第36話 メリッサの転職(クラスチェンジ)


 休日になり愛美はRLO2にログインした。


 ゲレーロ村でメリッサと合流し、町の広場に二人で向かう。


 牧歌的な村では村人が鍬を持って歩き、愛美とメリッサに「大魔狼を退治してくれてありがとう」と口々にお礼を言ってくれる。


 特産品のゲレゲレはちみつという、名前は不味そうだがホープシティで人気のアイテムをもらった。


(甘い! 味覚も再現されるなんて不思議だよなぁ)


 愛美はアイテムのはちみつをスプーンですくって人類の進歩に称賛を送る。


「準備はいい?」

「いつでもいいよ〜」


 愛美はゲレゲレはちみつをアイテムボックスにしまい、ステータス画面からライブ配信ボタンを押した。


 空中に球体のカメラが出現して、愛美とメリッサを撮影する。


 視界の右端にある小さなコメント欄が一気に流れ始めた。


『待ってました!』

『こんちゃ〜』

『あいあいみ〜』


 同接は事前告知のおかげか5000まで膨れ上がった。


「あいあいみ〜! みんな今日も集まってくれてありがとね!」


 何も考えていない、もとい、根が明るい愛美は誰が言ったのかわからない「あいあいみ〜」という挨拶を言いながら、カメラに手を振った。


「みんな、今日もありがとね」


 メリッサが言葉少なに挨拶をすると、メリッサファンから一気にコメントが流れる。


『姫に我らの血(スパチャ)を捧げたい』

『スパチャはいつ開放されるので?』

『姫に斬られたい』


 視聴者が投げ銭できるスーパーチャット、略してスパチャはシステム的には解禁されているが、現在学校側に問題がないか確認中だ。アルバイトが禁止されているため、あとから何か言われても面白くない。メリッサが念には念を入れて確認をしている。


 挨拶とスパチャについてをさらりと説明し、今日の本題に入った。


「えー、今日は相棒メリッサの転職を披露したいと思います!」


 拍手をすると、コメント欄も「わー」という祝福の声であふれた。


 メリッサが軽く咳払いをしてカメラ目線になった。


「暗黒騎士への転職条件は三つあるの。

・HPが1になる【血死の一撃】でボスにラストアタックを与えること。

・回復職と特殊クエストをクリアすること。

・自分よりレベルの高いボスを倒すこと。

 この三つ。だから大魔狼のクエストで条件を満たせたんだよね」


 メリッサが指を三本上げてみせ、じゃあ行くよとステータス画面を操作し始めた。


「え? もう? なんかもっとセレモニー的なものをだね――」

「早く転職したい」


 愛美が止める間もなく、メリッサがぽちっと転職のボタンを押した。


 突如としてメリッサの足元に魔法陣が出現し、その魔法陣が赤黒く点滅したかと思うとドロドロと溶け出して血の色に染まり、地面が円形状に紅色で満たされた。


 血を模した赤い液体は意思があるかのように飛び跳ね、メリッサを繭のように包みこんでいく。


 平和な村にいきなり出現した儀式的な様子に村人たちが何事かと集まり始めた。


 血の繭は空中へと浮かんで徐々に薄くなり、半透明の赤い膜となってメリッサの姿を現してポタポタと液状化して地面に吸い込まれていく。


 やがて膜がすべて消えると、メリッサがゆっくりと降りてきた。


『……カッコいい』

『装備もグレードアップしてる?』

『あー転職後に装備も変わる仕様って特定の職業であるよね。だからメリッサちゃん新しい装備にしなかったのか』

『暗黒騎士は専用装備だとクラスチェンジボーナスで装備がグレードアップするでござる』

『アイミちゃんもそうじゃね? ずっとクエストでもらった装備だし』

『アイミちゃんは蘇生料金で常に金欠w あと見習い聖女は装備品すげえ少ないみたいよ。海外の見習い聖女の最強装備が聖白絹のドレス(紙装甲)だった』

『女性で暗黒騎士って初じゃね?』

『男のロマンだからな』

『性別関係なくロマンだろ』


 派手なクラスチェンジをして地面に着地したメリッサは自分の両手を何度か開閉してステータスを確認し、ふっと悟りを開いたように哀愁の漂った笑みを浮かべた。


「装備も……新しいスキルも……全然……可愛くない。すごく強いけど……強いけど」

「強いの?! 見せて〜」


『ドンマイw』

『暗黒騎士似合ってるよ!』

『いつか魔法少女になるメリッサちゃんも見たい』


 メリッサの可愛くない発言は華麗にスルーし、愛美は近づいてステータスを見せてもらった。


――――――――――

★上級職へクラスチェンジ!


名前:メリッサ

職業:暗黒騎士 new!! Lv20

HP:1990/1990(200アップ!)

MP:170/170

腕力:275(20アップ!)

体力:200(20アップ!)

敏捷:82(10アップ)+5(クールニクスのワッペン(呪))

器用:60(10アップ!)

魔力:10

精神:14

下級スキル:【血撃】【半死の一撃】【ブラッドサークル】【血剣】【ブラッドエッジ】【愉悦の輸血】

上級スキル:【血死の一撃・殺】new!【ブラッディソウル】new!【サクリファイス】new!

特殊スキル:【月面歩行(装備効果)】

称号:【天職の加護】【ジャイアントキリング】

装備:大魔狼の大剣、漆黒の胸当て、漆黒のレオタード、紅血の鉄靴

所持金:14700G

――――――――――


 上級職への転職によりHPが大幅にアップし、腕力、体力、敏捷、器用も上がった。


 魔力と精神が上がらないのは脳筋仕様のため仕方がない。もとよりほぼ不必要な数値のため、あまり気にならない。


「スキルが見やすくなってるね。てか、見るからに殺意高めなスキルがあるんですが……」


 愛美が新しいスキル欄を指差す。


【血死の一撃・殺/HPを生贄にして凶悪な一撃を放つ。残HP1まで消費。消費したHP×3倍、攻撃力3倍のダメージ。※HP満タン時のみ使用可能】


 使用したHP×3のダメージだけでもかなり凶悪なスキルだが、プラスで攻撃力×3も上乗せとなる。見習い暗黒騎士にあった【血死の一撃】が統合され、より強化された。


 続いて新しいスキルを愛美は確認した。


【ブラッディソウル/自身が血を流すほど自身が強化される。攻撃力1〜10%上昇。※クリティカル攻撃を受けるとカウントが0に戻る】


【サクリファイス/一時的に最大HPを20%上昇させる。5min継続(効果時間後、最大HPが10min半減する)※要詠唱】


 二つともピーキーな地雷職らしい尖ったスキルだ。


 ブラッディソウルはパッシブスキルで戦闘中にHPを失えば失うほど攻撃力が上がっていく。デメリットは特になく、クリティカル攻撃を受けるとカウントが0になる。


(コメントによると……かなりのHPを消費しないと最大値にはならないっぽいね。長期戦になると有利ってことかな?)


 愛美が有識者のコメントを見てふんふんと腕を組む。


 サクリファイスはHPの最大値を一時的に上げる暗黒騎士らしいスキルだ。強スキルのため、代償として十分間のHP最大値半減のデバフがセットになっている。ここぞという場面で使うスキルだろう。


(【血死の一撃・殺】と一緒に使ったらえらいことになりそうだね。いいなぁ、攻撃力はすべてを解決するよ)


「完全な脳筋仕様だよね」


 メリッサがあきらめた顔で言った。


「でもメリッサ、戦ってるとき楽しそうだよ。ユー、いい加減認めちゃいなよ」


 愛美が冗談めかして下手くそなウインクとともに人差し指を向ける。


「まあ、うん。楽しいのは楽しいけど……でももうちょっとだけ可愛さがな〜」


 メリッサが大魔狼の大剣をブン、ブン、と振ってみせる。


「転職で装備がグレードアップするのもウィキで知ってたけど……まあ、全身鎧とかより全然いいかな。女性バージョンだとこんな感じなんだね」


 転職ボーナスで装備品が漆黒の胸当て、漆黒のレオタード、紅血の鉄靴に変化している。


 新しい装備が見習い暗黒騎士よりもエロカッコいいせいで、コメント欄は大盛り上がりだ。胸当てやレオタードに付属している腰当てなどは金属製でゴツくいかめしいのに対し、肩付近と下半身の露出が多い。


 メリッサのスタイルが良く、健康的であるため禍々しい装備のわりに爽やかな印象を受けるのは不思議だった。


 こうして無事メリッサの暗黒騎士への転職お披露目は大盛況で終わり、愛美たちは軽く魔物を討伐して暗黒騎士の力を確かめ、その後は牧歌的な村を背景に雑談配信をした。


      ◯


「ハァ……ハァ……お宝探しに犠牲は付きものってね」


 つい先日、下級職である盗賊から転職し、上級職のトレジャーハンターになったプレイヤーは『悲劇の地下墳墓』と呼ばれる地下迷宮から逃走していた。


 ホープシティからほど近い場所にあるこの迷宮は一ヶ月前に発見され、効率の良い換金アイテムが獲得できることから最前線プレイヤーから金策に走るプレイヤーまで、人気の場所になっている。


 しかし、タチの悪い罠と無限に湧いてくるアンデッドモンスターのせいで難易度は高く、多くのプレイヤーが目の前のゴールドに目がくらんでデスを繰り返していた。


 蘇生料金を支払っても効率がいいとネット上では盛んに意見交換がされており、死に戻りがもっとも手っ取り早い帰還方法でもあった。


「俺だけでも……生きて帰るぜ」


 トレジャーハンターは武装したスケルトンソルジャーに他のパーティーメンバーがデスされ、逃げている真っ最中であった。


 攻略組と呼ばれる最前線を走るトレジャーハンターは職種の敏捷性を活かして迷宮内を駆けていく。逃走用特殊アイテムのけむりだまを使い、なるべく戦闘を避けてどうにか上層階へ跳躍できるテレポーター魔法陣にたどり着いた。


 ようやく見えた安全圏へ向かう魔法陣に安堵し、トレジャーハンターは深く息を吐いた。


 そのときだった。


 魔法陣の背後にある壁の中からじわじわと黒い闇が滲み出てきて、無形から人の形へと変化していった。


「チッ……徘徊モンスターか」


 トレジャーハンターは躊躇なくけむりだまを地面に叩きつけ、魔法陣へと疾走する。


 人の形へ変化した黒い闇はその瞳を朱色に輝かせた。


 けむりだまの効果で煙に包まれる中、トレジャーハンターは二つの赤い光を視認し、その直後に全身が硬直して体が迷宮の床に叩きつけられた。不意打ちとなる衝撃にHPバーが減り、ダメージエフェクトが散る。


「……ぐッ……!」


 トレジャーハンターは職業における強力なスキル【偽装撤退】を使おうとしたが、スキルが発動する前に漆黒の波動が全身を貫いた。致命傷を演出するエフェクトとともに、生き残りのトレジャーハンターは迷宮から姿を消した。


 ――『悲劇の地下墳墓』内部でプレイヤー一万人がデスしました。


 ――生贄の魂が迷宮に吸収され器が満たされました。


 ――エリアボス・墳墓の墓守が死霊の王へクラスチェンジ。


 ――現時刻をもってワールドクエストが開始されます。






―――――――――――――

読者皆様


 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます!

 また、更新が途切れてしまい申し訳ありません。


 本作ですが……光栄なことにコミカライズが決定いたしました!!!

 これも皆様のおかげです!

 いつも本当にありがとうございます。


 コミカライズの関係上、一度WEBの更新はストップして進み具合などを見て掲載をしたいと思います。

 設定なども少し変更するかもしれません。

 その際はまた報告をしたいと思いますのでよろしくお願いいたします。


 コミカライズの媒体なども追ってご連絡差し上げます。


 それでは引き続き本作をよろしくお願い申し上げますm(_ _)m


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HP5ですけど自動治癒(オートヒール)があれば死にません! 四葉夕卜 @yutoyotsuba

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