:回復術士の杖、見習い聖女のローブ、見習い聖女のリボン、見習い聖女の靴

所持金:0G

――――――――――


(まーた所持金ゼロだ)


 ハイタッチでデスり、武器屋でデスったので、神父に有り金をすべてむしられた状態だ。


 蘇生料金が足りなかったので大教会のお手伝いをして、【小さな祝福Ⅲ】が【小さな祝福Ⅴ】になっているのが唯一の救いだ。


(【小さな祝福Ⅹ】になったらどうなるんだろう?)


 ウィキで調べても出てこないので、どうなるのか楽しみだ。

 レベル7になって覚えた、新しいスキルも次にログインしたら試してみたい。


【プロテクト/対象の防御力を上げる。強度、継続時間は魔力に依存する】


(あと、特殊クエストをクリアした報酬もよかったよね)


 愛美は画面を操作して、新しい装備品の説明を出した。


『見習い聖女のローブ/防御力+10 回復魔法効率微上昇』

『見習い聖女のリボン/防御力+3 回復魔法効率微上昇』

『見習い聖女の靴/防御力+1 回復魔法効率微上昇』


 所持金をむしり取られてきた神父からの報酬に、頬が緩む。


 試したところ、回復魔法効率微上昇の効果は体感でわからないくらいだった。


(でも、ほんの少し【自動治癒(オートヒール)】の継続時間が伸びたんだよね)


 愛美にとって【自動治癒(オートヒール)】は生命線だ。長く維持できればできるほど生存率が高くなる。


(見た目も可愛いし、もっと早くくれればよかったのに〜)


 愛美は新しい洋服を買ったときのように口角を上げ、装備をタップしてデザインを確認する。


 見習い聖女シリーズは下級職の装備にしてはかなり凝った作りだ。


 特に気に入っているのがリボンで、トレードマークの白リボンとほぼ一緒でありながら、素材がシルクのように滑らかで高級感があった。


 ローブに関してもデザインが素晴らしく、ローブというよりドレスに近い。


 まず、オープンショルダー仕様で胸元まで開いている。腕の部分は袖が広がったベルスリーブ、腰はくびれを強調するようにコルセットが入って膝下までスカートが伸びていた。光の女神ナリアーナを象徴する光の紋章が、金の刺繍で丁寧に描かれ、胸元からスカートまで横断するように縦に縫い込まれている。


(瑠璃色の爽やかなパターンが織り込まれてるのも可愛いよね。ザ・清楚って感じで)


 白をメインに金色、青色が使われた見習い聖女服は、まさに悪しきものを排除し、浄化する効果がありそうな装備だった。


 クリアした『特殊クエスト:見習い聖女、伝説のはじまり1』の報酬に相応しい。

 運営が見習い聖女に力を入れているのがわかる逸品だ。


(スタッフさんに思い入れのある人がいるのかな?)


 父の影響か、内部で働く人へ考えが向いた。


 愛美はアプリからログアウトしてスマホをスリープにし、数学の教科書とノート、ポテチの乗ったお皿を持って、居間に移動した。


 祖父母が寂しがっているので、今日のRLO2はお休みだ。


 居間のちゃぶ台でゴールデンウィークに出された宿題をやっていると、祖母と祖父が嬉しそうに横でお茶をすすり、自分たちも文庫本を開いて読み始めた。


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