第23話 メリッサ紹介と巣穴での戦闘
美少女、金髪碧眼ツインテール、見習い暗黒騎士という個性特盛りのメリッサの登場に、コメント欄が一瞬静まり返り、数秒で騒がしくなった。
『まっww 死ぬほど可愛いんだがwww』
『エロ可愛いww』
『足ながっw 顔ちっさw』
『キャラクリで外国人っぽくしてる? めっちゃ美人』
『騒ぐほどか? キャラクリでどうにでもなるだろ』
『元が良くないとここまで完全体にならない』
『ニッケ:大好物』
『ニッケ姉さんwww』
『黒髪正統派ボブと金髪ツインテールとか俺得ッ』
『美少女に無骨な鎧はロマンのかたまり』
予想よりも騒がしくなったコメント欄にメリッサがちょっと引き気味だ。
愛美はこうなると予想できていたのか、そうだよねそうだよねとご意見番よろしく腕を組んでうなずいた。
「私がフランスに四ヶ月いたとき、メリッサと仲良くなったんだよ。あ、メリッサはお母さんがフランス人でお父さんが日本人ね」
「ボンジュール、はじめまして。メリッサです。これからアイミと一緒に冒険するからよろしくね。まあ私はおまけって感じでいいからね」
「何言ってるのメリッサ。メインだよメイン。メリッサがメインに決まってるじゃん」
「恥ずかしいチャンネル名のメインになるのはちょっと……」
「あ〜、ひどいよ! 黒歴史をいじらないで!」
やいのやいのと言い合う愛美とメリッサ。
それを見ていた視聴者たちは全員が画面越しににっこりと笑顔を浮かべた。
『仲いいんだな』
『ズッ友が見つかってよかった』
『なんでイイネって一回しか押せないの?』
再会の経緯と軽い自己紹介が済むと、メリッサの職業の話になった。
「私は見習い暗黒騎士だよ。これしか出なかったの。本当はジャポンアニメみたいな魔法少女になりたかったのに……」
ため息をついてメリッサが言うと、見習い聖女、見習い暗黒騎士の地雷職コンビにまたコメント欄が盛り上がった。
話は簡単に切り上げ、ホーンラビットの巣を討伐すると伝えてカメラで状況を映す。
地面が白くなるぐらいホーンラビットがいる光景に、巣を知らない視聴者は驚いた。
『フルパーティーで推奨レベル10じゃなかった?』
『大丈夫か!?』
『【自動治癒(オートヒール)】と暗黒騎士のシナジー効果、ワクワクすぎるんだが』
『どゆこと?』
『暗黒騎士は攻撃するとHPを消費するクソ燃費の悪い地雷職。その代わり攻撃力は全職一と言われている。ユニークスキル【自動治癒(オートヒール)】で常に回復する暗黒騎士が登場したら?』
『……ごくり』
「じゃあいくよ。【自動治癒(オートヒール)】!」
愛美が杖を振り、淡い光がメリッサを包む。
ログを見るとメリッサのHPに回復が入っていた。
「あ……ちょっとMPの減りが早いかも」
愛美はステータスバーを見て言った。
「そうなの?」
「うん。自分にかけるより、気持ち減りが早いね。あと回復速度が落ちてるかも?」
「あまりに回復速度が高いとアタッカーが延々と0回復できちゃうから、運営が調整しているのかもね。それにしても十分すぎる回復だけど」
メリッサも自身のログを見ているのか、【自動治癒(オートヒール)】の壊れっぷりに半笑いだ。
「これなら無双できそう」
メリッサが大剣を構える。
愛美も杖を構え直し、うなずいた。
「それじゃ行くよ!」
「うん! 【クイック】!」
愛美がかけた【クイック】が合図になり、メリッサがすり鉢状の広場に飛び出した。
愛美も飛び出し、メリッサの後に続く。
下が芝生なので走りやすい。
ホーンラビットが一斉に二人に視線を向け、先行しているメリッサに体当たりを食らわせた。
「【プロテクト】!」
愛美の杖から防御魔法がメリッサに飛ぶ。
――9、7、10,9ダメージ
大量のホーンラビットから攻撃を受け、メリッサがダメージを受けるが【自動治癒(オートヒール)】が数秒で完全回復させてしまう。
「はっ!」
メリッサが大剣を振り回してホーンラビットにカウンターを入れる。
二匹ほどが光の粒子になった。
見習い暗黒騎士のパッシブスキル【血撃】でHPバーが二割ほど削れ、こちらも【自動治癒(オートヒール)】で回復された。
「ユニークスキル凄すぎる! これなら斬りまくっても平気!」
メリッサが笑いながら、ぽんぽんと飛んでくるホーンラビットをボールのように打ち返して光の粒子に変えていく。
金髪ツインテールが揺れるたびに、コメント欄は大盛り上がりだ。
『見習い暗黒騎士TUEEEE!』
『これでレベル6?! 俺レベル10の軽戦士だけど一撃じゃ倒せん』
『攻撃で減ったHPが回復してる! 【自動治癒(オートヒール)】ヤバすぎる!』
愛美にもホーンラビットが攻撃をしてくるが、【自動治癒(オートヒール)】で完全に無効化できている。
愛美は【クイック】と【プロテクト】が切れないように気をつけながら、メリッサを援護する。
楽しそうなメリッサを見て、愛美は目を輝かせた。
「メリッサいい感じだよ! カッコいいよ!」
「本当は可愛くなりたかった」
大剣を振りながらメリッサが叫ぶ。
ホーンラビットが光の粒子になり、減ったHPは【自動治癒(オートヒール)】で自動回復する。
次々にホーンラビットが体当たりをしてくるが、メリッサは【自動治癒(オートヒール)】の回復量を見て防御はいらないと割り切り、大剣を振り続けた。
『防御無視のバーサーカースタイルw』
『魔法少女になりたかった子のムーブじゃねえww』
『こっちも脳筋か?!』
『ニッケ:しゅき』
『ニッケ姉さんwwww』
すり鉢状の広場にいたホーンラビットを倒すと、周囲が静まり返った。
「もう終わり?」
愛美が言うと同時に、点在していた巣からホーンラビットが大量に飛び出した。
巣から射出されたかのように、空をホーンラビットが覆い尽くす。
敵の狙いはメリッサだ。
『第二段階!』
『ここで魔法の範囲攻撃を使うのが定石』
「メリッサ、よけて!」
大軍によって放たれた大量の弓矢のように、白いウサギがその角を凶器として落下してくる。
「大丈夫。それよりも、あとで笑わないでよね」
メリッサは苦い顔つきでそう言い、大剣の柄を腰に当てる。
「私の血で……地獄へ落ちる栄誉をあげる――【ブラッドサークル】」
詠唱とともに一回転して大剣で宙を薙いだ。
HP50を消費する範囲攻撃【ブラッドサークル】が発動。
液体が飛び散る凄惨な効果音と同時に血しぶきが円形に広がり、血に触れたホーンラビットが数十体吹き飛ばされて光の粒子になった。
『範囲攻撃きたっっ!』
『……カッコいい。ほんまカッコいい』
『ツインテールがくるんってなるのたまらん』
『メリッサ氏の上から目線。拙者、悶絶』
『ニッケ:今どこ? すぐ行く』
『会いに行こうとすんなww』
『メリッサちゃんマジでカッコいいな。美少女なのにイケメンに見えてきた』
「詠唱しないと発動しない仕様ホントやだ。血が飛び出るの全然可愛くない」
メリッサは文句を言って頬をちょっと赤くしている。
「メリッサ、ナイス! 恥ずかしいのは、なんかドンマイ!」
愛美は切れかかった【クイック】をメリッサに飛ばしてエールを送る。
「あ〜、もう。詠唱が厨二すぎない!?」
『いやいや言わされてる感じたまらないです。ありがとうございます』
『今後のスキル詠唱にも期待してます!』
『ニッケ:今出た。すぐ行く』
『姉さんwww』
『草wwww』
視聴者が盛り上がるあいだにも、撃ち漏らしたホーンラビットが次々と体当たりをしてくる。
第二段階と言うだけあり、ここからが本番のようだ。
メリッサは半分以下になったHPバーを見ながらホーンラビットを倒していく。
数が多すぎて【自動治癒(オートヒール)】の回復が間に合わなくなってきた。じりじりとHPが減っていく。
(回復も入れたほうがよさそう)
「【治癒(ヒール)】!」
愛美が【治癒(ヒール)】を飛ばして、メリッサを回復する。
メリッサのHPバーが満タンになった。
「ありがと! 魔力半端ないね」
「未来の聖女なんで。世界救っちゃう予定なんで」
愛美のドヤ顔がカメラにドアップで映る。
調子に乗るなとコメントが飛ぶが、愛美は戦闘中はほとんどコメント欄を見ていない。
ホーンラビットたちのヘイトがメリッサから愛美へと移り、一斉にホーンラビットが愛美に噛み付いた。
一匹、二匹と噛みつかれて、愛美の身体が白いもこもこに覆われていく。
「あっ、ちょっと、ああ! 前が見えない! 助けて!」
――36、28、33、35ダメージ
ダメージログが連続で流れるが【自動治癒(オートヒール)】が押し返す。
二十匹にのしかかられて転倒し、白いもこもこ人間が誕生した。
『調子に乗った罰ww』
『これでデスしないヒーラーがおかしいんだよな。俺はデスった』
メリッサがすぐに【ブラッドサークル】で倒して、事なきを得た。
「危なかった。窒息するかと思ったよ」
「もう終わりみたい」
メリッサが最後の一匹を大剣で斬って、愛美の手を取って立ち上がらせた。
『おめでとう!』
『二人で巣の駆逐はすげえわ』
『おめ!!!!!』
称賛のコメントが流れるも、メリッサが大剣を地面に刺して怪訝な表情になった。
「クリアのログが流れないね。愛美、どう?」
「私も流れてないよ」
愛美はステータス画面を確認した。
過去ログを見てもクリアの文字はない。
何かに気づいたメリッサが瞳を大きく開き、鋭く愛美に指示を出した。
「MPポーションで回復入れて! ヤバいかも!」
「了解!」
なぜとは聞かずに愛美がアイテムボックスからMPポーションを取り出して使う。
残り二割近くまで減っていたMPが六割付近まで回復した。
『中心部! なんか土が盛り上がってるぞ!』
「……特殊ボス引いちゃったかも」
メリッサがコメントを見つけて愛美を守るようにして前に出る。
「特殊ボス?」
すり鉢状の広場の中心部にあった巣穴が大きくせり上がり、土を撒き散らしながら白くて巨大な生物が飛び出してきた。
――特殊ボス・クールニクス出現!
『クールニクスじゃねえか!』
『出現率1%だぞ。運が悪い!』
愛美とメリッサの前には、二足歩行をした目つきの悪いホーンラビットが佇んでいた。
体長三メートル。ウサギとは思えない鋭い牙が口から飛び出し、四肢は丸みを帯びているが筋肉がぎっしりと詰まっているのか盛り上がっている。両手には容易く肉を切り裂くであろう巨大な鉤爪がついていた。
「なんかいやーな予感?」
愛美は顔を引きつらせ、杖を胸元に引きよせた。
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