第22話 ホーンラビットの巣穴
――特殊ステージ『ホーンラビットの巣穴』
――CAUTION! 敵を殲滅するまでステージから出られません!
「全部倒すまで出られないって」
愛美は出現したログを見てちょっと焦る。
「いい経験値稼ぎになるでしょ」
一方、メリッサは下調べをしてきたのか、余裕の表情だ。
「メリッサ、今のなんかカッコいいよ。暗黒騎士っぽい」
「心は可愛い魔法少女だから」
メリッサは不服そうにつぶやき、背から大剣を抜いた。
愛美は暗黒騎士の装備も似合ってるけどなと言いつつ、杖を構えて【自動治癒(オートヒール)】をまずは自分にかけ直した。
移動中も継続して使っているが、気持ち的にかけ直しておきたい。
学校のグラウンドほどありそうな大きなすり鉢状の広場を見下ろし、愛美は百匹以上はいそうなホーンラビットたちを眺めた。
こちらには気づいているが、攻撃してくる様子はない。
入り口付近は安全地帯になっているようだ。
「メリッサ、【自動治癒(オートヒール)】かけるよ?」
「頼りにしてるよ、相棒」
メリッサが嬉しそうにうなずく。
愛美はフランスにいた頃、同じ言葉をメリッサに言われたことを思い出して、にんまりと笑みを浮かべた。
「あのときとは違うけどね」
愛美はメリッサに勧誘されて、四ヶ月間フェンシングをやっていた。
伸び悩んでいたメリッサにとって初心者の愛美の動きは最初こそ参考にならなかったが、愛美の運動神経の良さと謎の勝負強さから、最終的には団体戦に出場するまでになり、精神面で大いに触発された。
また、愛美は他のクラスメイトと違って日本アニメに詳しく、何度もお泊まり会をして何時間も語り合った。
メリッサにとって愛美はまさに相棒と呼べる存在だった。
「まさか愛美がヒーラーとはね。剣士でもやっているかと思った。驚きだよ」
「清楚な私にはぴったりでしょ」
「うーん、黙ってれば清楚なんだけどね〜」
「ひっどいなぁ!」
メリッサに言われ、愛美が嬉しそうに抗議する。
「メリッサは細身の剣を使うイメージがあったよ。大剣も似合ってるけど」
「どんな剣も基本は一緒でしょ。相手より早く斬る。先にキルする」
「魔法少女の思考じゃないよ、それ」
見た目と違って脳筋なメリッサに対し、今度は愛美がツッコミを入れる。
「可愛い少女には敵が多いのっ」
メリッサが可愛い口調で言ってウインクする。
全然ごまかせていないが、本当に可愛いので愛美はすべてを良しとした。
「それで、配信はしないの?」
メリッサが聞いてきた。
「いいの? メリッサ、モデルのスカウトとか断ってるじゃん。人前に出たくないんじゃないの?」
フランスで何度かスカウトされるのを見てきた愛美が確認する。
メリッサはピンク色の唇をすぼめて逡巡し、肩をすくめた。
「人前に出るのは嫌いじゃないよ。モデルに興味がなかっただけで」
「そうなんだ」
「愛美は他のズッ友も探すんでしょう? これからパーティー組むんだし、お手伝いさせてよ」
「メリッサ〜」
愛美はメリッサに抱きついて、ぐりぐりと顔を首筋にこすりつけた。
メリッサは前から面倒見がよく、人のやっていることを尊重してくれる。そんな懐の深い性格が変わっていなくて愛美は嬉しくなった。
「メリッサ好き〜、じゅて〜む」
「ちょっと、くすぐったいからやめて!」
「めるしー、めるしー」
「何がありがとうなの! もう!」
ふがふが言いながら顔をこすりつける、割とウザい絡みをしてくる愛美を引き剥がして、メリッサが首をさすりながら顔を赤くした。
「配信中はやらないでよね。首弱いんだから」
「ごちそうさまです。めるしー」
「次やったら頭割るよ?」
「すみませんでした」
大剣を見せられて、愛美は深々と謝罪をした。
気を取り直してステータス画面を開き、動画配信をオンにする。
宙に浮いたカメラにメリッサを映さないようにお願いして、まずは自分一人だけで配信をスタートした。
ゲリラライブにもかかわらず、数分で同接が400まで増加する。
「人気だねー。愛美の配信面白いもんね」
メリッサが小声でつぶやく。
愛美は『待ってました』『おつです』というコメントが流れるのを確認して、カメラに目線を向けた。
「皆さんこんにちは! いきなりですけど今日も配信したいと思います!」
『休日にありがとう! 配信してほしかった!』
『次は告知お願いします。見逃したくないので』
『最近の生きがい』
コメントに返答をして、愛美は笑みをこぼした。
「皆さんにご報告がありまして……。なんと、探していたズッ友と再会できました! 本当に本当に皆さんのおかげです! ありがとうございます!」
『ズッ友と会えたんか!』
『おおおお! おめでとう!』
『よかったね!』
『おっちゃんもニッコリ』
『ニッケ:今度紹介してね。いつでもアクセサリ作ってあげる』
『ニッケ姉さん、アイミちゃんのチャンネルに張り付いている説w』
おめでとう、という祝福の言葉でコメントがあふれる。
「無事にパーティーを組みました! 私もぼっちじゃありませんよ」
『よかった』
『あのままじゃ狩猟の森を抜けられなかったからな』
『職業が気になるな』
『どんな子なの?』
「ということで、紹介したいと思います。どうぞ!」
愛美が片手を広げると、カメラの背後にいたメリッサが移動して隣に並んだ。
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